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【23-09】市場の吸引力を1つにして経済成長を後押しせよ

閔傑/『中国新聞週刊』記者 及川佳織/翻訳 2023年01月31日

中国社会科学院金融研究所副所長・張明氏インタビュー

新興経済国の勃興は非常に困難だ。グローバル化に逆風が吹いても、それを支持し続けるべきだ。多様な環境を開放してこそ、追いつき、追い越すために有利になるからだ。

 中国経済は強靭で、十分な潜在力を持ち、成長の余地が大きい。長期的に成長するというベースは変わらない。中国の開かれた扉は、大きくなる一方だ」。中共中央の習近平(シー・ジンピン)総書記は、第20期中共中央政治局常務委員と国内外の記者との懇談の際、中国は改革開放の全面的な深化を継続し、質の高い発展を進め、中国の発展によって世界により多くのチャンスを生み出すと強調した。

 中国社会科学院金融研究所副所長で、国家金融・発展実験室副主任でもある張明(ジャン・ミン)氏によれば、中国経済が成功したのは、比較優位性と産業の継続的高度化によるもので、世界の貿易分業において上から下を助け、「双循環」の枠組みの中心的な役割を演じているとのことだ。

 中国を含む新興経済国は、これまで経済グローバル化の恩恵を受けてきた。過去40年にわたる改革開放は、別の新興経済国が発展を探る上で、貴重な事例と模範を提供した。しかし、新興経済国の勃興は非常に困難だ。グローバル化に逆風が吹いても、それを支持し続けるべきだ。多様な環境を開放してこそ、追いつき、追い越すために有利になるからだ。

記者:中国共産党第20回全国代表大会〔二十大〕の報告で、「産業チェーンとサプライチェーンの強靭さとセキュリティレベルを高める」ことが提起されました。これについて、現在の状況をどのように評価されますか。

張明:中国の産業チェーンとサプライチェーンの強靭さは、コロナ禍後に貴重な検証を経験しました。2020年初めにコロナ禍が起こってから、中国経済の伸びは継続し、月間貿易黒字が過去最高記録を更新し続けました。その理由は、中国政府がコロナ禍に素早く対応し、短期間に拡大を抑え込んだからです。世界にコロナ禍が蔓延した頃、中国企業だけが生産を再開していました。これによって、中国企業は短期間のうちに世界の産業チェーン・サプライチェーンのなかでの地位を大きく向上させました。今回の経験は、中国の産業チェーン・サプライチェーンの強靭さを証明しています。もちろん、中国は大衆向け商品、カギとなる原材料、コア部品などの面でまだ大きく輸入に頼っており、最終的な輸出先が欧米など先進国に集中していることは見ておく必要があります。

産業チェーン・サプライチェーンの強靭さとセキュリティレベルを上げる

記者:先生の研究チームが出版した『中国の上昇』(原題『中国攀昇』)では、世界経済は一貫して「中心対外周」の枠組みにあり、貿易、金融、投資体系の中心にいるのは先進国であり、新興国が新たな中心となる可能性は小さいと述べられています。しかし中国は、欧米など先進国主導の循環と発展途上国による循環のなかで、二重の中枢となっています。一部の西洋国家が相互のつながりを切っていますが、中国の中枢としての地位と機能に影響がありますか。

張明:その可能性は、確かにあります。新型コロナウイルスが広がり、多くの先進国が世界の産業チェーン・サプライチェーンへの依存度とその脆弱性に気づき、生産ネットワークの調整を始めました。将来の産業チェーン・サプライチェーンはローカル化、地域化、多元化に進むでしょう。これは実は、生産と貿易のグローバル化がある程度後退することを意味しており、これまで中国が持っていた中心としての地位は弱まる可能性があります。これにどう対応したらよいでしょうか。第1に、アジアの産業チェーンにおけるトップとしての地位を強化することです。第2に、RCEP〔地域的な包括的経済連携〕と「一帯一路」沿線国の産業チェーンにおける中心としての地位を強化することです。第3に、できる限り世界の産業チェーンの中枢の地位を維持することです。

記者:貿易と投資がグローバル化に逆行するなか、先生のおっしゃる「双循環」が混乱し、再び「中心対外周」モデルに戻ることはありませんか。

張明:今後の世界の生産と貿易がどう変化するか、依然として不透明です。グローバル化は単に停滞しているだけで、完全に逆転しているわけではありません。しかし一方で、世界の生産と貿易の一体化が、地域化、集団化に取って代わられる可能性も捨てきれません。この状況で、中国は自身の地域(たとえばアジア太平洋、RCEP、「一帯一路」など)で核心としての役割を強化し、同時に自発的に他の地域(たとえば欧米)の国と経済や金融面で積極的に連動していく必要があります。「双循環」と「中心対外周」は完全に別物ではなく、互いの中に互いがいるという関係です。将来、外部環境に変動やリスクがあっても、中国は世界の枠組みのなかで地位を上げるよう努力を続けるべきです。

記者:先生は、国内と海外の「双循環」による相互促進を実現するには、国内市場の持つ巨大な潜在力を利用し、「内需によって外需を動かす」ことが重要だと言っておられます。これと、従来の「国際大循環」モデルとの違い、あるいは新たな意味とは何でしょうか。

張明:「国際大循環」のカギは「外需によって内需を動かす」、「開放によって改革を推進する」でした。この発展モデルの背景は、中国の発展レベルが低く、多くの面で世界と差があることでした。こうしたなか、対外開放を進め、外国からの投資を誘致し、「原材料を大量に輸入して、完成品を大量に輸出する」という加工貿易を発展させ、安価な労働力という優位性を生かして外資を誘致し、中国を世界の工場にして経済発展を牽引しました。一方、これによって海外の先進的技術や管理経験、外部との競争を取り入れて、国内改革を促進したのです。先に述べた「双循環」が登場した背景は次のようなものです。第1に、外部環境が悪化し、世界の成長が鈍化し、停滞が生まれていること、第2に、中国の経済規模が昔とは異なり、外部に頼ることが難しくなったことです。こうしたなか、どのようにして国内改革を加速し、全国の統一的市場を作り上げるか、統一された市場の吸引力でどのように世界から様々な要素を取り込むか、「内需によって外需を動かす」、「改革下で開放を牽引する」、これが一定程度の経済発展を遂げ、外部環境が変化するなかでの重要な対応です。

中進国のわなを乗り越えるための2つの前提

記者:継続するコロナ禍と国際経済の低迷のなかで、新興経済国はどんな問題を解決すべきですか。

張明:現在、新興経済国が直面する課題には、少なくとも次のものがあります。第1に、コロナ禍が継続し、新株が広がっており、経済に影響するかもしれません。第2に、FRBの利上げと資産圧縮による世界金融の縮小や米国の長期金利上昇とドル高によって、新興経済国は国内資本流出、自国貨幣の価値下落、国内資産の大幅な縮小、対外債務の負担増などに直面しており、一部の国ではすでに事実上、債務危機、金融危機に陥っています。第3に、ロシアとウクライナの衝突が泥沼化し、世界の食糧とエネルギーの価格が高騰しています。こうしたコモディティーを輸入に頼る新興経済国にとっては打撃で、たとえば貿易条件の悪化、経常赤字の拡大、輸入型インフレなどの圧力が生まれています。

記者:発展途上国200国あまりのうち、少なくとも180カ国が中進国、低進国のわなから抜け出せていません。中国もまさにいまが中進国のわなから抜け出すための重要な時期にあります。「二十大」の報告では、「2020年から2035年に基本的に社会主義現代化を実現する」と言っています。この目標を踏まえて、中国が中進国のわなを抜け出す可能性をどうお考えですか。

張明:「二十大」報告では、2035年までに社会主義現代化を基本的に実現すると明言しており、1人当たりGDPを中進国のレベルにするという目標があります。事実これが、新興経済国が中進国のわなを脱却したかどうかの基準です。私は、これに対して十分可能だと自信を持っています。私たちがこのわなを抜け出る方法こそ、中国式現代化の実現なのです。つまり、中国共産党の指導と中国の特色ある社会主義を堅持し、質の高い発展を実現し、すべての段階で人民民主を発展させ、人民の精神世界を豊かにし、人民の共同富裕を実現させ、人と自然の調和のとれた共存を促進し、人類という運命共同体を建設することです。また、今後かなり長い間、比較的速い経済成長を維持し、系統的な金融危機の発生を避けることが、私たちが中進国のわなを脱却する前提条件となります。

記者:「二十大」報告では、再度「新たな発展の仕組み建設を加速し、質の高い発展を推進する」と述べています。これは中進国のわなを脱却するための方法論とみてよいでしょうか。

張明:新たな発展の仕組みと質の高い発展は、確かに中国の特色ある方法論だと思います。2008年の世界金融危機以降、特に2018年の中米貿易摩擦と2020年の新型コロナ発生後、世界的な長期停滞が顕著になり、地政学的な衝突と経済摩擦が頻発するようになりました。外部のニーズは低迷し、不安定で、私たちは国内市場の潜在力を発揮して経済成長を後押ししなければなりません。これはちょうど、「双循環」という枠組みのキーポイントでもあります。一方、改革開放40年にわたる高成長の後、高齢化の加速と国内のコスト上昇に伴い、今後は経済成長が鈍化するでしょう。こうしたなか、どのように成長の質を上げ、多くの人に成長を共有させ、質の高い発展を実現するかが、中国経済が今後も大きく発展するために必要な道です。

記者:先生は以前、消費の拡大とレベルアップを促進すること、産業構造の高度化と技術革新を促進すること、生産要素の自由な流動を促進して新たな地域一体化を進めることという「国内大循環」の3本柱を提起されました。この3つには少なからぬボトルネックがありますが、どうしたらこれを打破できるでしょうか。

張明:1つ目の柱のカギは、中・低所得層の収入をどう引き上げるかです。都市と農村の差、地域間の差、国民の各層間の収入差をなくし、様々な努力で共同富裕を実現するということです。2つ目の柱のカギは、知的財産権の保護強化、民間企業の成長の余地と発展への支援、ミクロ経済主体のイノベーション理念と環境の育成です。3つ目の柱のカギは、地方政府による国内市場の分割と要素流動に対する障壁をどう打破するかです。より深く考えると、地方政府の実績評価基準を調整し、市場分割を打破し、生産要素流動を促進することを奨励することが有効です。たとえば、地方政府の実績評価にある「GDP成長指標」を「1人当たりGDP成長指標」に変えることもよいでしょう。


※本稿は『月刊中国ニュース』2023年2月号(Vol.130)より転載したものである。