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【21-004】第二の故郷、北京

2021年05月14日

井上 正順(いのうえ まさゆき)

1992年生まれ。北京語言大学漢語国際教育専攻学士・修士号取得。北京留学中は北京語言大学日本人留学生会代表、北京日本人留学生社団顧問、日本希望工程国際交流協会顧問を歴任。修士課程修了後、中国にてスタートアップを経験。2020年9月に大学時代の学友と日本で会社を設立。現在は本業の他に、東京都日中友好協会日中友好青年大使として様々な日中交流活動を企画・運営している。

 皆さんには第二の故郷がありますか? 私にとっての第二の故郷は、北京です。北京との出会いは2011年8月末、大きなスーツケース2つを抱えた私は上海から北京に初めて足を踏み入れました...。

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北京郊外懐柔区の自然風景

 それは、中国に来て4カ月にして早くも2回目の引っ越しだった。当時は上海と北京がどれくらい離れているのか想像もつかなかった。飛行機に乗って大体1時間半くらいで着陸したが、その距離は1,100キロ、東京から日本最北端の北海道稚内までの直線距離と同じらしい。

 北京首都空港から大学が用意したバスに乗り、宿舎まで向かう道筋は今でも鮮明に覚えている。機場高速から見た広大な北京郊外の街並みと交通量の多さ、市内に近づくたびに増える高層ビルの多さ、望和橋から環状道路の四環路に入って直ぐに見かけたIKEA、バスの右手から見えたオリンピックスタジアム「鳥の巣」など、空港から大学に戻るたび当時の思い出が常に蘇ってくる。

 北京という場所に対しては、中国の「首都」というイメージ以外は特に持っていなかった。そんな私が北京を強く意識したきっかけはタクシーに初めて乗ったときだった。上海でも何回もタクシーには乗っていたので、北京でも特に意識せずに運転手に目的地を告げたのだが、向こうの中国語が舌を巻きすぎてて全然聞き取れない。なんだこれは! こんな中国語は初めてだ! 普通語を勉強しているものの、地域によって発音に大きな違いがあることを痛感した瞬間であった。

 少し話は逸れたが、ここで北京という都市の魅力を簡単に述べたいと思う。北京という土地は市の真ん中に紫禁城があり、それ以外にも天壇公園や四合院など歴史的な建造物が残っている。ただご存知の通り、中国は急速な経済発展を遂げ、高層ビルや最新の商業施設なども日々建設されているので、中国悠久の歴史と経済発展を同時に垣間見ることができるのだ。テナントの移り変わりが激しく、1、2カ月後に同じ場所へ行ったら新たな発見をすることになる。

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景山公園から撮った紫禁城

 個人的に北京で1番好きな場所は昔ながらの北京を体験できる「琉璃廠」だ。古代中国の官僚登用試験を受験するために地方から上京してきた若者が住んでいたという名残から、現在でも文房具や古書などを扱う店が多い。ここで昔ながらの四合院を眺めながら東に向かって15分ほど歩くと前門の「大柵欄」に辿り着く。明王朝の時代に開かれた中国最古の商店街で、今でも多くの「老字号」(老舗)が立ち並ぶこのエリアには、中国初の映画館や老北京布靴、同仁堂などが今でも営業している。近年は大柵欄に北京坊という新しい商業エリアが誕生し、日本の無印良品がMUJIホテルを作ったというニュースを聞いたことがある読者の方もいるのではないだろうか。

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左:瑠璃廠入り口の書店 右:大柵欄の風景

 この北京という地で私は合計7年間を過ごした。中国語学習はもちろん、それ以外にも多くの友人を作り、たくさんの思い出を作り、最終的に自分の夢を見つけることができた。まさしく私の青春時代はすべて北京で過ごしたと言っても過言ではない。中国は非常に大きく、地域ごとに文化や言語も違う。北方地域と南方地域で性格等も異なると言われている中、私は中国人の友人から北方人のような性格だとよく言われた。

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左:いつも人が多い八達嶺長城 右:不到長城非好漢 万里の長城である北八楼

 日本では北京=大阪、東京=上海と比喩されるが、北方人の性格は良い意味で大雑把、適当な考え方と距離感を持っているのが北京の良さだと思う。小さいことは気にしない、気軽に本音を言い合えるこのコミュニティに東京生まれ、東京育ちの私は大きなギャップと魅力を感じた。日本の社会コミュニティでは自分の考えや感情を表に出すと反発されることが多いと感じるが、中国では自分を如何にアピールするかが大事なのである。北京で生活し、自主的に、活発的に頑張る友人たちを見て触発されたことが、今のアイデンティティを形成する大きなきっかけになった。言語以外にも人として大きく成長させてくれた私の第二の故郷「北京」、次に帰った時にどのような変化を見られるか非常に楽しみだ。

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左:イスラエルの学友との卒業写真、右:筆者の大好物 老北京ヨーグルト


※本稿は『和華』第29号(2021年4月)より転載したものである。