【22-04】浙江省:イノベーションをベースに3大産業の先進地を構築
洪恒飛 袁暁玲 江 耘(科技日報記者) 2022年05月11日
浙江省金華市でパートナー型家庭用ロボットと会話する子供たち。(画像提供:視覚中国)
浙江省では、テクノロジーのイノベーションと産業の高度化が長期にわたって足並みを揃えて推進されている。「浙江省世界先進的製造業拠点建設第14次五カ年計画」によると、同省は次世代情報技術といった新興産業を重点的に発展させ、デジタル経済、ヘルスケア、新材料といった重点分野の未来産業の展開を図っている。
之江実験室11号棟のスマートコンピューターハードウェア研究センターにあるニューロン1億個以上のニューロモルフィックコンピューター「Darwin Mouse」のパイロットランプがチカチカと点滅している。これは中国初の1億個以上のニューロンを持つニューロモルフィックコンピューターだ。科学研究者は現在、その実際の応用シーンを開拓するべく、同コンピューター専用のソフトウェア開発プラットフォームやオペレーティングシステムを研究開発している。
「浙江省世界先進的製造業拠点建設第14次五カ年計画(2021‐25年)」によると、同省は次世代情報技術といった新興産業を重点的に発展させ、デジタル経済、ヘルスケア、新材料といった重点分野の未来産業の展開を図っている。
浙江省党委員会の袁家軍書記は取材に対して、「当省は現在、『騰籠換鳥(籠を空けて、中の鳥を入れ替える』、『鳳凰涅槃(苦難を経て新たなものに生まれ変わる)』と呼ばれる研究開発プロジェクトを推進し、人材強省、イノベーション強省首位戦略を実施し、『インターネット+』、『ヘルスケア』、『新材料』の三大テクノロジー・イノベーションの先進地構築を加速させている」と説明した。
2020年末の時点で、浙江省の約60%の国家・省級テクノロジー賞、70%以上のテクノロジー企業とテクノロジー人材、80%以上の省級科学研究開発プロジェクト、90%以上の重要イノベーションプラットフォームが、3大テクノロジー・イノベーションの先進地に集中しており、浙江省の産業構造最適化のためのイノベーションの基盤を固めている。
「インターネット+」と実体経済の融合促進
「一筋の光」を通してリアルタイムで水質をモニタリングすることなど可能なのだろうか?数ヶ月前、人工知能(AI)、レーダー式液面計測機器、動画感知といった先端技術が一つになったハイパースペクトル水質マルチパラメーター監視装置が浙江省杭州市で発表された。同装置は秒単位で、クロロフィル、過マンガン酸塩の指数、透明度といった水質に関するカギとなるパラメーター11項目を収集できる。
杭州海康威視デジタル技術股份有限公司の関係責任者によると、同社の研究開発チームは権威ある研究所や水質実験室と共同で、コンピューターに対して人工知能反転アルゴリズムトレーニングを行い、地域によって異なる水域の特徴に合わせて、相応の人工知能アルゴリズムモデルを採用し、ケースバイケースのモニタリング展開を実現している。
どのように「インターネット+」と実体経済の融合発展を推進し、デジタル技術による経済発展の拡大、倍増させる役割を十分に発揮させることができるのだろう?「シリコンバレー楽園」の構築に力を注ぐ杭州ハイテクパーク(濱江)は、複数の説明を与えている。例えば、パークには集聚網易(杭州)や華為(ファーウェイ)杭州研究所といった国際競争力を有するインターネット企業及び情報技術企業が多く集まっており、プロジェクトはECや金融テクノロジー、スマート医療、デジタル文化・娯楽といった複数の分野をカバーし、インターネット技術研究開発から業務応用に至るまでの整った産業チェーンを形成している。
また、省級情報経済モデルエリア22ヶ所、デジタル経済系の特色あるヴィレッジ37ヶ所、国家級大衆による起業・イノベーション拠点8ヶ所を新設し、EC、新小売、モバイル決済、シェアリングエコノミーといった新業態、新スタイルが中国全土をリードするなど、浙江省では、「インターネット+」に基づいた起業・イノベーションのエコシステムが構築されつつある。
臨床から出発し総合保健産業を育成
昨年10月に北京で開催された国家第13次五カ年計画(2016‐20年)テクノロジーイノベーション成果展で、中国国家衛生・計画出産委員会の「HIVやウイルス性肝炎といった重大な感染病予防・治療」をめぐるテクノロジー重要プロジェクトのブレイクスルー的成果である「国産医療機器・ナノナイフ」が注目を集め、多くの来場者が問い合わせを寄せていた。
同プロジェクトの責任者である浙江大学の陳新華博士によると、ナノナイフは、数万ボルトのパルス電流を短時間流すことによって、細胞膜に穴をあけ、細胞核に進入し、がん細胞を急速に死滅させることで、肝臓がんを治療することができる。ナノナイフは中国国家薬品監督管理局にイノベーション医療機器に認定されている。最近、陳博士が立ち上げた連合チームは、臨床試験センターを増設し、同成果を1日でも早く普及させることができるよう取り組んでいる。
医学テクノロジーイノベーションは浙江省の共同富裕(みんなが豊かになる)モデルエリア建設のカギとなっている。素晴らしい成果の普及・応用、関連産業のイノベーション発展には、良好な政策的環境とプラットフォームの下支えと切り離せない。
浙江省は近年、政策支援を強化することにより、プラットフォームキャリアーの下支えを継続的に強化し、台州医薬国家新型工業化産業モデル拠点といった特色あるヴィレッジを構築し、化学薬品の分野で中間体、原料薬、製剤、流通を一体化させた整った産業チェーンが形成され、バイオ医薬品、医療機器、第三者検査といった分野でも、イノベーション型企業がどんどん登場している。
医薬品工業を例にすると、浙江省経済・情報化庁の統計によると、2015年から19年までの5年間、同省の一定規模以上の医薬品工業(年売上高2000万元以上の企業)の総生産高は1263億4000万元から1616億3000万元(1元は18.7円)にまで増え、年間成長率は各工業業界で上位を占めるようになった。
医学テクノロジーイノベーション体制を整備し、「科学研究成果の臨床応用への転化は難しい」や「先進的診療技術を末端で推進するのは難しい」という際立つ問題の解決に着手するべく、浙江省は2016年に臨床医学研究センター建設を始め、既に27センターが建設。華東医薬や啓明医療、医恵科技といった数多くのバイオ医薬品分野のイノベーション型企業のほか、阿里巴巴(アリババ)を含む大手インターネット企業が集まり、薬剤や医療機器製品の研究開発に協同して取り組み、既に22の医療機器証書を取得し、新薬52種類の発売を推進し、技術移転による収入が4億2000万元に達している。
新材料産業が新たな成長極に
技術者の操作によってロボットアームが、高純度タンタルターゲット材がたくさん並ぶ大きなラックを、大容積の熱間静水圧プレスのシリンダー体からゆっくりと吊り上げていた。寧波江豊電子材料股份有限公司の姚力軍会長によると、同社はアルミニウム、チタン、タンタル、銅、タングステンといった超高純度の金属スパッタリングターゲット材の研究開発、生産を実現しており、中国内外のたくさんのメーカーに材料を供給している。
大型単結晶ダイヤモンドといった新材料分野のキーテクノロジーの研究開発に成功し、HDディスプレイといった戦略的産業の国産化プロセスが力強く推進されていることは特筆に値する。
第13次五カ年計画期間中、浙江省の新材料産業の生産高は年間平均11%のペースで増加し、2020年には省全域の新材料産業の総生産高が7175億元に達し、省の戦略的新興産業の総生産高の29.74%を占めた。そして、産業規模は中国で4番目の大きさとなった。磁性材料やフルオロケイ新材料、高性能繊維、複合材料といった細分化された分野の産業規模も中国全土をリードしている。また、企業の育成の面で、浙江省は新材料分野の「雄鷹企業(売上高が年間100億元以上で、主力製品・サービスのシェア率が国内トップ3に入っているといった条件を満たす企業)」30社を既に育成し、特定の分野でトップの実力を持つ企業が新たに39社増え、上場企業が22社増えた。
「浙江省新材料産業発展第14次五カ年計画」によると、浙江省は、新材料産業の規模を2025年までに倍増の1兆6000億元以上まで拡大させ、世界一流の新材料テクノロジー・イノベーションの先進地と世界で大きな影響力を持つ新材料産業の先進地を徐々に構築していくという。
デジタル経済やヘルスケア、新エネルギー、先進的製造業といった重点分野の戦略的ニーズをめぐって、浙江省は今後、新型ディスプレイ材料や高性能樹脂(エンジニアリングプラスチック)、新エネルギー材料、高性能繊維、複合材料といった10大重点新材料の発展に力を注ぐ計画だ。
※本稿は、科技日報「浙江:創新為基,構築三大産業高地」(2022年3月8日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。