【22-43】自然の景色だけでなく経済的価値もある湿地へ
葉 青 (科技日報記者) 2022年12月09日
広州市内中心部にある「緑地」--海珠湿地。画像提供:取材先
アオサギの群れが翼を大きく広げて飛び回ったり、水辺で気の向くままに歩き回ったり、立ち止まって休んだり、巣を作ったりと、広州海珠湿地では、生息している水鳥たちの優雅な姿が見られる。
渡り鳥が飛来してくる10月になると、広州はバードウォッチングのベストシーズンとなる。「アオサギが1羽、2羽、3羽......。多すぎて、数え切れない」。広州市内の中心部にある海珠湿地バードウォッチングロードに来ていた楽楽ちゃんはとても楽しそうにバードウォッチングをしていた。海珠湿地の近くに住む楽楽ちゃん一家は、時間ができるとバードウォッチングに来ているという。母親は、「ここ数年、鳥の数がどんどん増えていると実感している。見たことのない渡り鳥に遭遇することも時々ある」と話す。
どのように生態系保全・修復を推進し、超大都市の生物多様性保全空間体系を整備するかというのが、中国が生態系修復という分野で解決が急務な問題となっている。海珠湿地は10年という模索期間を経て、都市中心部にある湿地の生物多様性を保全・修復する道を歩み始めた。これは、広州市がイノベーション、協調、グリーン、開放、共有をテーマとする新たな発展理念を徹底することで見つけ出した、経済発展と生態系保全のバランスをうまく取った湿地生態系保全の道だ。
10年で鳥類の種類が2倍以上に
広州は、南嶺山地が珠江河口への移行地帯に位置し、とりわけ恵まれた「山、水、森、田んぼ、湖、海」という自然資源があり、川の水系が発達し、多種多様な湿地が育まれている。最近実施された湿地資源調査によると、広州市の湿地面積は計約7万ヘクタール余りとなっている。
では、超大都市としての広州は、経済発展と生態系保全のバランスをどのようにうまく取り、人と自然が調和よく共生できるようにすればいいのだろうか?海珠湿地を代表とする広州湿地公園はその答えを探し求める道を歩み始めた。
海珠湿地は、世界でも屈指の超大都市である広州の中心部にあり、その中軸線に埋め込まれた「グリーンの宝石」であるというのが際立つ特徴となっている。2012年、広州市政府は、約733ヘクタールの果樹園の集団農用地を国有化するとともに、立法を通してその土地の農用地としての性質を守り、保護区内における全ての商業開発建設活動を禁止し、湿地を保護するための基礎を固めた。こうして、広州の「グリーンの宝石」の保護という新紀元を拓いた。
広州市都市計画調査測量設計研究院の景観・観光計画設計所の胡峰所長は、「人と自然の調和、共生を徹底し、都市を有機的な生命体と見なし、生態系の優位性を発展の原動力に変えてきた」と説明する。
海珠湿地は、各種生物のために「食、住、移動、休憩」という4つのシチュエーションを作り出し、果実、稲、虫、魚、鳥からなる生態系チェーンが構築されている。また、水鳥の行動パターンに合わせて生息地が設計され、同湿地の4つの鳥島の鳥類の生息面積が2万2989平方メートル増えたほか、各種水鳥の足の長さやくちばしの長さ、首の長さなどの身体特徴に合わせて、適切な深さがあり、安心して飛んだり降りたりするができる5.3ヘクタールの「水鳥食堂」を作り出した。同湿地は、渡り鳥が立ち寄る「中継地」から、「エネルギー補給ポイント」へとグレードアップした。
こうした修復案が功を奏し、海珠湿地の生物多様性は年々高まっている。ここ2年近く、海珠湿地では、Sphenoraia (Sphenoraioides) haizhuensis sp. NovとFalsonnanocerus haizhuensisという、世界的な新種の昆虫が2種類発見された。また、中国として新科1科、新属3属を含む新種9種が初めて確認そして記録された。また、鳥類の個体群は、10年の間に77種から187種と2.42倍増えた。海珠湿地では現在、サギの群れが飛び回る光景が「ありふれた光景」となっている。
「都市公園」が「グリーンの園」に
湿地保全は、都市の発展にとってどんな意義があるのだろう?暨南大学資源環境・持続可能な発展研究所の所長を務める中国自然資源学会資源経済専門委員会の傅京燕副会長は、「湿地の保護、建設は、生物多様性の高まりを促進し、良好な生態的価値が生まれている」と説明する。
そして、「生態系が守られている場所はその生態系機能を発揮して、特定の災害あるいはそれに関連する環境現象がもたらす経済的損失を減らしてくれる。これも、経済的価値の一種だ」とし、「湿地の独特な生態系機能は、都市の持続可能な発展をバックアップし、都市は生態系ボーナスを放出し、新型産業を呼び込むことができる。特に、デジタル経済、クリエイティブ経済といった関連産業がエリア内に集まり、発展することができる」と強調する。
胡所長は、「海珠湿地は都市に、全面的な生態系サービスを提供し、8種類の生態的な方法を通して、周辺10平方キロメートルの水害、汚染、ヒートアイランドといった問題が永続的に調節・改善されている。『グリーンで顔面偏差値が高い』だけでなく、経済的価値も高いため、世界に再現可能で、推進することのできるモデルケースを提供している」との見方を示す。
「都市公園」が「グリーンの家」に変わり、市民は海珠湿地で繁栄した都市と自然の生態系が「コラボレーション」する美しい景色を堪能することができるようになっている。
広州市海珠区湿地保護管理弁公室の蔡瑩室長は、「海珠湿地で科学研究プロジェクト90件余りを展開し、粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深セン、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、澳門<マカオ>両特別行政区によって構成される都市圏)都市群生態系ステーションの建設を強化し、複数分野の複数の側が参加する科学研究モニタリング体系を形成し、都市と湿地の協同発展の研究に、『科学的サンプル』を提供している」と説明する。
湿地は、「千年の花の都」とも呼ばれる広州に潤いをもたらし、人と自然が調和よく共生する美しい景色が広がっている。
広州市林業・園林局の呉敏副局長は、「当市は湿地公園をメインに、湿地保護エリア、自然保護区、森林公園、水産遺伝資源保護区、飲用水水源保護区といった保護形式を補完とする湿地保護体系を構築している。現時点で、湿地公園25ヶ所(うち国家湿地公園が2ヶ所)、湿地保護エリアが32ヶ所、自然保護地が89ヶ所ある」と説明した。
広州は、自然回復をメインに、自然回復と人工修復を組み合わせる原則を堅持し、マングローブ林、湿地公園、湿地保護エリアといった重点エリアの生態系修復を推し進め、生物的、物理的措置を通して、湿地生態系を修復・再建し、3800ヘクタールを修復し、湿地生態系機能を効果的に向上させると同時に、人々に憩いの場と科学教育、科学研究を実施するスペース・プラットフォームを提供している。
生態系の優位性を発展の優位性に転化
海珠湿地を代表として、広州は異なるタイプの湿地を対象に、湿地の生態系修復の実践を模索し、特色あふれる生態系修復案を確立し、中国の他の地域にモデルケースを提供している。海珠湿地や花都湖湿地、南沙湿地といった湿地生態系機能は継続的に向上し、生物種の多様性が高まり続け、湿地保護修復モデルとなっている。
各ポイントの最新モニタリングデータによると、広州市の湿地内には維管束植物835種類、動物1208種類がある。うち、昆虫が738種類、鳥類が187種類となっている。
広州は湿地保全・修復、生態価値を転化するルートを積極的に模索する姿勢が特に際立ち、各地の実情を踏まえて、地域ごとの措置を講じ、市民に良質なレクリエーション・憩いの場となる自然の美しい場所とサービスを提供しているだけでなく、周辺地域のビジネス環境水準も向上し、湿地保全・修復を通して都市発展に寄与するという新たな道を歩み、生態系保全と経済発展の「ウィンウィン」を実現している。
広州南部の「生態装置」としての南沙湿地は、「南沙案」の実施を推し進めるために、生態系グリーンコアという下支えを提供している。
花都湖湿地は、山肌がむき出しになっている採石場から、シラサギが水辺で戯れ、草木が茂る美しい国家湿地公園への変身を遂げ、年間1千万人近くの観光客が訪れるようになった。
天河湿地公園は、「スポンジシティ」という理念に基づき、雨水を吸収し、蓄え、浄化して、使用、排出する総合措置を通して、水質浄化、雨水貯蔵・調整、レクリエーション・科学教育などが一体となった多機能スマート湿地を構築し、天河スマートシティの生態系の基盤を築いている。
クロツラヘラサギ、セグロカモメの群れが都市中心部の麓湖景勝地に飛来し、カワウソ、ベンガルヤマネコ、インドキョン、ハッカンといった、昔はたくさん生息した野生動物が再び市民の前に姿を現すなど、広州の生態環境が継続的に改善していることを物語っている。
※本稿は、科技日報「譲湿地既有"緑色顔値"又有"金色価値"」(2022年10月27日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。