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【20-025】中医ってどうなの?生活に根付く知恵と賛否両論

2020年10月01日

斎藤淳子(さいとう じゅんこ):ライター

米国で修士号取得後、北京に国費留学。JICA北京事務所、在北京日本大使館勤務を経て、現在は北京を拠点に、共同通信、時事通信のほか、中国の雑誌『瞭望週刊』など、幅 広いメディアに寄稿している。

 今回は、日本の漢方の「親」にあたる中国伝統医療(中医)の様子を紹介する。まず、私にとって中医の影響が大きいのは食べ物に関する感覚だ。例えば、北京の食卓によく上る羊肉は味が濃くて美味しいのだが体を温める食材なので、「上火」しているときはパスするのが得策だ。

「上火」とは、中医で体内の火(「陽」)が強くなった状態の俗称で、おできや口内炎、口の乾き、目の充血などが目印になる。中医では、人の体は陰と陽のバランスが取れている時が健康と考えるので、「上火」は陽が強くなって失調し始めたサインだ。そんな時は、羊肉を始め肉類は避け、体を冷やす菊茶や夏野菜、西瓜、梨などで調整する。この辺は、北京では大抵誰でも知っている中医の常識だ。

 日本にも冷えたら生姜湯で体を温める知恵はある。ただ、中医が非凡なのは、全ての食べ物を体を「温める」から「冷やす」軸に分類している点だ。中国の執念深い実践による法則性の探求は筋金入りだ。これらの中医的な食文化は北京の暮らしに深く根づき、ここで暮らす私の健康にも役立っている。

 一方で、中医の本体である医療サービスの浸透度はどうだろうか?私の周りに聞いてみたところ、案外少なくて驚いた。知り合いの40代のママは「うちは中医は行かない。生薬の効き目は遅いし、西洋医の方が手軽で安心」という。統計でも、全国の中医関連病院での診察量は全体の17.5%(2018年1月新華社)に限られる。

 調べてみると、中医は信じる人と敬遠する人に分かれる。また、最近は「中医粉(中医ファン)」と「中医黒(反中医)」というネット用語まであり、論争中だ。私はというと、以前に針治療で腰の激痛をピタリと治してもらってからすっかりファンになった。また、中医は人間の体を自然の一部の小宇宙と捉える。心身一体で人間全体をトータルに捉える点は西洋医よりもある意味で先進的ともいえる。体内の気を養って循環させ、陰と陽のバランスを整えるというイメージも魅力的だ。中医の良さは十分に分かる。

 その一方でイマドキの人たちは中医のどの点に不満なのだろうか。反対派の主張を見てみた。1つ目は「中医と宣伝しているものはペテン師が多い」という。これは、突き詰めれば信用の問題だろう。確かに中医は性質上、不透明性が高く、私の経験でも当たりと外れの個人差が大きい。

 また、多くの人が現代の生薬の品質問題を指摘する。例えば、農家は少しでも早く大きく育てようと「大根のような高麗ニンジン」を生産したと読んだことがある。品質管理は薬草に限らず中国全体に共通する難題だ。

 更に、中医技術の伝承も課題だ。中医は基本的に全科で、古典書の熟読と豊富な経験による「悟り」など、求められる水準が高い。現在は大学5年間で西洋医学と中医の両方を学ぶが、かつては日本の伝統芸能と同じ師弟制で経験を積み上げていたという。技の伝承は大変だ。

 このように、今日の中医は、食の知恵は人々の生活に根を張って元気だが、医療分野では残念なことに「(中医より)手軽で安全」と目されている西洋医に押され気味だ。2000年以上の歴史を生き抜いた中医。信用や生薬の品質に対する不安といった中国社会全体に共通する「現代病」を克服し、元気に発展してくれることを願っている。

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①中医は基本的に全科で、古典書の熟読と豊富な臨床経験による「悟り」など高い技術が求められる。

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②中医の生薬は患者の体質や状況に合わせて調合する。ゆっくりだが、体全体を調整して病気を治すという。写真提供/博円中医


※本稿は『月刊中国ニュース』2020年10月号(Vol.104)より転載したものである。