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【22-32】年間生産量1500億立方米、1兆元規模のバイオ天然ガス市場を構築中

李 禾(科技日報記者) 2022年11月14日

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画像提供:視覚中国

 山西省朔州市応県にある陶磁器メーカーの生産ラインで使用している天然ガスの一部はバイオ燃料の一種であるバイオ天然ガスだ。それは、応県で稼働開始しているバイオ天然ガス工業直接供給プロジェクトから提供されている。同プロジェクトでは、牛の糞といった家畜糞尿を原料とし、中温メタン発酵、浄化・精製といった技術を採用して、メタン濃度が98%にも達するバイオ天然ガスを生成し、ガスパイプライン網を通して応県の陶磁器産業クラスターに直接供給している。同プロジェクト二期が現在、急ピッチで進められており、一期をベースに前処理システムや嫌気性消化槽を増やしており、わら、生ごみといった有機性廃棄物を活用できるようになっている。

 バイオ燃料とは、バイオマスを原料として生産した可燃性ガスで、メタンや水素、一酸化炭素が主な成分だ。中国産業発展促進会バイオマスエネルギー産業分会の張大勇事務局長はこのほど、科技日報の取材に対して、「バイオ燃料が発展すると、都市部・農村部の各種有機性廃棄物が原因の環境汚染問題を解決できるだけでなく、農業循環経済モデルを構築することで、近代農業を発展させ、農村振興を全面的に推し進めることができる。バイオ燃料は生産の過程で、二酸化炭素(CO2)総排出量が増えないため、化石燃料の代わりに使用すると、二酸化炭素の排出量を大幅に減らすことができ、『CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラル』の目標を達成する有効な手段の一つとなる」との見方を示した。

ゴミが宝に 有機性廃棄物からグリーンガス生産

 製法によって、バイオ燃料は、バイオ天然ガス(バイオガス)、バイオマス熱分解ガス、バイオマス水素などに分けることができる。

 バイオ天然ガスは、家畜糞尿、農作物のわら、都市部の生ごみなどの有機性廃棄物、有機性産業廃棄物などを原料にし、メタン発酵を通してバイオガスを生産し、浄化・精製を経て、一般的な天然ガスと成分・発熱量が全く同じで、かつグリーン・低炭素なクリーン再生可能ガスだ。

 バイオマス熱分解ガスとは、熱化学反応を通して、わらや果樹の剪定で発生した枝葉、有機性廃棄物といったバイオマスから変換した可燃性ガスで、同時にはバイオ炭、木酢液といった副産物も生成される。浄化後の熱分解ガスの有効成分は主に、一酸化炭素、水素、メタンで、調理、集中暖房供給、発電、メタノールを含む化学工業製品の生産などに使うことができる。

 バイオ水素は、バイオマス装置を使って生産される。バイオマスから水素を生産する方法には、バイオマスを熱分解、ガス化し、水素に変換する方法、バイオマスを高温下で直接ガス化し水素を得る方法、バイオマスを超臨界水によりガス化し、水素を得る方法などがある。

 中国のバイオマス熱分解ガス化業界はスタートこそ早かったものの、「規模の経済」は依然として形成されていない。また、中国のバイオマス水素生産は依然として実験室の段階に留まっている。中国農業大学の程序教授は、「中国では現在、バイオ天然ガス技術がほぼ成熟し、産業化発展の条件を整えている」との見方を示す。

資源が豊富な中国のバイオ天然ガス市場はポテンシャルが巨大

 張事務局長は、「中国のバイオ天然ガス産業は2015年から発展が始まり、既に一定規模になっている」と説明する。

 統計によると、2020年、中国のバイオマスエネルギー産業の新規投資額は約1960億元(1元は約20.4円)に達した。うち、バイオ天然ガスの新規投資額は約120億元だった。ざっと見積もって、中国のバイオ天然ガスは年間1500--2000億立方メートル生産できるポテンシャルがあり、市場の投資は1兆元規模に達する可能性がある。現時点の年間生産量は約3億立方メートルで、発展のポテンシャルは巨大だ。中国政府の「バイオ天然ガス産業化発展促進に関する指導的意見」は、2025年までに、バイオ天然ガスの年間生産量を100億立方メートル以上にし、2030年までに、200億立方メートル以上にするという目標を掲げている。原料の収集・貯蔵・輸送、プレ処理、発酵・転化、浄化・精製、ガス及び肥料輸送などを含めたバイオ天然ガスの関連施設、バイオ天然ガス製品、設備、サービス体制からなる産業チェーンが現在構築中だ。産業チェーンが形成されると、市場全体は1兆元以上の規模に達する見込みだ。

 程教授は、「中国はバイオ天然ガスの生産に使うことができる農作物のわらや家畜糞尿、食品残滓、農業副産物加工廃水といった、都市部と農村部の各種有機性廃棄物資源が豊富だ。中国全土に成功した注目プロジェクトが数多くある」との見方を示す。

 例えば、前出の応県で実施されているバイオ天然ガス工業直接供給プロジェクトでは、総合的な効果が現れている。

 同プロジェクトの完成後、牛の糞尿を年間20万トン処理して、バイオガスを1000万立方メートル以上生産し、炭素除去・精製を通して、バイオ天然ガスを460万立方メートル、バイオガススラリーを11万7000トン生産している。同プロジェクトの実施により、ゴミが宝になり、現地の環境問題が解決し、家畜糞尿資源化利用を加速的に推進するための重要な下支えの効果を発揮している。

 一方で、中国の東北地域では、中国石油天然ガス集団有限公司が大慶油田に設立したわらを使ったバイオ天然ガスのパイロット生産拠点は、最近安定した生産が行われている。6月6日、バイオガスの1日当たりの生産量が2000立方メートル以上に達した。そのメタン含有量は50%以上、バイオ天然ガスの純度は95%以上で、生産効率は国家基準の4倍に達し、主な効率指標は中国内外でトップクラスとなっている。

 2021年、中国の粉ミルク企業・飛鶴の産業クラスター「生態循環化総合利用プロジェクト」が本格的に稼働開始し、わらや家畜糞尿から、メタン発酵を通して、バイオ天然ガスと有機肥料を生産することができるようになった。黒竜江省チチハル市克東県の一地域だけで、バイオ天然ガスの年間生産量が700万立方メートルに達している。

課題に直面し、業界の発展を加速させるためには統一した計画が必要

 バイオ燃料は、中国の石油と天然ガスの不足を補い、今後のクリーンエネルギー体制構築を下支えすることもできる。バイオ燃料を発展させるというのは、中国の今と将来のエネルギー需要に対応する効果的な措置となる。

 しかし、張事務局長は、「中国のバイオ燃料産業はスタートしたばかりで、多くの課題に直面している。例えば、政策サポート体制は十分に整備されておらず、産業は発展初期の段階で、生産コストが高く、製品の利用という面ではある程度の市場の障壁が存在している。実施可能な政策を通して、製品を利用してもらえる環境づくりをする必要がある。原料の供給保障能力を高める必要もあり、『汚染源となった人が料金を負担』、『廃棄物を出した人が料金を負担』、『処理した人が益を受ける』という有償の処理メカニズムを構築しておらず、また、経済的に負担可能な原料収集保障モデルの模索が待たれる。関連の製造技術の水準も向上させる必要がある。中国のバイオ天然ガスメタン発酵技術と設備の大部分は現在、輸入に頼っており、中国の原料への適応度が低い。中国の国産設備は、システム全体の効率や安定性、信頼性といった面で、海外の先端水準とは開きがあり、カギとなる設備は輸入に依存している。そのため、プロジェクト全体の建設コストと運営コストが高くなっている。現時点で、バイオ燃料の生産コストが高く、1立方メートル当たり約3.2元。天然ガスは1立方メートル当たり1.8元の価格と比べると、逆に高くなっている」と指摘する。

 程教授も、「商業モデルがはっきりせず、産業チェーンが十分に整備されていないほか、ガス生成率も低い上、バイオガススラリーの処理が難しく、経済的ではないなどの要素が足かせとなっている。中国のバイオ天然ガスの新規投資は増加の一途をたどっているものの、新規生産量とは正比例していない」と指摘する。

 そのため、張事務局長は、「バイオ燃料の生産過程における重要技術の問題に関しては、企業を主体とし、科学研究機関をキャリアーとし、業界が統一して難関攻略の展開を計画し、業界の発展に合わせて、業界に認められた、ハイレベルで、知名度の高い設備メーカーを複数誕生させるべきだ。このほか、業界は、国家グリーン発展基金などを導入して、さらに多くの社会資本が参入し、業界の発展が加速するように誘導する必要がある」との見方を示す。

 そして、「業界基準を制定し、検査認証体制を構築すべきだ。中国のバイオ燃料の業界基準はまだ整備が進んでおらず、工程設計、施工・建設、運営・管理、ガスパイプラインへの接続、汚染物質排出、設備製造といった産業チェーンの各部分をカバーする工業化基準を制定・実施し、プロジェクト、企業、製品の認証といった認証体制を構築し、業界の検査認証センターを設立し、業界の発展水準を引き上げることが急務。当分会は現在、関連基準を制定しているほか、ゼロカーボンエネルギー認証プラットフォームなどを設置し、業界の発展を規範化している」と説明する。


※本稿は、科技日報「開発潜力超1500億立方米 生物天然気万億級市場正在形成」(2022年9月22日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。