中国実感
トップ  > コラム&リポート 中国実感 >  【20-004】北京洗濯物語 手洗い、止め洗い、別洗い

【20-004】北京洗濯物語 手洗い、止め洗い、別洗い

2020年3月13日

斎藤淳子(さいとう じゅんこ): ライター

米国で修士号取得後、 北京に国費留学。JICA北京事務所、在北京日本大使館勤務を経て、現在は北京を拠点に、共同通信、時事通信のほか、中国の雑誌『 瞭望週刊』など、幅広いメディアに寄稿している。

 何の変哲もなさそうに思える洗濯だが、北京の洗濯の流儀は意外と複雑だった。

手洗い:まだまだ現役

 中国では、大都市の北京でも洗濯機が普及し始めたのは70年代末以降で、洗濯機による洗濯の歴史は短い。保有率を見ると、中国の都市部だけの統計を見ても2013年は88%、2017年は96%で、ちょうど日本の1969年~1972年に相当する。

 そのため、手洗いは今でも現役だ。手洗いは別名「ロイヤルクリーニング」とも言うように、しっかり洗えて、生地も傷めず、エコでもある。古き良きエレガントな生活技術なのだが、中国の60~70歳代以上の世代には、手洗いが「できる」を通り越して、手洗い「しか」受け入れられない「反洗濯機派」も存在し、洗濯は世代間のもめ事の代表例にもなっている。

 ネットの相談室には「いくら言っても、母が洗濯機を使ってくれません。5人家族のシーツから厚手の服まで全て手洗いで通すので、母の疲労が心配です」という悲鳴にも似た相談が寄せられている。

 このお母さんは「洗濯機ではきれいにならない。水道代や電気代も無駄になるから絶対手洗い」と主張する。働く娘からすれば、家に立派な洗濯機があるのだから使ってくれれば自分も気が楽というのだ。筆者の周りの高齢者たちも、洗濯は基本的に手洗いし、脱水機能だけ洗濯機を使ったり、大物の時だけ使ったりしている。

止め洗い:排水も再利用

 さらに、この世代は、洗濯機を利用したとしても水の再利用を貫徹する人が多い。「全自動」洗濯機を毎回手動で止めて排水を再利用するのだ。家中にバケツを並べて取り置きし、タイル床の掃除、シンクの掃除、トイレの水洗などに使うらしい。

 水資源に乏しい北京にぴったりの究極のエコとも言えるが、30代、40代の子供たちから見ると、「全自動」に任せれば小一時間で終わるはずの洗濯が半日がかりの一大プロジェクトとなり、じれったいのは想像に難くない。親にすれば、大量の水を排水溝に流すなど論外のようだ。

別洗い:一緒に洗わないで

 このように過激なほど勤勉なじじばば世代がいる一方で、手洗いどころか、洗濯機のボタンさえ押したくないという対極の怠け者もいる。中国の一人っ子政策と過酷な受験戦争が勉強以外は何もできない「小皇帝」を生んでしまったのは周知の通りだ。その影響で、大学の寮でも家政婦に自分の洗濯や掃除をしてもらったり、週末に汚れた洗濯物をスーツケースに詰めて実家に持ち帰ったりする学生もいるという。もちろん、全体から見れば少数派だがこれもまた、イマドキの洗濯風景だ。

 更に驚いたのは、20代、30代を中心とした若い世代が洗濯に関しては日本以上に「神経質に衛生的」な点だ。自分の肌着や赤ちゃんの服は洗濯機には入れず、別洗いしないと「汚い」と感じる人が実に多いのだ。その証に、中国の洗濯機には別洗い専用のミニ洗濯機というジャンルがあり、結構な人気だ。

 また、米国の人気ドラマを見て「ええっ! アメリカでは下着も服も洗濯機に突っ込んで一緒に洗っているの? 汚い!」と驚き、ネットの議論で「実は、洗濯機で下着も一緒に洗っても大丈夫」という意見に対し、「絶対に別洗いすべきだ」と多くが反対し、300万人以上が回覧している。筆者も多くの若い友人たちに「強く」別洗いを勧められた。

 このように、北京では洗濯機を使うか否か、どのように、誰が、何台使うかなど洗濯の流儀は幅広い。洗濯からも、圧縮されて一気に発展した街の多層な暮らしぶりが見えてくる。

image

北京の洗濯風景は意外にも複雑で、洗濯機の使用の是非からどう使うかまで人それぞれ。若い世代には「絶対に下着は別洗い派」も増えている。写真提供/蘇暁天


※本稿は『月刊中国ニュース』2020年4月号(Vol.98)より転載したものである。