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【23-10】中国家電の2022年、キーワードは「ハイエンド化」「自動車」「レトルト食品」「買い替え」

2023年02月07日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より2020年まで中国雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?中国式災害対策技術読本」「中国のインターネット史:ワールドワイドウェブからの独立」(いずれも星海社新書)など。

 中国の家電企業として日本でも知られるハイアール、Midea(美的)、Hisense(海信)、TCLといった企業は、ゼロコロナ政策を実施していた2022年にどのように市場を開拓していたのかを紹介する。

 2022年の中国は、ゼロコロナ政策によって人が動けず消費が冷え込んだ。例えば2022年の年に一番消費するはずのECセール「双十一(ダブルイレブン。11月11日開催)」では、アリババや京東で例年出していたGMV(流通取引総額)を出さなかった。家電メーカーも不調ではあるが、全く解決策がないかというとそうでもなく、現状を打開するために動いている。

 2022年1月から9月までの中国の家電に絞った小売売上高は前年同期比6.1%減の5130億元というデータが出ている。全体的な需要は弱いが一方でハイエンド製品の売れ行きはいい。双十一期間の大手家電販売店蘇寧電器における5万元以上のハイエンド家電製品の売上は前年同期比139%増に。また双十一に続く6月18日のセールでも、1万元以上の家電の売上が37%増に。また大手ECサイト「京東(JD)」の双十一での中高級家電のGMVは前年比50%増加し、特にゲームやスポーツなどの激しい動きにも対応できるゲーミングテレビや、薄型冷蔵庫や健康除菌機能付洗濯機などの付加価値のある製品などが好調だった。もっともハイエンド製品は絶対的な販売量は少ないのでそこは留意したい。

 スマートフォンでも似たようなトレンドがあり、シャオミやOPPOなどの中国メーカー各社が製品価格を上げて中高級製品をリリースしている。スマートフォンについてはAppleのiPhoneが中国で人気のため、「中国産スマートフォンの価格があがるならiPhoneを買う」という動きが見られた。一方で家電では外国製品の家電へのニーズはもはや10年前と比べて高くないので、中国企業による高価で付加価値のある製品が受け入れられている。

 中国の家電メーカーは、例えるならかつてのソニーの「クオリア」のようなハイエンドブランドをたてて専用の売り場で売られている。ハイアールのハイエンドブランド「Casarte」の2022年上半期の売上高は20.8%増加し、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、給湯器の市場シェアが増加。またMideaグループのハイエンドブランド「COLMO」の2022年第3四半期の売上高は138%増の59億7000万元に、Hisenseブランドのハイエンドブランド「Cuican」の売上高は2022年には前年比で200%超の増加といずれも好調だ。

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Casarte

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COLMO

 ところで家電の買い替えは壊れるなど動機がないと買い換えない。これは中国とて同じだ。農村部で家電を普及させるために補助金で購入を後押しした政策「家電下郷」は2009年に全土的に開始され、都市部においても家電買い換え政策「以旧換新」がほぼ時を同じくして実施された。ほとんどの世帯に家電が入ったとは言い難いが、当時もう少し手を伸ばしたら家電が購入できる農村部の家庭に家電を普及させたし、都市住民が今がお得とばかりにブラウン管ディスプレイを持ってきて薄型テレビに買い替えた。家電の耐用年数を10年と考えれば、どこかしら調子が悪くなり潜在的な買い替えのニーズが高まる時期を迎える。

 そこで2022年の6月より、中国各地で自治体の規模での家電消費政策を導入している。特に江蘇省と山東省は積極的に補助金を出し消費を促した。背景には二酸化炭素排出量削減を目指し、7月に商務部など13部門が発布した「グリーンスマート家電の消費を促進するためのいくつかの措置に関する通知(関于促進緑色智能家電消費的若干措施的通知)」がある。中国の家電製品による電力消費は、社会全体の電力消費量の11.3%を占め、住民の二酸化炭素排出量の最大30%が家電製品から発生している。これを家電の交換により改善しようとしているわけだ。家電の回収下取り活動を全国で実施すること、グリーンスマート家電を促進すること、廃棄家電のリサイクルを強化すること、などが記されている。今回の買い替え促進政策は10年前に実施した家電下郷や以旧換新などの全国一律の補助金政策とは異なり、補助金政策の実施は主に地方自治体に委ねられている。

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 中国の家電製品による電力消費は、社会全体の電力消費量の11.3%を占め、住民の二酸化炭素排出量の最大30%が家電製品から発生している。こうした政府の後押しがあったからハイエンド製品に買い替えようと一部の消費者の背中を押して売上が伸びたとも言えるし、その後押しがあってもなお1~9月の家電の売上は前年同期比6.1%減だったとも言える。

 また近年では、中国の大手家電メーカーを家電以外で後押しする環境ができてきている。そのひとつが自動車だ。大小様々な企業がEVを含む自動車をリリースし、自動車部品の売上高は2016年の3兆4600億元から2021年の4兆9000億元へと42%弱増加した。

 自動車製造から広がった部品製造の中には家電メーカーが絡んでいるものも少なくない。美的は同社の自動車部品製品の販売額が数千万元に達し、同社が開発した電動コンプレッサーは新興EVで評価を得る「小鵬(Xiaopeng)」の「G9」というモデルに搭載された。Hisenseはスマートカーの主要コンポーネントとソリューションのサプライヤーを目指すべく日本のサンデンを買収。またハイアールも自動車のスマートソリューションや自動車部品関連事業を展開。TCLも創設者の李東生氏がビジネスチャンスをつかみ、電気自動車に関連する製品を作る必要があるとコメント。他にもコンプレッサーで知られる海立は、新エネ車用の電動エアコンコンプレッサー出荷台数が去年10月に100万台を記録した。

 このように台頭する中国の自動車産業が家電大手に少なからず影響を与えている。ただ家電メーカーは家電向けのサプライチェーンを構築していて、それは車向けとは異なる。ビジネスチャンスと言われているので自動車業界、あるいは新興企業に向けたサプライチェーン構築を今後進めていくだろう。

 自動車ともうひとつ大きなトレンドが中国で「預制菜」と呼ばれる冷凍食品やレトルト食品で、ゼロコロナ対策で家での食事を余儀なくされる中でこのニーズが高まり、様々なスタートアップが参入した。中国預制菜市場の規模は2021年の3459億元から2026年には1兆元を超えると予想されている。食の環境が変わっていく中で、冷蔵庫やキッチン家電を扱う家電各社はビジネスチャンスとばかりに参入している。

 エアコンのグリーはレトルト食品をリリースする企業向けに、自動調理や冷蔵保管を行う業務用機器を展開。ハイアールはレトルト食品調理に対応したスマートホームソリューションを、美的は44種類のレトルト食品とそれを調理するためのスマートキッチンソリューションをリリース。電子レンジの「格蘭士(Galanz)」はレトルト食品用の電子レンジを、キッチン家電の「老板電器(Robam)」は惣菜用スマート調理鍋をリリースした。新たなレトルト食品ブームに対して各家電メーカーが強みを生かし、コンシューマー向けやビジネス向けの新製品を投入したわけだ。

 海外市場を見てみれば、大きくプラスとなったのがまずは「地域的な包括的経済連携(RCEP)」協定の発効で、1月から10月の中国のアジア市場への家電製品の輸出は前年比で5.2%増加し安定して成長し、特にフィリピン向け輸出で著しく伸びた。ややプラスと言えるのがサッカーワールドカップだ。家電メーカーは広告で世界市場にアピール、ブランドの認知に努めた。

 対してマイナスなのがロシアのウクライナ侵攻だ。2月にロシアのウクライナ侵攻以来、原材料となるプラスチック、銅、鉄、アルミニウムなどの価格が値上がりし、また中国とヨーロッパを結ぶ列車と輸送にも影響があった。原材料のコストは家電業界全体のコストの70%以上を占めると言われていて、それまでもコスト上昇の圧力にさらされていた家電企業の状況は、紛争により不安な状況の中で需要も下がったことで悪化した。中国税関のデータによれば、2022年の1月から9月までの家電製品の輸出量は前年同期比10.1%減の25億8652万台、輸出額は0.2%減の4326億元に。

 まとめると、中国大手家電各社は、世界ではアジア地域はプラスでヨーロッパはマイナスに。また中国国内では新たな自動車やレトルト食品ブームに乗り、投資を行い、新製品を投入している。この状況は中国国内外ともにもうしばらく続きそうだ。

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スーパーの家電売り場

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