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【23-10】中国、半導体材料の輸出規制へ  対外関係法等の制定も

松田侑奈(アジア・太平洋総合研究センター フェロー) 2023年09月01日

 7月より、中国では、対外関係法と反スパイ法改訂案が施行されている。

 対外関係法は、中国の国益に反する行為や行動に対し、中国が相応の報復・制限措置をとる権利を定めたものである。

 類似している法律で、2021年に反外国制裁法が制定されたが、特定国家が制裁やそれに準ずる措置を取る場合、中国が相応する措置を取ることができると定めており、受動的なスタンスを見せていた。ところが、今回の対外関係法では、他国の制裁等がなくても、中国の主権、安全、発展の利益を脅かす行為があれば、それに相応する報復・制限措置を取ることができると定めているため、より包括的で、積極的な対応方針となった。

<参考> 対外関係法の主要条文

第6条 国家機関と武装力量、各政党と各人民団体、企業事業組織とその他の社会組織及び公民は、対外交流・協力において国の主権・安全・尊厳・栄誉・利益を守る責任と義務がある。

第8条 いかなる組織や個人も本法と関連法律に違反し、対外往来において国の利益を損なう活動に従事したならば、法に従って法的責任を追及する。

第33条 国際法と国際関係の基本準則に違反し、中華人民共和国の主権、安全、発展の利益を脅かす行為に対して、中華人民共和国は相応の報復・制限措置をとる権利を有する。国務院とその部門は必要な行政法規、部門規章を制定し、相応の業務制度と仕組みを構築し、部門による協力・連携を強化し、関連する報復・制限措置を確定・実施する。本条第一項、第二項に基づいて下した決定を最終決定とする。

 また、反スパイ法改定案では、既存の「国家機密と情報」を盗み出す行為と限定されていたスパイ行為の範囲に、「その他国家安全保障や利益に関連する資料」を追加した。また、「機密情報や国家安全保障や利益に関わる文献、データ等の聞き出し、取得、買収、違法提供」する行為もスパイ行為とみなすとした。スパイ行為に対する行政処罰も重くなり、刑法上の国家安全危害罪で処罰できるレベルでなくても、行政拘留[ⅰ]を科すことができるようになった。

 この「国家安全保障や利益に関連する」という規定は、スパイ行為とみなせる範囲が相当広くなったことを示唆する。また、中国にいる外国人、外国人との交流が多い中国人は、海外に機密情報を漏洩する意図がなくても、スパイとして処罰を受ける可能性が高まったと言える。

 一方、中国商務部は、8月より主に半導体の材料に使われる希少金属のガリウムとゲルマニウム製品の一部に対し輸出規制を実施するとした[ⅱ]。規制製品の品目の下記の通りである。

・8種類のガリウム関連製品:アンチモン化ガリウム、ヒ化ガリウム、金属ガリウム、窒化ガリウム、酸化ガリウム、リン化ガリウム、セレン化ガリウム、ヒ化インジウムガリウム

・6種類のゲルマニウム製品:二酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムエピタキシャル成長基板、ゲルマニウムインゴット、ゲルマニウム金属、四塩化ゲルマニウム、リン化ゲルマニウム亜鉛

 ガリウムは中国の生産が世界の9割以上、ゲルマニウムは埋蔵量が世界の約4割を占めている。これらの金属は、半導体やLED、携帯電話、液晶テレビ、光ファイバー、太陽光パネルやコンピュータチップ等幅広い電子製品に使われている。

 商務部はメディア発表会で今回の輸出規制は、国家安全を守ることを目的に特定の国家を念頭に置いた措置ではないと強調しつつも、アメリカの半導体輸出規制強化は、世界の半導体市場を人為的に分裂する行為で、中国企業の正当な権益に悪影響を及ぼしていると強く批判した。

 反外国制裁法に続き、対外関係法と反スパイ法改定案が公開されたことから、外国のロングアーム制裁への対抗や強硬な対外政策姿勢が見受けられる。国家安全と利益への強調やアメリカの半導体規制への対抗が続き、緊張感が漂う国際関係の継続が懸念されるが、引き続き、中国の動向をフォローしていきたい。


[i] 行政拘留は行政処罰の一種であり、治安管理処罰法その他の法令の違反に対する処罰である。治安管理処罰法に基づく行政拘留の期間は15日以内(単一の違反行為の場合)、または20日以内((複数の違反行為がある場合)とされている。

[ii] 商務部:「海关总署公告2023年第23号 关于对镓、锗相关物项实施出口管制的公告」