【24-01】米カリフォルニア州知事の訪中にみえる米中地方間協力の「モデルケース」
陳佳駿/文 神部明果/翻訳 2024年01月15日
2023年10月23~29日、米カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事一行23名は1週間の旅程中に香港、深圳、広州、北京、塩城、上海などの都市を巡った。一部の「逆風」も、地方交流が安定した米中関係に与える重要な意義を否定できない。
2023年10月25日午後、北京の人民大会堂で会見した中国の習近平国家主席(右)と米カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事。(写真:新華社)
中国の習近平国家主席は2023年10月25日午後、人民大会堂でギャビン・ニューサム州知事との会談に臨んだ。習主席はかつてカリフォルニア州を訪問した際の様子を楽しげに語り、中国のGX(グリーントランスフォーメーション)や地方の発展状況について紹介した。
また米中各業界の交流および地域間協力をとりわけ重要視し、支持しているとし、ニューサム氏の訪問によって相互理解が深まり、中国とカリフォルニア州との協力拡大、米中関係の健全で安定的な発展の推進に積極的な役割を果たすことを望むと述べた。加えて米中はGX、気候変動への対応などにおける協力ポテンシャルが大きく、双方はこうした面での協力を強化し、それらを米中関係発展の新たなハイライトとして打ち出すことが大いに可能であると強調した。
ニューサム氏は中国滞在中、国家副主席で中国共産党中央政治局委員の韓正氏、中央外事工作委員会弁公室主任の王毅氏とも会見した。米国の州知事がこれほどの待遇で迎えられるのは米中関係の歴史上そう多くない。
ニューサム氏の訪中はこれが初めてではない。2005年、同氏がサンフランシスコ市長を務めていた際に当時のカリフォルニア州上院議員ダイアン・ファインスタイン氏一行の訪中に同行し、サンフランシスコと上海の姉妹都市提携25周年を祝った。このほかニューサム氏はピート・ウィルソン氏、アーノルド・シュワルツェネッガー氏、ジェリー・ブラウン氏に続き訪中を果たした4人目のカリフォルニア州知事となっている。
同氏の今回の訪中は中国とカリフォルニア州の既存の経済貿易と友好関係をさらに深めるとともに、米中首脳が11月にカリフォルニア州サンフランシスコで実施するアジア太平洋経済協力会議(APEC)期間中に会見をおこなうにあたっての良好なムードを構築したとみられる。
カリフォルニア「モデル」
ニューサム氏は習主席との会見の際、中国系住民はこれまでカリフォルニア州の建設に重要な貢献を果たしており、同州は一貫して米国の対中協力における重要な門戸であると述べた。
中国とカリフォルニア州は経済的な相互交流に加え人的・文化関係においても長い歴史を有する。カリフォルニア州で金鉱が発見された1849年、広東省出身者が金採掘のため第一陣としてカリフォルニア州に渡った。1864年以降は中国人労働者が米セントラル・パシフィック鉄道による大陸横断鉄道の建設に従事し、自身の血肉を米国の縦横に広がる鉄道輸送ネットワークの建設に注いだ。これについて梁啓超はかつて感慨深く語っている。「『加罅寛尼』(カリフォルニア)の繁栄はまさに我が国の人民の血と汗により造り出された世界である。すなわち金鉱や鉄道なくしてカリフォルニアは存在せず、それらはいずれも中国人の手により採掘され建造されたのだ」。いまではカリフォルニア州はすでに全米最大の中国系住民の居住州となっており、中国と同州は深いレベルでの社会・経済関係を構築している。ロサンゼルス港は対中貿易最大の港であり、上海-ロサンゼルス航路は世界で最も活気ある海運航路の1つだ。近年においては米中貿易摩擦が絶えないとはいえ、中国とロサンゼルス港の関係は発展を続けている。2022年には上海港とロサンゼルス港が太平洋を横断する世界初の「グリーン海運回廊」(グリーンシッピングコリドー)の構築を共同で提唱し、クリーンで低炭素な港湾間の貨物運輸を共同で推進すると発表した。
このほか中国とカリフォルニア州の相互投資も活発だ。中国企業は同州で幅広い分野に投資しており、既存の貿易、金融、海運、航空、旅行などからクリーンエネルギー、バイオメディカル、商業不動産、電気通信、農業、テクノロジーなどの分野にまで投資を拡大し、大型投資プロジェクトも増え続けている。反対にアップル、エヌビディア、クアルコム、テスラといったカリフォルニア州の主要テック企業およびセコイア・キャピタルなどのシリコンバレーのベンチャーキャピタルはいずれも中国で事業を展開しており、なかには中国企業との密接な協業関係を築いているカリフォルニア州の中小企業もある。
中国とカリフォルニア州の相互協力の1つの例に温室効果ガス排出があるが、中国は同州の「排出量取引制度(キャップ&トレード)」を元に自国の二酸化炭素排出取引システムを実施している。このほか、中国が新エネルギー自動車(NEV)の生産販売台数で8年連続世界一になれば、カリフォルニア州のゼロエミッション・ビークル(ZEV)は米国の全自動車の4割以上を占め、その販売台数は2位以下の10州の販売台数合計を超えている。ニューサム知事は2022年、こうしたNEV市場における主導的地位を基礎に100億ドルを超えるZEV包括計画を制定し、気候変動をめぐる過渡的対応を加速させている。
総じていえば、中国の複数地域とカリフォルニア州との交流や協力は、米中関係という「21世紀で最も重要な二国間関係」における地方交流の「モデルケース」になっているだけではなく、今後は世界的にも影響を与えていくだろう。
2013年、当時カリフォルニア州副知事だったギャビン・ニューサム氏(左)は、訪米した太平洋経済委員会の王英偉氏(右)と貿易経済協力について話し合った。
「気候リーダーシップ」
ニューサム氏は、これまでのカリフォルニア州と中国との気候変動分野をめぐる良好な協力ムードを維持すると同時に、「気候リーダーシップ」の役割を全力で果たそうとしている。今回の「歴史的」な訪中の三大目標の1つも「気候変動に関する行動や協力の推進」だった。訪問の重点はカリフォルニア州と中国のEV、高速鉄道、海上風力発電を含む二酸化炭素排出削減分野での協力の推進であり、訪問中は気候変動政策のみに注力し、米中関係を損ねるような措置は一切取らないと約束していた。
ニューサム氏は2028年大統領選における民主党の最有力候補だが、その気候変動問題に関する主導的地位と、同分野で世界のリーダーになりたいという意気込みは、いずれも2028年に同氏が頭角を現す一助となるに違いない。
三大目標の残り2つは、1つが「経済発展と旅行業の促進および文化的連携の強化」、もう1つが「アジア系住民に対する怨恨の打破」である。
今回ニューサム氏は北京、上海、広州、深圳、香港などの中国の国際都市を訪問している。この訪問を通じて中国の多くの都市との経済関係を深化できるだけではない。ガバナンスや都市景観の視察を通じてサンフランシスコの都市管理に活かすこともできる。近年、サンフランシスコの経済衰退やガバナンスの失敗は負の「標本」と化している。屋外市場、ホームレスによる野宿、放置された空きオフィスなど、かつてビジネスを動力としIT革命の揺りかごとなった世界的都市は輝きを失っている。
他方、ニューサム氏の中国に対する友好的な姿勢は、州内のアジア系住民に対する反感をある程度和らげることにもつながる。サンフランシスコは米国の大都市のなかで中国系住民の割合が最も高く、住民の約5分の1が中国系である。ニューサム氏の政治人生は中国系住民の支持と切り離せない。自身は幼い頃から中国人コミュニティに対して親近感を抱いているとも語っている。このため現在の米中関係が非常に厳しい状況下においても、米国国内の圧力に屈することなく米中の友好関係への支持を頻繁に表明しており、中国系有権者の好感を高めるのに一役買っている。
いかに「逆風」に向かうか
米中は国交正常化から半世紀以上の交流のなかで、50の友好都市および200以上の姉妹都市関係を結んできた。米国各州も中国国内に他国をはるかに上回る27カ所の駐在事務所を設置している。こうした両国の地方交流においては州知事・市長が常に重要な役割を果たしてきた。
全米知事協会が1974年に計画した州知事6名の初訪中が米中地域間交流の幕開けとなったが、ある概算統計によればこれまでに74名(延べ95名)の米国州知事(ワシントン市長含む)が中国を訪問している。2004~2018年は「黄金の15年」であり、訪中貿易代表団に帯同した州知事は49名(延べ67名)にのぼる。
そのうち訪中回数が最も多いのは、共和党所属の元ミシガン州知事リック・スナイダー氏で、2011~2019年の8年間の任期中に8度訪中し、同州と中国との友好関係発展の黄金期を築いた。次に訪中回数が多いのが共和党所属のハワイ州元知事のリンダ・リングル氏で、2002~2010年の8年間の任期中に3度の訪中を果たしている。このほか11名の知事が任期中に2度の訪中を実施しており、うち8名が共和党、3名が民主党所属だった。
過去のデータからみると、共和党所属の知事のほうが訪中と商機の模索に熱心であり、これは共和党の「ビジネス寄り」な伝統と大いに関係があると思われる。ミシガン州元知事のリック・スナイダー氏はその典型例だ。ミシガン州が2011年に経済低迷にあえいでいる頃、スナイダー氏は中国を就任後初の海外訪問先に選んだ。同氏は8度にわたる訪中により中国から12億1000万ドルの投資を呼び込み、6304人の新たな雇用を創出し、ミシガン州を米国中西部のトップに押し上げた。中国との関係発展は同州の旅行業の発展にもつながり、2011~2017年に中国からの旅行者数は84%増となった。
しかし、ワシントンの共和党エリートはここ数年で対中姿勢を全面的に転換し、中国に関するほぼすべての議題を政治化し安全保障上の問題に変えた。こうした「冷戦式」敵対感情は急速に共和党知事圏にも広まっている。一部の「時流に乗っかる」共和党知事は、米中の地方交流がもたらす現実的な成果を犠牲にしてまで米国国内の反中ブームに迎合し、自身の政治的「実績」を積もうとしている。
このほか、訪中経験のある共和党知事でも帰国後に対中姿勢を180度転換させた例もある。例えば、2015年に訪中したインディアナ州のマイク・ペンス元知事は、副大統領就任後に対中強硬派に転じた。また、2016年に訪中したネブラスカ州のピート・リケッツ元知事も、2020年に州政府のITデバイス上でTikTokの使用を禁止し、ネブラスカ大学リンカーン校の孔子学院を閉鎖した。同氏は上院議員となったいまでもIT分野で「反中カード」を切り続けている。
だが、これほどまでの「逆風」に見舞われても地方交流が米中関係の安定化に与える重要な意義を否定することはできない。国交正常化から50年以上続く地方交流の実践は、地方間の協力の発展およびパートナーシップの推進が必ずしも政治的動機によるものとは限らず、政治的な理由によって終了するものでもないことを一度ならず証明している。米国の有権者は近い将来、二大経済体の間の終わりのない対抗は投資を妨げ、就業機会の損失にもつながることを悟るに違いない。最終的にはこれにより米国の政治家は地政学的競争と地方協力との間の境界線を明確化せざるを得なくなるだろう。反対に活力に満ちた地方交流は必ずや米中関係を健全で安定的な方向へと推し進めるものとなる。まさに習主席がニューサム氏との会見で語ったとおりである。「米中関係の発展には関係者各位の力の結集が必要だ。米中関係の基礎は民間にあり、未来は若者にあり、活力は地方にある」
(筆者は上海市米国問題研究所副研究員)
※本稿は『月刊中国ニュース』2024年2月号(Vol.142)より転載したものである。