【24-26】AI産業の発展に必要な人材基盤の構築を
趙 晨(北京郵電大学経済管理学院副院長・教授)、李振東(北京郵電大学経済管理学院特任副研究員) 2024年12月24日
安徽省合肥市で開かれた第7回世界声博会で書道ロボットを見る子ども。(撮影:傅天)
「次世代AIの開発を加速させることは、中国がテクノロジー競争における主導権を勝ち得るための重要な戦略的足掛かりで、中国がテクノロジーにおいて飛躍的な発展や産業の最適化・高度化、生産性の全体的飛躍を推進するための重要な戦略的資源となる」中国の習近平総書記はこのように語っている。
2024年の政府活動報告は「『AI+』の活動を展開し、次世代AI技術を活用し、産業の革新的発展・高度化を活性化する」と打ち出した。スマート製造やスマート医療、スマート都市管理、カスタマイズ教育サービスなど、AI技術が各業界に徐々に溶け込み、産業の革新的発展の基盤技術、基礎産業となりつつある。AI産業の質の高い発展は、中国の現代化産業体制建設の重要な一環にもなっている。資源の一つとしての人材の蓄積、育成のクオリティ、発展のポテンシャルは、中国のAI技術のブレイクスルー実現やシーンのイノベーション、産業発展を支える基礎となる。
「人材」がAIの質の高い発展のカギに
現在、中国のAIの中核産業規模は約6000億元(1元=約21円)、企業数は4500社以上に達している。スマート半導体やオープンソースフレームワークなどの重要技術でブレイクスルーを果たし、スマートセンサーやスマートコネクテッドカーなどの代表的製品のイノベーション能力が高まり、AI特許出願数は世界の半分以上を占めている。AI技術の持続的なイノベーションと向上に伴い、中国のAI産業は急速に発展し、AI人材の需要が日に日に高まっている。中国では現在、AI人材が500万人ほど不足しており、需要と供給の比率は10:1となっている。構造的矛盾も依然として際立っており、人材関連の問題が、中国のAIの分野のイノベーション能力とコア競争力を高めるうえでの足かせになっている。
その上で、人材構造のさらなる最適化が待たれている。中国には豊富なAI応用シーンがあり、優秀な企業が複数誕生し、革新的応用、技術開発などの分野の人材が集まるようになっている。しかし、AIコンピューティング、特にAI半導体、アルゴリズム研究、ボトムアーキテクチャシステムなどの分野を見ると、引き続きハイレベル人材不足の問題が存在しており、産業チェーンの完全性と競争力に影響を及ぼしている。
人材エコシステムのさらなる整備も必要だ。人材エコシステムは、人材とその社会的、経済的、文化的環境などで構成される有機的な複合システムで、人材の需要と供給の効果的なマッチング、人材の流通ルートの円滑化、人材の成長加速の重要な保証となる。行政や企業、教育機関、業界団体などが協力して取り組んでおり、中国のAI産業の人材エコシステム建設は既に、大きな成果が上がっているものの、教育と産業ニーズのミスマッチ、人材のインセンティブと流動の制限、生涯学習体制の整備不十分といった問題が依然として存在しており、中国のAI人材は国際競争における課題に直面している。
4つの面に注力し人材の革新的発展の優位性を構築
AI人材の革新的発展の優位性を構築するために、以下の4つの面に照準を合わせて取り組み、AI人材の体制構築を強化するべきだ。
第一に、トップレベルデザインを強化し、AI分野の人材発展戦略を明確にする。そのためには、まず産業の発展の方向性と人材の需要について、AI人材の発展目標と発展ルートを研究・模索する。第14次五カ年計画(2021~25年)の綱要に基づき、AI分野の発展方向と人材の現状について、AI人材の発展計画を策定し、同分野の人材活動の発展方向性を科学的に定める。次に、現在の経済・社会発展に適した人材制度の構築を加速させ、AI人材の使用、誘致、評価、インセンティブなどの制度を構築・整備する。例えば、AI人材を誘致するに当たり、定住関連の制限を緩和し、ハイレベル人材の税収、保険、住宅、子供の入学といった面の関連政策・措置を策定するべきだ。さらに、人材発展体制・メカニズム改革を加速させ、一連のAI人材推進プロジェクト・計画を実施する。AI人材の階層別育成を強化し、AI分野のリーディング人材の育成プロジェクト、中堅人材の育成プロジェクト、若手人材の育成プロジェクト、一連の人材支援計画を実施する。特に、AIの弱点分野に関しては「揭榜挂帥(イノベーションプロジェクトのリーダーの年齢・職位にとらわれない自薦による公募)」メカニズムを通じて、優秀な若手人材が中心的な役割を果たし、重責を担うよう支援・激励し、戦略的科学者を育成する。複数の措置を講じて、人材のイノベーション・起業の活力を最大限引き出し、AI分野の発展に強力な人材保証と幅広い知的支援を提供する。
第二に、健全な人材育成モデルを構築し、AIの全産業チェーン人材階層を形成する。まず、複合型人材の育成を引き続き強化する。教育機関と企業の連携を通じて、産学融合拠点などを設立し、AI技術革新と産業発展を同時進行させながら、より多くの複合型人材を育成する。次に、学際的人材の育成を継続的に推進する。多様な教育・育成モデルを模索すると同時に、数学や生物情報学といった基礎学科の人材が、学科の枠を超えてAI関連の育成も受けることができるよう誘導する。米国のAI人材構造を見渡すと、数学や生物といった基礎学科の人材がたくさん含まれている。こうした人材は、米国のAI産業の発展過程において、重要な貢献を果たしている。そのため、学際的人材の育成は、AI技術のブレイクスルー実現において重要な要素となるだろう。最後に、適切なタイミングでAI関連の育成を前倒しで推進し、小中高校に一般教養科目を開設するとともに、大手企業が科学教育拠点の建設を奨励することで、小中高生の関心を高め、将来の人材を準備する。これにより、AIの基礎レベル、技術レベル、応用レベルにおける全産業チェーン人材の質と量の全面的な向上を実現する。
第三に、人材エコシステムの育成を加速させ、AIグローバル人材の優位性を構築する。AI人材エコシステムを整備するためには、人材の横方向の流通、縦方向の発展、内外循環などさまざまな次元から持続的に注力する必要がある。まず、中国国内の人材障壁を打破し、行政が必要な環境を整え、多者が共同で構築するスタイルで、テクノロジーパーク人材バンクや技術者連盟、人材コミュニティといった形式の人材相互交流プラットフォームを構築する。そうすることで、知識の拡散と融合を促進し、人材配置効率を最適化する。次に、人材発展ルートを円滑化し、若手研究者に自由に模索できるさらなる空間を提供し、人材の客観的評価体制を構築し、人的資源配置メカニズムの最適化を促進する。最後に、一層オープンな人材プラットフォームを構築し、さらに多様な内外人材連携モデルを模索する。そして、中国人材エコシステムのオープン化、グローバル化、多元化推進に注力することで、中国のAIの雁行型展開とグローバル人材の優位性を構築する。
第四に、人材発展の環境支援を強化し、AI分野人材の革新的原動力を引き出す。中国はAIのルートテクノロジー、ハードテクノロジーの革新的発展が依然として「追走」段階にあり、AIのボトムアーキテクチャと基盤ハードウェアの下支えの弱点が、産業の発展に直接影響を及ぼし、AI産業における長期的な競争力の足かせとなっている。中国のAI人材が応用のレベルに集中し、市場での実用化が容易で開発スパンが短い利用型イノベーションを追求しているのに対し、ブレイクスルー型の基礎レベル人材の蓄積が不足しているのが、重要な原因の一つとなっている。そのため、まずは科学研究主体の成果の足かせを打破するよう力を入れ、より多くの人材がAIの基礎分野に集結し、ブレイクスルー型の自由な模索活動に従事できるよう働きかける。次に、各種科学研究プロジェクト体制が、単純に論文発表や特許成果といった量化できる指標を評価基準にするのではなく、タイプ別、周期別、レベル別のAI技術革新につながる多様な評価体制の策定を模索・構築し、寛容的なイノベーションの環境を作り出す。最後に、各種政策ツールをフル活用し、企業に対して長いスパンで人材を投入し、人材のイノベーションの原動力を十分引き出すよう働きかけ、基礎レベルにおいて、ブレイクスルー的なイノベーション成果を持続的に出現させ、中国のAI産業の質の高い発展を支えるようにする。
※本稿は、科技日報「夯实人工智能产业发展的人才根基」(2024年11月4日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。