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【19-01】中国の科学技術・イノベーションに関わる主要組織

2019年11月22日 周 少丹(中国総合研究・さくらサイエンスセンターフェロー)

 中国では、中国共産党の指導のもとで政治や行政などが行われている。中国共産党の最高権力機関は、共産党全国代表大会および大会により選出された中央委員会である。中央委員会は総書記、意思決定機関の中央政治局および事務局機能を持つ中央書記処から構成されている。中国共産党の大きな意思決定は、中央政治局で、とりわけ中央政治局常務委員会でなされる。2019年1月現在の中央政治局常務委員会は共産党総書記である習近平氏、李克強氏(国務院総理兼任)、栗戦書氏(全国人民代表大会常務委員会委員長兼任)、韓正氏(国務院副総理兼任)ら7名で構成されている。

 全国人民代表大会は、国の最高権力機関で、国家主席を選出するとともに、国務院、中央軍事委員会、最高人民法院、最高人民検察院などの主要構成員を選出している。2019年1月現在の全国人民代表大会常務委員会委員長は栗戦書氏で、上述の7名の中国共産党中央委員会政治局常務委員の一人であり、党内序列第3位である。また国家主席は、習近平共産党総書記が兼ねている。

主要政府組織

1.1 国務院

 国務院は中国の国家行政の要であり、他国における内閣に相当する。現在の国務院のトップは李克強総理と4人の副総理および5人の国務委員から構成されている。副総理の役割分担は、韓正氏が発展改革と財政、孫春蘭氏(女性)が文化、教育、スポーツと公共衛生、胡春華氏が農村業務と貧困脱出、劉鶴氏が科学技術と商務、産業をそれぞれ担当している。今まで科学技術については教育を担当する副総理の管轄であったが、2018年から科学技術は商務と産業の担当副総理の管轄下になり、新しい政府のイノベーション重視志向が窺える。

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出典:中国中央政府HPより筆者作成
図1 中国政府科学技術関連主要組織図

 国務院の傘下には、日本政府の各省に相当する26の部・委員会、10の直属局(庁に相当)、16の部・委員会管理の部局、9の直属事業法人等から構成される。中国の科学技術の母体たる中国科学院は、直属事業組織の一つである。国務院の直属事業組織としては、中国科学院のほか中国工程院、中国社会科学院などがある。

1.1.1 国家科学技術リーディンググループ

 国家科学技術リーディンググループ(国家科技領導小組)は、国務院の中に設置された科学技術戦略会議であり、国の重大な科学技術関連政策を策定・審議し、重大な科学技術プロジェクトの設置と審議および省庁間の科学技術関連策を調整する役割を果たす組織で、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)に相当する。このリーディンググループは、2018年3月に中国政府の省庁再編に伴い、1998年6月に設立された「国家科学技術教育リーディンググループ(国家科技教育領導小組)」から名称変更されたものである。現在、国務院の李克強総理が座長を、科学技術および商務・産業担当の劉鶴副総理が副座長を務めている。他に発展改革委員会、教育部、科学技術部、工業情報化部、財政部、人力資源社会保障部、農業農村部、人民銀行、国有資産監督管理委員会、中国科学院、中国工程院、中央軍事委員会科学技術委員会、中国科学技術協会などの各機関、組織の長が参加している。

1.1.2 国家発展改革委員会

 国家発展改革委員会(NDRC: National Development and Reform Commission)は、国務院に属する行政部門で、前身は1952年に発足した国家計画委員会(計画経済体制の司令塔)であったが、1998年に国家発展計画委員会へと名称変更し、さらに2003年に国務院体制改革弁公室全体と国家経済貿易委員会の一部を取り込み、国家発展改革委員会と改称された。同委員会は財政、金融、ハイテク産業、環境・エネルギー、地域振興などの政策策定や各産業の管理監督、公共事業の承認など経済政策を一手に握り、歴代のトップは国務院副総理や国務委員が兼任することもある。中国政府の全体方針を示す各期の「国民経済・社会発展五カ年計画」が国家発展改革委員会により策定されていることは、その大きな権限を物語る。

1.1.3 科学技術部

 科学技術部(MOST: Ministry of Science and Technology)は、国務院直属の基礎研究および応用研究に関する科学技術活動を管理する行政機関(日本の省に相当)である。その前身の科学技術委員会は、1958年に科学規格委員会と国家技術委員会の二部門が合併し設立された。1970年に中国科学院に吸収されたが、1977年に再び国家科学技術委員会として独立し、1998年に科学技術部と改称された。2018年3月の中央省庁の組織再編により、科学技術部は人力資源社会保障部傘下の外国専門家局[1]を吸収し、国家自然科学基金委員会を管理するようになり、世界でもまれに見る巨大な科学技術行政機関となった。

 現在、科学技術部は以下のミッションのもと、中国の科学技術に関する重要な意思決定を行っている。

  • 科学技術発展のための戦略、経済・社会発展を促進する科学技術や外国専門家の招へいに関する政策方針・法規の研究、提案と実施
  • ナショナル・イノベーション・システムの構築と科学技術体制改革に向けた、他の行政機関と連携した研究奨励制度の確立など
  • 国家科学技術管理プラットフォーム(日本の府省共通研究開発システムe-RADに相当)の構築、国の研究資金の調整、評価と監督
  • 国家基礎研究基本政策の策定、国家型基礎研究、戦略的基礎研究の組織と推進
  • 基盤技術、先端技術、破壊的技術における国家型研究プロジェクトの設定と監督
  • ハイテク技術の研究開発、およびその産業化の推進
  • 国の研究成果の橋渡しシステムの構築、および関連政策の策定
  • 地域イノベーションシステムの構築の調整と推進
  • 国家自然科学基金委員会に対する監督と管理
  • 海外人材の招へい、国内科学技術人材育成政策の策定
  • 科技日報の運営と管理など

 また、国の指導部から「次世代人工知能発展規画(AI2030)」のような新興技術に関する政策の策定が突発的に指示され、技術開発を推進することもある。

1.1.4 工業情報化部

 工業情報化部(MIIT:Ministry of Industry and Information Technology)は、国務院傘下で産業および情報通信を管理する行政機関で、日本の経済産業省と総務省の情報流通行政局および総合通信基盤局に相当する。産業の情報化、創出などを全般的に管理しているが、産業構造の高度化に向けて、産業技術やハイテク技術の研究開発にも関わっている。例えば、中国の次世代製造技術政策である「中国製造2025」の実施は、主に工業情報化部が主導している。

1.1.5 教育部

 教育部(MOE: Ministry of Education)は、国務院傘下で教育を管理する行政機関で、日本の文部科学省の教育を管理する部分に相当する。科学技術において、教育部の高等教育司(局)は大学生教育、スタートアップ教育および支援を、研究生司(局)は大学院生教育を、科学技術司(局)は「高等教育機関イノベーション能力向上プログラム(通称、2011プロジェクト)」、教育部所管の研究開発拠点の設置、教育情報化、高等教育機関の国際協力をそれぞれ推進している。

1.2 主要研究開発組織

1.2.1 中国科学院

 中国が建国され、1カ月が経過した1949年11月1日に、中国政務院(国務院の前身)に直属する行政機関として中国科学院(CAS:Chinese Academy of Sciences)が設立された。その実質的な前身は、中国国民党政権下の中央研究院と北平研究院である。中央研究院が中華民国および国民党政府と共に台湾へ移転したこと伴い、残った施設や人員を接収して中国科学院が設立されたという経緯がある。中国科学院は設立当初、全国の自然科学および社会科学分野の研究を行い、科学・教育・生産の緊密な連携を目指すものと位置付けられていた。その後、人文・社会学分野が1977年に分離し、中国社会科学院が設立された。さらに、工学分野が分離・独立し、1994年に中国工程院(The Chinese Academy of Engineering)が設立された。中国科学院は中国工程院と合わせて「両院」と呼ばれ、中国最高の学術機関に位置づけられている。また、中国科学院は最初に大学院生教育制度を導入し、中国における博士学位の第一号を生み出した。中国で最初に全国の大学や研究機関に競争的研究資金を拠出する機能を有したのは中国科学院である。さらに、1998年に中国政府がナショナル・イノベーション・システム(NIS)の構築を決意した時に、中国科学院に先にNIS構築の試みを認めて、中国科学院「知識創新プロジェクト」をスタートした。当プロジェクトの実施は、後述の「985プロジェクト」の立ち上げのきっかけとなった。中国科学院は「中国の自然科学の母」、「中国の自然科学の先導役」といっても過言ではない。

 現在、中国科学院は中国の行政を担う国務院の直属研究機関であり、科学技術部や教育部などの行政機関と同格である。科学院は、大別すると本部機構、分院、学部(Academic Divisions)、傘下の研究所、大学などに分けられる。

 中国科学院はすでに世界最大の国立研究機関となり、2016年末の統計によれば、104の研究所、7万23名の職員を擁する。このうち正規の職員が6万4,625名、その他の職員が5,398名である。正規の職員のうち、研究開発職員は5万6,897名、事務職員は5,928名である。また、女性の職員数は2万4,853名であり、全体の約35%に達する。科学院職員の年齢構成は35歳以下が約半分、40歳以下でもおよそ3分の2と、非常に若い年齢構成となっている。ちなみに、日本の理化学研究所の正規職員数は2016年4月現在で3,433名であり、米国最大の研究機関である国立衛生研究所(NIH)は約1万8,000名である。

 中国では「院士(アカデミシャン)」の称号を付与できる機関は、中国科学院と中国工程院の2機関のみである。中国では院士になることが自然科学系研究者にとって国内で最高の名誉であり、院士間での議論を経て科学技術の重要なテーマについて政府に政策提言する立場にもある。1994年1月、それまで国の科学技術分野における最高の栄誉称号であった学部委員を「中国科学院院士」に、国の科学技術分野における最高諮問機関であった学部委員大会を「中国科学院院士大会」にそれぞれ改称した。同年6月には米国のハーバート・サイモン(ノーベル経済学賞受賞者)や英国のデレック・バートン(ノーベル化学賞受賞者)ら中国科学院外国籍院士が選出された。院士大会は、院士全員の参加を求めて2年に一度開催される。1996年以降、中国工程院と合同で開催されている。院士大会が開催される際に、国家指導者が最初に挨拶し両院への期待を述べるのは慣例となっている。

 科学院傘下の研究所の運営はそれぞれの研究所に任されていることなどもあり、研究開発を実際に行っているのは傘下の研究所である。現在では研究所数は104となっている。ただし、中国科学院本部は新しい研究開発の必要性や組織の効率性などの観点からこれらの研究所を常にウォッチしており、必要に応じて組織の改廃を行っているため、研究所数は変動する。

 中国科学院の研究資金について、「中国科学院統計年鑑2017」によれば、2016年の予算は総計で約518億元(約8,400億円)と、ここ20年以上一貫して増加している。これに対し、理化学研究所の予算は約900億円である。科学院全体の予算に対し、研究開発に充当されるのは約455億元(約7,400億円)である。長年、経済発展を目指す国策の影響からか、全予算に占める応用研究、開発研究(中国語で「試験発展研究」)の割合が多かったが、近年では基礎研究の割合が増えてきている。1996年時点では、全予算に占める割合は、基礎研究が31.4%、応用研究が50.7%、開発研究が17.9%であったが、2016年時点では基礎研究が42%、応用研究が51.9%、開発研究が6.1%となっている。

1.2.2 中国工程院

 1991年、中国科学院の学部(Academic Divisions)の一つである技術科学部が、国際的な組織である国際工学アカデミー連合(CAETS)のメンバーとなるべく申請を行った。しかし、技術科学部が中国科学院の一部であるとの理由で申請が却下されたため、翌1992年に技術科学部に所属する王大珩(Wang Daheng)ら6名が早期に中国工程・技術科学院を設置すべきという意見書をまとめ、政府に提出した。この意見書を受けて政府部内で検討が進められ、1994年2月に中国工程院が新設された。

 中国工程院は中国科学院と同様に院士制度を導入し、1991年6月、第7回中国科学院院士大会開催と同時期に、中国工程院院士大会を北京で開催した。1996年以降は、院士大会を隔年毎に中国科学院と合同で開催することになった。

 中国工程院は、院士大会、主席団、九つの学部、七つの専門委員会および事務局で構成されている。中国工程院は中国科学院と違い、傘下に研究所を有していない。主な任務は、中央政府および地方自治体の様々な公的機関からの要請で調査研究・提案を行うシンクタンクとしての機能と、院士選出の2つである。その他、2014年には独自の国際誌「Engineering」(英文誌と中文誌を同時発行)を発刊し、世界のトップ水準の雑誌とすることを目指すなどの活動も行っている。

 学部は機械・運搬工学、情報・電子工学、化学工業・冶金・材料工学、エネルギー・鉱山学、土木・水利・建築工学、環境・繊維工学、農学、医薬・衛生工学、工程管理学の九つであり、専門委員会は院士選出政策委員会、科学倫理委員会、諮問委員会、科学技術協力委員会、学術・出版委員会、教育委員会、産業科学技術委員会の七つである。

 2016年10月現在で、中国工程院院士数は835名、院士の平均年齢は67.43歳である。また中国工程院も中国科学院と同様に外国籍院士を選出しており、全体で49名となっている。2017年の中国工程院外国籍院士には、米国マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏も選出された。

 設立以来、中国工程院は関連する政府機関からの委託を受け、国家の主要な指針や政策についての助言を行ってきた。2015年11月には、政府から技術分野における国家的シンクタンクに正式に指定され、産業技術政策の基盤になるビジョン・計画の策定に関わることになった。

 中央政府および地方自治体の様々な公的機関からの要請で調査研究を行い、多様な提案を行ってきた。これらの受託研究は、国家のマクロ意思決定に対するメンバーの貢献を最大限に引き出す上で重要な役割を果たしてきた。それと同時に、院士たちは長期的に蓄積された自分の経験と視点、および国際的な工学や技術の発展傾向に基づき、定期的かつ積極的に意見や提案を出してきた。

1.2.3 主要大学

 『中国統計年鑑2018』によれば、中国全土で高等教育機関は2,631カ所があり、そのうち1,243 の大学と1,388の高等専門学校がある。中国中央政府は、1995年にスタートした「211プロジェクト」、と1998年スタートした「985プロジェクト」で大学重点化を実施してきた。「211プロジェクト」では112大学、「985プロジェクト」では39大学(基本的に211プロジェクトにも選出)を指定し、重点的な支援を行っている。支援金において、後者の方が遙かに多い。現在では、中国トップ大学と言えば、「985プロジェクト」指定大学(以下は、「985大学」)の意味合いが強い。

 さらに、「985大学」は二期に分けて指定された経緯があり、特に第一期で指定された9つの大学は「九校連盟(通称、C9大学)」と言われている。米国にはアイビー・リーグとよばれる「東海岸のエリート私立伝統校群」があり、その卒業生は他の難関大学卒業生とも別格とされ、米国社会における学閥・既得権層の象徴的存在といわれているが、C9は中国版アイビー・リーグともいえ、同様に中国上流社会の象徴とされることもある。C9メンバーは北京大学、清華大学、復旦大学、上海交通大学、浙江大学、中国科学技術大学、南京大学、ハルビン工業大学、西安交通大学である。その他、中国教育部による「985プロジェクト」の対象校に指定されている34校(C9を含む)が、C9に次ぐハイレベル大学といえる。C9大学の国際的評価として、Times Higher Education (2019)とQS(2019)によるランキングを表1に示す。

表1:中国C9大学の国際ランキング
出典:THE2019、QS2019により作者作成
THE2019[2](500位以内) QS2019[3](400位以内)
清華大学 22 17
北京大学 31 30
復旦大学 104 44
上海交通大学 189 59
浙江大学 101 68
中国科学技術大学 93 98
南京大学 134 122
ハルピン工業大学 401-500 285
西安交通大学

 中国科学技術信息研究所(ISTIC)と武漢大学が共同で毎年中国国内における大学ランキングを発表しているが、国内の評価でも、世界ランキングでみる評価でも、清華大学と北京大学が中国におけるトップ大学の象徴といえる。それぞれの大学についての詳細は、林幸秀『北京大学と清華大学』(丸善プラネット,2017)」を、他の大学については「中国の主要800大学」 を参照されたい。

 また、これらの伝統的名門校の他に、近年海外の大学と連携して中国国内で新型大学を新設する動きもある。上海ニューヨーク大学は、米国ニューヨーク大学と華東師範大学が共同で設立し、上海にいながらニューヨーク大学の学位が取得できる。2010年にはハーバード大学ビジネススクールが上海市浦東に新キャンパス「ハーバード上海センター」をオープンしたことを皮切りに、米国の大学の中国進出が続く傾向にあるといえる。

 他方、「985プロジェクト」によって中国の大学は世界一流大学を目指して、国内で過度な競争をし、高い給料や完備された研究施設で985大学以外の大学からハイレベル人材の引き抜きしたりし、他の大学の成長を阻害したことも報告されている。また、985大学が世界一流と評価されるために、研究者の契約継続や昇進において、論文の数、被引用回数、特許の数など数値的評価システムを取ったため、研究者は成果の出やすい課題しか研究しない傾向になり、その結果、独創性のある研究が行われにくい状況にあるとの報告もある。こうした課題を解決するために、中国政府は「一流大学建設・一流領域形成に向けた大学改革」政策を打ち出している。

参考文献:

[1] 佐々木智弘編,2015,変容する中国・国家発展改革委員会 ----機能と影響に関する実証分析----,研究双書No.617

[2] 国立国会図書館調査および立法考査局,2017,科学技術に関する調査プロジェクト2017:政策決定と科学的リテラシー,国立国会図書館 

[3] 林幸秀,2017,中国科学院~世界最大の科学技術機関の全容、優れた点と課題~,丸善プラネット

[4] 林幸秀,2014,北京大学と清華大学,丸善プラネット

[5] 国立国会図書館調査および立法考査局,2018,科学技術に関する調査プロジェクト2017報告書「政策決定と科学的リテラシー」


[1] 外国専門家や研究者の誘致を担当管理する部局である。

[2] https://www.timeshighereducation.com/world-university-rankings/2019/world-ranking#!/page/0/length/25/sort_by/rank/sort_order/asc/cols/stats

[3] https://www.topuniversities.com/university-rankings/world-university-rankings/2019