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【21-003】なぜ愛し合うのは難しくなったの?中国の恋愛受難時代

2021年03月15日

斎藤淳子(さいとう じゅんこ):ライター

米国で修士号取得後、北京に国費留学。JICA北京事務所、在北京日本大使館勤務を経て、現在は北京を拠点に、共同通信、時事通信のほか、中国の雑誌『瞭望週刊』など、幅 広いメディアに寄稿している。

 近年、中国の若者たちは「男女が愛し合うのがますます難しくなっているのはなぜか?」(雑誌『人物』記事)と自問している。中国の2019年の結婚率は6年連続で下がっており、離婚率(人口千対)に至っては3.2と日本(1.66)の倍近くまで急増している。危機感をもった国は今年1月から離婚手続きに「30日の冷却期間」を導入し、離婚抑制に乗り出したほどだ。なぜ彼らは愛し合いにくくなっているのか? その要因を追った。

世界の潮流?増える「佛系」

 まず、急速な若者の「佛系」化がある。この数年、中国でも日本語の「草食系」に似た「仏男子」、すなわち、中国語の「佛系(フォーシー)」が増えている。「佛系」は男女関係においては異性に興味や関心がなく「1人でいることが好きで、恋愛に時間を費やさない人」の意味で使われる。

 例えば、大卒後北京のメディアに就職して2年目のLさん(23歳女性)も「1人の方が良い」と感じている人の1人だ。「仕事は忙しいし、退社後も1人の時間の方が居心地が良いから、彼氏が欲しいとは思わない。女友達と一緒に居れば十分楽しいし。そもそも、相手が自分をどう思っているかと常に考えなくちゃいけないのは面倒」という。

「既に楽しいし、恋愛は面倒だから興味ない」とは、日本の若者も近頃、良く口にするセリフだ。若者の「草食(=佛系)化」は国の枠を超えて世界規模で進行する社会現象のようだ。

現代中国ならではの要因も

 また、中国においては一人っ子という「育ち」も影響していると指摘するのは、文学から古今東西の恋愛を紐解き中国の「恋愛専門家」として人気の梁永安(リアン・ヨンアン)・復旦大学中国文学部副教授だ。教授は親が子供の学業優先で世話をやきすぎた結果、「人に合わせる能力が低く」「内心は小学生のままの大人」が増えているという。

 勇気の問題もある。Lさんは「家庭内暴力とか恋愛相手に騙されたとか悪い情報が溢れていて怖い」と語る。「恋愛などの深い人間関係で傷つくのが怖い」と縮こまるタイプは日本でも多いが、中国でも一人っ子世代を中心に増えているようだ。

 さらに中国の学園生活では「恋愛は悪いこと」とされていることも関係があるだろう。中国では中高生時代の恋愛を「早恋(ザオリエン)」と呼び、「(唯一大事な)勉強の邪魔になる不良行為」として未だに「禁止」し、若い恋愛の芽を摘んでいる。

 そして、近年の中国の時代環境の影響は中でも決定的だ。急速な圧縮型経済発展は経済的にはプラスだが、即座の適応を迫られる人間にとってはストレスも多い。短期決戦の熾烈な競争や効率至上主義が吹き荒れるなか、当然のことながら恋愛もその影響を受ける。先の梁副教授は時代の変化が速すぎて、住宅価格は法外に高騰し、仕事の圧力も大きいので男女感情に関しても「功利的」になりやすいと指摘する。

 北京で独身者を紹介する際、周囲の大人が使う言語も功利的色彩で溢れている。年齢、学歴、職業や容姿のみならず住宅と車、北京戸籍、財力と権力などが当たり前の結婚条件として語られている。これでは「人間」はおまけ扱いだ。日々功利主義の言語に囲まれた若者にとって恋は可能なのだろうか?

 男女の「愛し合いにくさ」を掘り下げてみたら、根底には日本とも共通する若者の「草食(=佛系)化」傾向があり、同時に現代中国独自の矛盾が見えてきた。人間本来の感性はどこへ向かっているのだろうか?

 若者は恋を!愛すればこそ「愛こそは全て」なのだから。

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急速に変化する中国社会では、若い男女は「愛し合いにくさ」を感じ始めている。背景には日本とも共通する若者の「草食(=佛系)化」傾向と同時に現代中国独自の矛盾が見えてきた。 写真提供/Maggie Wu


※本稿は『月刊中国ニュース』2021年3月号(Vol.109)より転載したものである。