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【19-010】街に開花する新型書店―北京暮らしの流儀

2019年7月30日

斎藤淳子(さいとう じゅんこ): ライター

米国で修士号取得後、 北京に国費留学。JICA北京事務所、在北京日本大使館勤務を経て、現在は北京を拠点に、共同通信、時事通信のほか、中国の雑誌『 瞭望週刊』など、幅広いメディアに寄稿している。

「こんなオシャレな本屋がここにも?」。この年、北京では雨後の筍のように、長居したくなるすてきな本屋が続々開店している。西西弗書店(SYSPHYE)のスピードは最も速く、2017年初めに全国67軒目にして北京1号店を開店。その後2年超で全国の店舗数は約200店に増え、北京では約20店が開店した。

 同書店は木目の英国アンティーク調の内装。児童コーナー や読書用のテーブルと椅子を設け、カフェも併設されており、半分図書館のように自分の時間をゆっくり過ごす市民でにぎわっている。最近は夏目漱石の『我是猫(吾輩は猫である)』が平積みで猫のイラスト入りグッズと共に販売されていた。こんなワクワクする文化消費空間が北京を始め中国の都市部の普通の光景になっている。

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写真1:続々開店するオシャレ書店。西西弗書店で平積みになって売られる『吾輩は猫である』(撮影筆者)

 中国図書モニタリング最大手、北京開巻(OpenBook)の蒋晞亮会長は約20年前に起きた改革開放後の民営書店ブームに続き、現在は2回目の書店ブームを迎えていると指摘する。2011年末の代官山蔦屋書店とほぼ同時期にできた広州市の方所書店を皮切りに、北京でもブームが2016年以降、顕著になってきた。

 世界的にはネットの影響による書店閉店の嵐が吹き荒れる中、中国の本屋はなぜこんなに元気なのだろうか?政府の読書奨励運動と本屋支援策の影響かと思ったが、蒋会長は政府は「書店歓迎の空気を作ったが、最大の要因は存続の危機に晒された書店が生活体験型のイノベーションを起こした点にある」と主張する。

 今や本の販売だけでは儲からず、持続的でないのは中国も同じで、ネット書店が普及した2008~2013年頃は多くの民営書店が閉店した。しかし、蔦屋書店や台湾の誠品書店などの先駆けが開拓したライフスタイルを提案する融合型書店は、都市部のサービス消費の成長株として中国のビジネス・投資界から熱い期待を集めているという。本を介して学び、交流し、音楽や劇を鑑賞し、衣食や雑貨を消費する。あらゆる領域の連携が本屋を舞台に試行されており、可能性は無限大と目されている。

 また、乱立気味の総合商業施設(モール)も半図書館的存在の書店に新機軸としての期待を寄せている。北京の主要モール21カ所のうち、18カ所に西西弗書店、言几又、中信書店、単向空間、Page Oneなどオシャレな書店が続々開店している。モール側はテナント料金を映画館入居同様の低価格(通常店舗の6分の1)に抑え、改装工事費まで出す場合もあるという。

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写真2:言几又方寸店でのイベント。『寺田克也原寸』の新書発表会は満席で本も完売だった(撮影 Astrid)。

 更に、中国の生活・消費レベルが急速に向上し、文化消費が新局面に入った点も見逃せない。中国の日本関連雑誌『知日』創始者の蘇静氏は「実店舗の書店には未来が無いと言われたがそれは嘘で、2016年頃から個性的書店が流行している。大都市の消費者がモノの大量消費に飽き始め、読書を楽しむライフスタイルを重視しはじめたためだ」と指摘する。

 東野圭吾や村上春樹だけでなく、マルケスや漱石、片づけ術から『窓ぎわのトットちゃん』まで、中国人の好奇心は全方位で開花している。中国経済が「ナンバーワン」と囁かれる今、都市部の消費者が世界と同じ書棚とライフスタイルを求めるようになったとしても不思議はないだろう。

 ふと思い起こすと、これは日本の80年代末頃にあった池袋西武のリブロ書店やミニシアターの隆盛にも似ていないだろうか?遠かった「海外」が手の届くものになり、貪欲に本屋や映画館に通ったあの頃に。中国の新型書店ブームはポスト・モノ消費の新機軸として根付くのだろうか?本屋は突然の春を迎えている。


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年8月号(Vol.90)より転載したものである。