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【24-09】拒絶か連携か ライブ配信めぐり揺れる「中国服装第一街」

孟 倩/『中国新聞週刊』記者 吉田祥子/翻訳 2024年02月07日

>浙江省杭州市の四季青服装市場は1989年に設立され、中国で最も影響力のある衣料品1級卸売流通市場の1つとして「中国服装第一街」とたたえられている。全長1.6kmの通り沿いに20以上の衣料品専門市場が立ち並び、約2万を超えるブースを擁し、5万人の従業員がいる。

 2019年末、大白さんは四季青衣料品商業地区にある常青市場内に10㎡のブースを出店し、衣料品卸売業を始めたが、開業早々コロナ禍に見舞われた。自宅に閉じ込められる日々のなかで、生計と店舗経営を維持するため、大白さんはやむなく抖音(中国版TikTok)のアカウントを開設し、オンラインから集客して商売を続けた。いまは皆がトラフィック(集客数)を奪い合っており、たとえ市場管理者やブース出店業者があらゆる手を尽くして集客しようとしても、オンラインでの商売も伸び悩んでいると大白さんは言う。

 2023年3月6日、常青市場は正式に出店業者や外来者に対し店舗内でのライブ配信や歩きながらの対外配信を全面的に禁止する公告を発表した。違反が発覚した場合、1回目は書面による警告と改善命令だが2回目以降は機器の没収と罰金が科せられる。

 浙江佳宝商業集団も傘下の卸売市場などでのライブ配信を禁止した。同集団の王佳慧総経理は、できるだけこの業界を保護するための措置であり、業界全体に関わることだと述べた。

 ライブコマース(ライブ配信による商品の紹介や販売)が「侵略者」としてこの卸売を主とする市場に出現したとき、衣料品流通プロセス全体が混乱し、激震が走った。ライブコマースは中身の腐ったリンゴだという人もいれば、ライブコマースの勢いは止められないという人もいる。しかし、この30年余りの歴史を持つ商業地区が、設立以来最大の試練に直面していることは間違いない。

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杭州四季青服装市場にて。なかには、「着用モデル」が試着して衣服の効果を見せ、バイヤーがその場で手を挙げて注文しているブースもある。(写真/IC)

「ライブ配信に手を出すと引き返せない」

 カメラの前のライバー(ライブ配信者)が服を紹介し終わると、周陽さんは超人気商品の冬物綿入れ服の最終価格を叫んだ。この服は7月から販売し始め、これまでに1000着以上を売り上げた。今回のライブ配信で周陽さんはさらに安い価格を提示し、寒い時期に大量に販売しようとしている。

 周陽さんのライブ配信ルームは、超人気商品がいくつかあるおかげで、毎月200万元余りを売り上げている。以前に四季青服装市場のブースで10年間卸売業をしていたときの売上高は年間で300万元だった。

 周陽さんは、現状に満足しているが、ここに至る道のりはとても辛く苦しいものだった。2020年にライブ配信に転向したばかりのころは、業績を上げられないというプレッシャーに加え、ライブ配信をするたびに、古くからの顧客に「こんなことをされたら、あんたから商品を仕入れられなくなってしまうじゃないか」と問い詰められ、何度も諦めようと思った。

 従来の衣料品卸売業では、工場から供給された商品が1級卸(ファクトリーブランドを所有する企業)に納入され、次に2級卸(全国各地の1級卸売市場から商品を仕入れる卸売業者)がその商品を仕入れてさらに3級卸(小売業者)へ販売する。

 周陽さんのライブ配信による販売は、こうした中間業者を直接排除したに等しい。

 長い間ライブ配信をおこなっていると、古い顧客のほとんどは、周陽さんのライブ配信ルームの服の価格が卸価格と同じか、さらには少し安いことを知っており、徐々に周陽さんのブースで商品を仕入れなくなった。だが、周陽さんは引き返すつもりはない。

「ライブ配信は変革の時代がもたらしたチャンスです」。周陽さんの目には、アパレル業界の今後の発展は大胆かつ革新的であるべき――中間業者をなくすべきだと映る。

 まして現在はトラフィックが最も重要視されており、ライブコマースの視聴者層において、ファッション系ライブ配信ルームが圧倒的な割合のトラフィックを獲得している。衣料品・服飾雑貨はライブコマースのカテゴリー別データ集計上でも日増しに重要な位置を占め、2022年11月を例にとると、抖音での販売数量、売上高ともに衣料品・服飾雑貨が他のカテゴリーを上回り最も高い割合となった。

 現在、周陽さんの商売は、年間売上高のわずか5%が実店舗からで、残りはすべてオンラインに依存している。1回3時間のライブ配信で400~500点売れるが、以前の実店舗では1日に100点しか売れなかった。「ライブ配信に手を出してしまうと、もう後戻りできなくなりました」と周陽さんは打ち明けた。

 桑蚕糸製アパレルメーカー経営者の張力さんも、四季青市場に出店している数軒のブースはどれも基本的に売り上げがなく、ほとんど倒産寸前で、ライブ配信をするほかなかったと話す。

「ライブ配信のトップライバーたちが、皆の稼ぎをせしめてしまったのです」。張力さんによると、これらのライバーはブースに来ると服を1着仕入れてライブ配信をおこない、配信後にその服を最低の材料でいい加減に製作するのだという。「私たちは生き残るために自分でライブ配信をしなければなりませんでした」

 しかし、ライブ配信をしても利益がなく、プラットフォーム利用料や広告配信費用にほとんどの利益を奪われてしまった。「メーカーとしては、それでもライブ配信をしなければ商品を売ることができず、倒産するしかありません」。張力さんは己の無力さを痛感している。

「卸売市場とライブコマースには本質的な矛盾がある」

 2023年3月6日、常青市場は正式に店舗内でのライブ配信を全面的に禁止する公告を発表した。4月中旬には、「杭州四季青の一部の市場でライブコマース禁止」が人気検索ワードに急上昇し、関連トピックもネットユーザーの議論を引き起こした。

 四季青市場の管理者は、この地区全体がライブ配信を奨励していないと述べた。ライブ配信は商売全体に一定の影響を与え、特に卸売業者と顧客を争奪することになる。

 温州市で衣料品小売業を営んでいた潘鋒さんは常青市場に来て10年余りになる。早くも2020年の初めにはライブ配信を始めていたが、その後、手を引いた。

「私たちのターゲット顧客は主に実店舗の小売店です。私がライブ配信をすれば、これまでやってきた一切のことを放棄し、私の顧客の商売を強引に横取りすることを意味します」

 いまは直接ライブ配信で商品を売るのではなく、プライベートドメインを通じて8万人の顧客にライブ配信をおこない、新しいファッションを紹介している。この限定配信グループのメンバーになるには、どの顧客もオフラインの店舗で認証を受けることを前提としており、現在この部分の収益は商売全体の半分に達している。

 大白さんは、常青市場が3月に出したライブ配信禁止令の忠実な擁護者だ。

 2020年に常青市場で卸売業を始めたばかりの大白さんも、客が来るのを座して待つのは無理だと気づいた。そこで、自分のアカウントを作成し、ブース経営で会得したものをシェアすることによって、確実に顧客を獲得した。さらに、プライベートドメインでライブ配信をおこない、自分の顧客に旬で上質な婦人服を紹介している。

 低価格と話術を寄せ集めたパブリックドメインのライブ配信ルームとは異なり、プライベートドメインのライブ配信ルームでは、ファッションに詳しい実店舗の店主がスタイルを見て、コストパフォーマンスの高い商品を提案する。大白さんもプライベートドメインでサービスして顧客を維持しようと積極的に試みている。

 実のところ大白さんも最初からライブ配信を拒絶していたわけではない。新型コロナ流行初期に、大白さんはいくつかの人気が高いライブ配信ルームに商品を提供して在庫を売りさばくことを決めた。しかし、販売量は多くても価格が低すぎるうえ、販売後の返品率も約70%に達した。また、販売後15日を経過しないと代金がライブ配信プラットフォームからライバーに支払われないため、ライバーはいつも掛け売りすることになる。大白さんが経験した最大の落とし穴は、ライブ配信ルームが倒産し、大白さんがライバーに貸していた200万元をいまだに取り戻せていないことである。

 大白さんは、ライブ配信は「肉を切らせて骨を断つ行為」だとみており、皆が薄利多売をすることで実体経済の優位性を弱め、さらには消し去ってしまうという悪循環を招くと指摘した。

 多数の販売業者が取材に対し、「歩きながらライブ配信する」人の多くが市場に悪影響を与えていると述べた。このようなライバーは、あちこちのブースに出向いては仕入れた商品を1着あたり数十元上乗せしてライブ配信で紹介する。売れ行きが良くなると自分で直接商品供給元を探すことも可能になり、こうしたことは長い目で見ればブースの商売に大きな影響を与える。

 前述の市場管理者も、一部のライブ配信ルームは、最初は何の物資もなく、2級卸売市場で商品を調達し、商売の規模を大きくしてから、メーカーと直接コンタクトを取っていると指摘する。メーカーにとっても、ライブ配信がもたらす影響は大きい。

 あるカシミヤコート製造工場の「1級卸」の経営者の話によると、これまでは1人の顧客が数百万元分の商品を購買することも珍しくなかったが、いまではたったの数万元だという。2級卸への商品供給の商売が成り立たないので、最近、工場も稼働を停止した。これは、ライブ配信ルームでは客単価の高い商品が売れにくいことに原因がある。

 意法商業集団の郭福栄副総裁は、ライブ配信ルームで扱うのはほとんどが売れ残りや季節外れの低価格の商品であり、数百万元の研究開発費を注ぎ込んだオリジナル商品を製造販売する事業者がライブ配信で販売するのは割りに合わない、と確信している。意法商業集団は2002年に杭州で設立され、意法服飾城など9つの専門卸・小売市場を自社で経営・管理しており、出店業者のほとんどが1級卸売業者だ。集団傘下の市場は杭州の婦人服の供給元としての市場を代表し、非常に高いオリジナルデザイン力があるため、ライブ配信で販売することはあり得ないと郭副総裁は断言した。

 中国(杭州)直播電商(ライブコマース)研究院執行院長で浙江伝媒(メディア)学院准教授の応中迪氏は「卸売市場が自分たちでライブ配信をおこなえば、奪うのは実店舗の顧客であり、長く続けると、実店舗の店主はもう卸売市場で仕入れることができなくなるので、ビジネスモデル全体が破壊されてしまいます。このことから卸売市場とライブコマースには本質的な矛盾があることが分かります」と指摘し、さらに次のように分析した。

 四季青は、有名な1級および2級卸売市場として、本質的にやはりトラフィックの優位性によって「中国服装第一街」と呼ばれるまでになったのであり、言うまでもなくそのトラフィックはオフラインである。市場内の業者がこぞってオンラインで事業を発展させれば、市場は生存の拠り所であるトラフィックの優位性をライブコマースのプラットフォームにシフトすることになり、それは市場にとって受け入れ難い。

 王佳慧総経理は、「禁止令」の発表以降、市場全体に対する顧客の評価は良好で、どの顧客も喜んで市場に商品を調達しに来ていると述べた。

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2020年3月1日には様々な制限のもと22の新たな市場が正式にオープンした。(撮影/詹逾)

伝統的卸売市場の周縁化の危機

 杭州市郊外にある実店舗の小売店店主は、自分の店の客足が以前と比べてほぼ半分に減り、売り上げがガタ落ちしていると訴えた。大白さんも、実店舗には1日15人来店すればよいほうだと嘆く。

 常青市場がライブ配信禁止令を出した背後で、実は伝統的卸売市場の発展が大きな試練に見舞われていた。

 中国社会科学院財経戦略研究院(以下、財経院)が発表した「中国商品取引市場融合イノベーション発展報告」によると、2021年末、年間取引高1億元以上の中国の商品市場の数は2012年のピークに比べて約28%減少し、市場内のブース数は過去最高値に比べ約21%減少した。

 財経院流通消費研究室の王雪峰副主任は、2012年には卸売市場の規模拡張段階がすでに終了して飽和と淘汰の段階に入り、それから現在までは、市場の淘汰メカニズムが働き、構造の最適化と調整がおこなわれた時期だと説明する。

 応中迪氏は次のように分析する。従来の電子商取引に比べてライブコマースは、直感性と双方向性が強く、ビッグデータのサポートがあるなど多くの利点を備えているので、発展の勢いが非常にすさまじい。ライブコマースにおけるアパレル業界の年間売上高も兆単位に達しており、この年間売上高には、もちろんインタレストコマース(興味や関心に基づくリコメンドにより購買意欲を高める手法)やコンテンツコマース(ブログやSNSなどのコンテンツで情報発信して認知や集客を図る手法)がもたらした増分があるが、卸売市場を含むオフラインチャネルのパイにも手を付け、成熟市場のシェアには残酷な争奪戦が出現しているに違いない。

 ブランド管理のベテラン専門家で、上海良栖品牌管理有限公司創業者の程偉雄氏の見解では、卸売市場はたやすく周縁に追いやられる可能性があるという。

「ライブ配信では市場(ユーザー)と直接対話してニーズを把握しますが、伝統的なリアルの卸売市場では中小ブランドショップやセレクトショップなどに商品を卸売供給して最終顧客には直接コンタクトせず、ブランドショップやセレクトショップが改めて小売価格を設定し直します」と程偉雄氏は述べ、ライブ配信が卸価格で直接ユーザーに商品を提供すれば、ブランドショップやセレクトショップの価格設定がライブ配信と比べて高すぎるというずれを必ず引き起こし、古い顧客を極めて簡単に失ってしまうと指摘する。

 だが、強烈な衝撃を受けていながら、多くの卸売市場は生き残り、しかもさらに大きくなってさえいる。これは市場管理側の意識および管理のきめ細かさによって決まる。

 意法商業集団は根本から開始し、デザイナー学校を設立してデザイナーを専門的に養成し、かつ、販売業者を後押しするために多くの機関と協力している。郭福栄副総裁は、「オリジナルデザインをきちんと作り上げ、衣料品の品質に力を入れ、長期的な利益を重視して初めて良好に発展できる」と考えている。

 いまや商品取引市場は飽和と淘汰の終盤を経て、すでにイノベーションが牽引する質の高い発展期に入ったとして、王雪峰副主任はこう述べた。「国内においては『小規模生産、大規模市場』という構造であり、商品取引市場は流通コスト全体を効果的に削減して流通効率を高めることができます。従って、商品市場が存在する基礎と条件に根本的な変化が生じない限り、卸売市場は存在し、最適化とアップグレードを通じてより良い発展を遂げるでしょう」

「2本の足で歩く」には?

「製造業の流通プロセスには必ず根本的な変革が起こります」。浙江大学城市学院伝媒・人文学院新聞系の李暁鵬主任は、新しいメディア技術が社会の組織構造をいままさに再構築しているため、ライブコマースは必然的な発展の趨勢にあり、これに対抗すればするほど生き残ることができなくなるとの認識を示した。

 実際のところ、ライブコマース禁止をめぐる議論は絶えることがない。取材に応じた人の多くが、ライブコマースは中間業者を排除したことで、消費者がより安い値段で購入しやすくなっているが、現在のライブコマースの発展は低価格競争、悪質な競争、心理誘導の手法などがまだ規制されていないため、実体経済を保護する必要があると考えている。

 一方、応中迪氏の考えはこうだ。ライブコマースの禁止は、短期的には実体経済に元々備わっていた優位性を維持する役割を果たすかもしれないが、中長期的な発展からみると、このような「防御措置」では、時代の潮流を阻むことはできない。実体経済は、ライブコマースを活用すれば、再び飛躍するための翼が得られ、ライブコマースを敵視すれば、新たな成長分野を放棄することになる。

 王雪峰副主任は「排除も禁止も最善の方法ではない」と主張し、最善の方法は、卸売市場の開設者が市場プラットフォームの主導者および販売業者へのサービス提供者として、できる限り業者のニーズを満たし、かつ対応するサービスを提供するよう努めることであると述べた。

 例えば、卸売業者のブースのなかにライブ配信をおこなう一定のスペースを個別に拡張できるようにし、以前の卸売機能と結合させ、相応の調整をするなどだ。そうしなければ真に市場の発展の趨勢に順応できない。

 ライブコマースの発展に対し、管理部門も徐々に規範化を進めている。10月30日、杭州市司法局は、杭州市が一連の重点産業コンプライアンスガイドラインを制定すると発表し、同時に「ライブコマース産業コンプライアンスガイドライン(意見募集稿)」に対する意見を公募した。

 程偉雄氏は、現在のオンラインとオフラインの発展は、やはりいくらか「デカップリング」が生じていると指摘する。多くの販売業者やブランドは、オンラインではオンラインのことだけをおこない、オフラインではオフラインのことだけをおこなっており、これはやや狭い思考で、協力とウィンウィンの状況に達していない。「将来はきっとオムニチャネル思考になり、オンラインに有利なものがオフラインに向かい、オフラインでの物理的接触を伴う体験がオンラインに導入され、オフライン主導のブランドをオンライン上にレイアウトしてこそ、本当にオンラインとオフラインの相互連携を実現することができます」

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上海のショッピングモール内でもライブ配信がおこなわれている。(撮影/中国新聞社記者 殷立勤)

 前述の「中国商品取引市場融合イノベーション発展報告」は、市場の供給過剰状態が緩和されるまで、商品市場の数は今後数年間減少し続けると予測している。

 このような状況をどうすれば乗り切ることができるのだろうか。

 王佳慧総経理は、佳宝商業集団では販売業者の能力を高めるために研修を実施していると説明した。販売業者がSNSやショート動画アプリなどの宣伝チャネルを活用して、ブランドの宣伝や集客をおこない、大量購入の顧客により良い商品選択サービスを提供することを市場も奨励している。

 大白さんも毎年100~200人の川下の顧客(小売業者)を杭州に招待して研修をおこない、オンラインの集客方法を教えている。大白さんのビジネス理論は、「顧客が生き続けてこそ、我々も生き続けることができる」というものだ。

「やはり私たちは、オンラインとオフラインがより良く結合できることを望んでいます。いつになったら2本の足で歩くことができるのでしょうか」と王佳慧総経理は言う。

 どうすれば2本の足で歩くことができるのか、これは「中国服装第一街」のすべての人が模索している問題である。

(文中の大白、張力は仮名)


※本稿は『月刊中国ニュース』2024年3月号(Vol.143)より転載したものである。

 

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