【23-13】新たな道のりにおける質の高い発展のために 外生的ショックと内生的リスクに対応すべし
閔傑/『中国新聞週刊』記者 江瑞/翻訳 2023年02月16日
上海財経大学学長・劉元春氏インタビュー
「新たな発展の仕組みに向けた布石はまだ完成には程遠いと言えます。なかでも重要になってくるのが、極端な状況下にあっても、国内大循環を高い水準でスムーズに循環させる仕組みをつくれるかどうかということです」
中国共産党第20回全国代表大会〔以下、二十大〕の報告では、「質の高い発展は、社会主義現代化国家の全面的建設において最も重要な任務である」旨が明示され、質の高い発展を実現させるためには、「必ずや完璧、正確かつ全面的に新たな発展理念を徹底し、社会主義市場経済の改革方向を堅持し、ハイレベルの対外開放を堅持し、国内大循環を主体とし、国内・国際の双循環が促進しあう新たな発展の仕組みの構築を加速しなければならない」とされた。
新たな発展の仕組みの構築を加速させるポイントは何か。短期的な経済の安定成長移行への課題と中長期的な質の高い発展要求とのバランスをとるためにはどうするべきなのか。著名な経済学者で上海財経大学学長の劉元春(リウ・ユエンチュン)にインタビューをおこなった。
劉元春氏
中国の基本路線を再確認
記者:「二十大」の報告では、質の高い発展と同時に、社会主義市場経済の改革方向を堅持し、ハイレベルの対外開放を堅持するという「2つの堅持」が明示されました。これはどういうメッセージだと思われますか。
劉元春:これは大変重要な点で、社会主義現代化強国の全面的建設へ向かう新たな道のりという基本原則を再確認したものだと思われます。「二十大」の報告では、前進の道を歩む上で、必ず心に留めておくべき重要原則が強調されていました。その原則とは、中国共産党による全面的指導を堅持ならびに強化し、中国の特色ある社会主義の道を堅持し、人民中心の発展思想を堅持し、改革開放の深化を堅持し、闘争精神の発揚を堅持することです。なかでも、中国の特色ある社会主義の道の堅持は、新たな時代・新たな道のりにおける中国の特色ある社会主義の道の核心である「経済建設中心の堅持、4つの基本原則の堅持、改革開放の堅持、独立自主・自力更生の堅持、道を変えず志を曲げないことの堅持、硬直した古い道を歩まず宗旨変えというよこしまな道も歩まず、国および民族の発展を自身の出発点に据えることの堅持」を再確認したものでしょう。
これにより、特に、近年新たな道のりを歩む過程で、社会に出現した理論誤認や雑音に回答を示したのです。一部には、新たな発展の仕組みとは「鎖国政策」のこと、人民中心とは経済建設中心を放棄すること、共同富裕は効率無視などと誤解している人々がいました。「二十大」の報告では、質の高い発展を、社会主義現代化国家の全面的建設において最も重要な任務として明確に位置づけることで、いま一度、発展こそ共産党による執政および興国の最重要任務であることを再確認し、新たな時代・新たな道のりにおける中国の特色ある社会主義の道の新定義を改めて解釈することで、中国の基本路線を再確認したのです。
ここから、改革路線は変わらない、開放路線は変わらない、民間経済発展の保護路線は変わらない、独立自主も、中国の特色ある発展の道の堅持も変わらない、ということが見てとれます。新時代の新たな道のりの使命、任務、戦略は、発展段階や内外環境によって多少変化し、新たな特徴を帯びることもありますが、中国式現代化の指導思想および基本原則は変わらないということです。これが理論面での完全なる回答です。
記者:「二十大」の報告では、「中国式現代化により中華民族の偉大なる復興を全面的に推し進める」ことが示されました。経済発展モデルにおいて、「中国式現代化」をどのように理解すればよいのでしょうか。
劉元春:経済発展という観点で言うと、まず1人当たりのGDPが上昇することにより、「中所得の罠〔中進国の罠〕」を飛び越え、世界経済の枠組みを根本的に変える可能性があります。膨大な人口を抱えての経済発展なので、規模の経済、範囲の経済、学習効果を主体とする巨大な内発的エネルギーが形成されるでしょう。次に、経済発展は、製品や産業全体の発展だけでなく、大量の精神文明にかかわる産業の発展にも関係します。さらに、中国の発展は必ず質の高い発展でなければなりません。従来の粗放型発展モデルを超越し、質の高い発展モデルの段階に突入し、新たな発展理念に従うことが、中国式現代化の理念と相通じるのです。
国内の大市場には内発的原動力が必須
記者:「二十大」の報告では「質の高い発展の推進という主題を堅持し、内需拡大戦略とサプライサイドの構造改革とを有機的に結びつけ、国内大循環の内発的原動力および信頼性を強化する」ことが強調されました。これは新しく提唱された内容だと思いますが、「国内大循環の内発的原動力および信頼性」とは何を指しているのでしょうか。
劉元春:新たな発展の仕組みは2021年に打ち出され、第19期中央委員会第5回全体会議〔19期五中全会〕で全面的に了承されました。新たな発展の仕組みを受けた諸々の準備は始まったばかりですが、なかでも重要になってくるのが、極端な状況下にあっても、国内大循環を高い水準でスムーズに循環させるにはどうしたらいいかということです。これを実現するためには、内発の原動力を有する国内統一大市場を形成し、真に信頼に足り、活用できるものにしていかねばなりません。机上の空論ではだめです。
中国のGDPに対する内需の貢献度は、過去数年で90%を越えました。2008年以前は、外需の貢献度が、高いときで20%あり、現在でも貿易黒字がまだ4000億ドルほどありますが、中国全体のGDPが当時とは大きく変化しています。世界的に、GDPに占める貿易黒字の割合は大体2%前後ですが、中国の場合、2006年頃のピーク時は、GDPに占める貿易黒字の割合が8%超に達していました。年間投資総額に占める外資の割合も、ピーク時で10%超でしたが、いまは1%にも満たない状況です。中国の大市場が形成できるか否かは、成長エネルギーの内発化と成長エネルギーのアップグレードによるところが大きいです。
ウクライナ危機の発生を、多くの中国人は深刻に受け止めました。大国のパワーゲームが過熱 し、地政学的リスクが高まり、戦争も現実味を帯びるなか、中国は何としても高効率で自己完結する内循環を形成しなければなりません。新たな発展の仕組みを深読みすれば、そういうことになります。
記者:内需拡大戦略は新たな発展の仕組みだけでなく、当面の経済の安定成長にとっても非常に 重要だということが分かりましたが、主にどういった問題を解決する目的があるのでしょうか。
劉元春:まず重要なのが、消費と貯蓄の割合決定メカニズムの改革をおこなうことです。消費に 関して消費だけを議論してもだめで、消費の背後には貯蓄があり、貯蓄の背後には富の再分配システムとセーフティーネットの構築があります。中国政府の内需拡大政策は、表面的には消費促進と投資拡大を呼びかけているように見えますが、その本質は、収入分配システムをめぐる、より高次元の改革なのです。民間経済を発展させるためには、資本を「寝かせておく」のではだめで、民間経済、外資、国有資本を活性化させなければなりません。「二十大」の報告ではこのあたりへの言及が多かったと思います。
記者:党中央はこれまで何度も、「双循環」は「鎖国政策」ではなく、よりハイレベルな改革開放であると説明しています。貿易および投資における「反グローバル化」が台頭するなか、よりハイレベルな改革開放の道筋と重点とはどのようなものでしょうか。
劉元春:よりハイレベルな改革開放を実施する際に重要なのは、改革のカギを握る難点と障害に着目することです。「二十大」の報告でも一部重点分野の改革に言及されていますが、これらがカギを握るポイントだと言えます。現時点では、中国が成長維持のために重要なのは、国内大市場の形成・アップグレード・拡充に関して、改革の難点・障害・キーポイントを洗い出し、そこを重点として新たな改革の動きを起こすことです。開放ということで言えば、これまでは開放を利用して改革を進めてきましたが、新時代においてはそれ以上に、内部改革や内部機能の向上を通じて国際競争力を高め、全世界に対する中国経済の吸引力と戦略の柱を強化していくことが重要になってきます。開放するから開放政策を制定するのではなく、まずこうしたことを重点的に進めなければなりません。
記者:「二十大」の報告では、「産業チェーンおよびサプライチェーンの強靭性と安全性の向上に力を入れる」と述べられています。一部の産業チェーンが東南アジア諸国に移転するのに対して、中国が注目すべき産業チェーンの安全問題は何でしょうか。また、それをどう解決すべきでしょうか。
劉元春:産業チェーンの安全性を高めるためには、第1に産業チェーンおよびサプライチェーンの「ボトルネック」を防ぎ、断絶や停滞を生じさせないようにすることが必要です。第2に「長所」をつくりだす、つまり、産業チェーンおよびサプライチェーンに効果的な交渉力を持たせることで、中国と国際産業チェーンの連動性を高め、簡単にはデカップリングできないようにすることです。第3に「スペアの用意」です。中国は以前のように垂直分業下での単一産業チェーンおよび単一サプライチェーンを担うのではなく、「N+1」式の多様なサプライチェーンの組み合わせを用意し、代替案や選択肢を提示できるサプライヤーにならなければなりません。第4に高効率かつ万全な産業チェーンおよびサプライチェーンを構築することです。国内大循環において、高効率かつ独立したシステムの構築は非常に重要です。
記者:「二十大」の報告では、「現代化産業体系を構築し、経済発展の力点を実体経済に置くことを堅持する」と述べられています。これはどういうメッセージなのでしょうか。金融およびデジタル経済の位置づけが変わったということでしょうか。
劉元春:大原則は「金融は実体経済に奉仕する」です。党中央は2015年から金融制度改革に着手して金融サプライ構造改革を打ち出し、「金融は実体経済に奉仕する」という戦略を掲げ、不動産業界などにも改革の範囲を広げていきました。IoTの発展の加速や、国際競争力を有するデジタル産業クラスターの形成など、現代産業システムを構築する上で非常に重要なデジタル経済の位置づけに変化はありません。「二十大」ではデジタル経済に関する新たな提案はなく、「十九大」以降の新戦略や位置づけを踏襲するようです。
2021年7月24日、貴州省黔西市(畢節市所轄)新仁ミャオ族郷化屋村麻窩寨に設けられた貧困救済を目的とした集中移転集落。写真/新華社
世界的な「三低三高」のなか、中国は依然として独自の強みを持っている
記者:以前、大国のパワーゲームの激化とコロナ禍による経済全体への打撃は、短期的・表象的なものにとどまらず、中長期に及ぶ趨勢として、構造的かつ深層的な打撃となるだろうとおっしゃっていましたね。中国はいま、短期的には安定成長移行への課題に直面すると同時に、長期的な不確定性も抱えています。この状況で、質の高い発展を妥協することなく実現するにはどうしたらよいでしょうか。
劉元春:米中間のパワーゲームあるいは衝突は、特に今後5年の間、さらに上のステージに至るでしょう。ある意味必然だと言えます。中国の社会主義現代化強国建設という観点から見れば、資本主義体系のなかでの台頭というのは、かなりの高確率で実現することが予測されていました。したがって、米中間の対立は長期に及ぶ現象となる可能性が高く、2050年に社会主義現代化強国が全面的に完成しても、欧米をはじめとする資本主義国との協力、競争、対抗の局面は続いていると思われます。また、人類の歴史から見れば、疫病の大流行は社会構造や社会観念を変えてしまう大きな出来事です。新型コロナウイルスが流行して3年あまり。グローバル化、世界の産業チェーン、地政学的枠組みに生じた影響は計り知れません。
こうしたことから、当面の安定成長、リスク防止、コロナ抑制の3点が、目下のところ重要な基本的着眼点になってきます。短期的には、経済に回復力を取り戻すことが絶対に必要ですが、そのためには、コロナ禍と国内外のマイナス要因との挟み撃ちに立ち向かい、短期の一連のマクロ政策、中期の構造改革、長期の戦略設定を通じ、中国経済の短期と中期のバランス配分を総合的に考慮し、経済を安定的に回復させ、質の高い発展が常態化した軌道に乗せなければなりません。
質の高い発展を遂げるためには、必ず外生的ショックと内生的リスクに対応する必要があります。現在も将来も、様々な周期的ショックや構造的ショックが襲う可能性は常にあります。現在は安定成長、リスク防止、コロナ抑制という3つの重大任務を背負ってはいますが、それでも質の高い発展要求に従わなければなりませんし、短期の景気刺激策は必ず中期的効果を考慮しなければなりません。中国は過去数年の安定成長の過程で、「異次元緩和」も極度の信用創造もおこなわず、欧米諸国がコロナ禍で採ったような極端な政策も回避してきました。その結果、中国経済は依然として柔軟性も強靭性も、政策が機能する余地も維持したまま、次なる持続的発展のために良好な基盤を築いています。これは実は、短期と長期のバランス、ミクロとマクロのバランス、国有と民間のバランス、国内と国外のバランスをとるという質の高い発展の原則を堅守したおかげなのです。
記者:中国には、2035年までに1人当たりのGDPを中進国水準に到達させるという目標があります。しかし、世界中で繰り返されるコロナ禍が経済に及ぼすマイナスの影響や、世界的な景気の低迷ゆえ、目標達成が不透明になってしまうのではないでしょうか。今後10年の中国経済をどうご覧になっていますか。
劉元春:現在、経済成長の鈍化は、世界的な現象になっており、低成長・低貿易〔貿易低迷〕・低投資、高債務・高インフレ・高リスクの「三低三高」が見られます。この現象は短期的なものではなく、今後も一定期間継続すると思われますが、これが逆に中国が2035年までに目標を達成するための好条件となっています。なぜなら、他国の経済成長がさらに鈍化すれば、中国が中進国となるのが容易になるからです。それゆえ、世界が「三低三高」に陥るなか、中国経済には依然として成長の強みがあることを自覚しなければなりません。その強みとは第1に、中国の目下のインフレ率は高くなく、欧米諸国が直面しているようなマクロコントロールの難しさという問題がないことです。第2に、中国にはまだまだ発展途上の地域が多数残されていることです。中西部の一部には、いまでも年6~7%の速度で成長を続ける地域があります。第3に、新たな発展の仕組み戦略の実施に伴い、国内大循環がさらに効果を発揮し、内需主導の成長モデルがその実力を示し、イノベーション駆動型のエネルギー転換が目に見える成果を挙げていることです。
中国は、コロナを抑え込んだ上で、経済の新常態を5%前後まで回復させることは可能だと自信を持つべきです。他の中進国の経済成長が低下を続けるなか、中国がこれらの国々を追い越すことは比較的容易になるため、その点では心配しすぎる必要はないと言えます。
しかし同時に、世界的な「三低三高」がもたらすチャンスをどうつかむか、中国は試されてもいるのです。第1に、世界的なスタグフレーションが中国の製造業に未曾有のチャンスをもたらし、中国製品の競争力はさらに高まることが予想されます。ここ数年、中国の製造業は高い調整力と市場競争力を発揮してきました。この状況は今後も継続する可能性が高いことから、メイド・イン・チャイナが世界の難題を解決する絶好のチャンスだと言えます。第2に、ウクライナ危機によりもたらされたエネルギー危機により、エネルギー価格は暴騰しましたが、これが中国が十数年前から策定していた新エネルギー戦略にとってかつてないほどの促進剤となり、エネルギー転換を直接加速する形となりました。中国は国内の大市場を本拠地に、強大な供給力を基盤にし、世界的な大変化の局面を捉え、経済の飛躍的発展を遂げるでしょう。
江蘇省淮安市の光電会社でチップを生産する労働者。写真/新華社
※本稿は『月刊中国ニュース』2023年2月号(Vol.130)より転載したものである。