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【23-55】中国、リチウムイオン電池の海外進出が加速化 投資先はハンガリーが人気

松田侑奈(アジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2023年08月25日

 電気自動車の人気に伴い、中国の自動車産業の海外進出が加速化されている。部品の一つであるリチウムイオン電池の海外進出もその勢いで急速に増えている。

 韓国のリサーチ機関SNE Researchが公開した「Global EV and Battery Monthly Tracker(2023年7月)」によれば、今年1~6月の動力電池市場占有率TOP10企業に、中国の企業が6社ランクインしている。

電気自動車用電池使用量及び市場占有率(2023年1~6月)
出典:SNE Research「Global EV and Battery Monthly Tracker(2023年7月)
順位 企業名 国籍 使用量(単位GWh) 市場占有率
CATL(寧徳時代) 中国 112.0 36.8%
BYD(比亜迪) 中国 47.7 15.7%
LGエネルギーソリューション 韓国 44.1 14.5%
Panasonic 日本 22.8 7.5%
SK on 韓国 15.9 5.2%
CALB(中創新航科技) 中国 13.0 4.3%
サムソン SDI 韓国 12.6 4.1%
EVE(億緯鋰能) 中国 6.6 2.2%
Gotion(国軒高科) 中国 6.5 2.1%
10 Sunwoda(欣旺達) 中国 4.6 1.5%

 また、中国の工業・情報化部が公開した「 全国リチウムイオン電池運行状況2022 」によると、中国の2022年のリチウムイオン電池輸出額は3426.56億元で、前年比86.7%増加した。2023年第一四半期の輸出額は1097.9億元と前年同期比565億元増えた。2023年上半期の輸出量は56.7GWhで、総生産量の19.3%を占めている。

 CATLやBYDをはじめとする中国企業の海外市場での人気も急速に高まっている。

 CATLは今年、アメリカのフォード・モーターカンパニーと共同で、アメリカで動力電池工場を設立すると発表したが、投資額は35億ドルで、当初の生産能力は年間35GWhに及ぶ。これは約4万台分のEVに供給できるセル量である。EVEも99.7億元を投資し、ハンガリーに工場を立てる予定だと明かした。GotionはInoBat(スロバキアの電池メーカー)とMoUを締結し、生産能力40GWhの工場を共同設立することに合意した。

 ここで言及すべき点は、ハンガリーの人気ぶりである。

 上述したEVEのケース以外に、昨年8月CATLもハンガリーに500億元規模の電池工場を設立すると発表した。また、BYDもハンガリーに2億元規模の電池組立工場を新設する予定と明かした。

 ハンガリーはなぜこんなに人気なのか。

 CATLはハンガリーをピックアップした理由について、「ハンガリーは悠久な自動車製造の歴史をもっており、産業インフラが整っている。電池原材料、その他必要な部品や素材も便利に入手できる。また、ヨーロッパの中心地域に立地しているだけに、投資に最適な環境であり、交通や物流の便利さ、優秀な技術者と企業の多さも魅力的である」とした[ⅰ]。ハンガリーのシーヤールトー・ペーテル外務貿易大臣は6月9日、中国四川省宜賓市で開催された「世界動力電池大会(2023 World Power Battery Conference)」で、中国企業の投資により、ハンガリーの駆動用バッテリー生産量は世界4位となっているが、間もなく中国に次ぐ世界2位に浮上するだろうとの見解を示した。

 中国動力電池産業の成長へ期待が高まる一方、間もなく始まる炭素国境調整メカニズム[ⅱ](CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)やEU新電池規則の影響が続くことから、その発展も順風満帆とはいえないだろう。これからが動力電池産業にとっては勝負所となる。中国が難関を乗り越え、引き続き世界を驚く成長を見せられるのか。今後の産業動向に注目していきたい。


ⅰ.https://www.catl.com/news/6487.html の内容を参照。

ⅱ.CBAMとは、EUがEU排出量取引制度(EU ETS)などの温室効果ガス削減規制を強化する中で、いわゆるカーボンリーケージ(規制の緩いEU域外への製造拠点の移転や域外からの輸入増加)対策として、EU域内の事業者がCBAMの対象製品を域外から輸入する際に、域内で製造した場合にEU ETSに基づいて課される炭素価格に対応した価格の支払いを義務付けるもの。