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【22-10】ユーザーが所有権を持つWeb3.0時代

陳 曦(科技日報記者) 2022年06月01日

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(画像提供:視覚中国)

 Web3.0(ウェブスリー)は、ユーザーが作成したデジタルコンテンツの所有権やコントロール権がユーザーにあり、ユーザーが創出した価値を分配する相手を、ユーザー自身が選んで、契約を締結することができるのが最も特別なところだ。

----李克秋 天津大学智算学部教授

 メタバースが台頭するにつれて、Web3.0が再び各メーカーの注目ポイントとなっている。中国証券監督管理委員会科技監督管理局の姚前局長はこのほど発表した文章「Web3.0が少しずつ近づいてくる次世代インターネットに(Web3.0是漸行漸近的新一代互聯網)」の中で、「インターネットは現在、Web2.0からWeb3.0へと移り変わる重要な節目を迎えている。Web3.0をめぐる将来を見据えた研究や戦略的予測を強化することに、中国が今後、インターネットインフラを整備する上で、重要な意義があることは疑いの余地がない」との見方を示している。

ユーザーの「個人価値」を尊重するWeb3.0

 Web3.0は、Web1.0、Web2.0と並んで、インターネットの発展段階を示している。Web1.0とは実は第一世代のインターネットで、ネットワークメディアがメインだ。ユーザーはサイトにアクセスし、デジタルコンテンツを閲覧できるものの、それを見るだけで、書き足したり、コンテンツの作成に参加したりすることはできない。

 天津大学智算学部の李克秋教授によると、「人は双方向のコミュニケーション、他の人との交流が必要なのに、Web1.0は『静的』であるため、Web2.0が誕生した。双方向のコミュニケーションができるインターネットで、主にSNSやECに応用されている。その場合、ネットワークプラットフォームの役割はインフラを提供することで、大多数のデータコンテンツをユーザーが作成するものだ。例えば、淘宝や微信(Wechat)などがそれに当たる」と説明する。

 Web2.0では、ユーザーが自由に各種コンテンツを作成することができる。しかし、ユーザーがコンテンツを作成したり、コンテンツを操作したりする場合、必ずプラットフォームやメディアを通して行わなければならない。プラットフォームはチャンネルを提供するだけであるにもかかわらず、全ての取引記録やチャット記録の所有権はプラットフォームにあり、それらコンテンツの実際の作成者は、関連の権益を享受することができない。

 李教授は、「そうなると、自分の取引や会話のデータの所有権は自分だけにあるはずで、なぜプラットフォームにもその権利があるのかと考える人がでるだろう。Web3.0の概念は、イーサリアム(ETH)の共同創設者、ポルカドットの創設者であるギャビン・ウッド氏が2014年に提起した。Web3.0は、ユーザーが作成したデジタルコンテンツの所有権やコントロール権がユーザーにあり、ユーザーが創出した価値を分配する相手を、ユーザー自身が選んで、契約を締結することができるというのが最も特別なところだ」と説明する。

 そのような状況下で、デジタルコンテンツは単なるデータではなく、ユーザーが所有権を持つデジタル資産となり、資産レベルの保証を受けることが必要となる。それがWeb3.0で、自動化、スマート化された全く新しいインターネットの世界だ。

 李教授は、「Web3.0は必ずWeb2.0に取って代わるようになるだろう。インターネットは元々ユーザーを中心としており、技術やインターネット環境が発展するにつれて、次世代インターネットは、IT大企業がユーザーを『束縛』するという局面を必ず打破するだろう」との見方を示す。

新技術がWeb3.0のオープン、ディセントラリゼーションをサポート

 早くも2014年に、Web3.0の概念が提起されたものの、具体的で、一般の人に熟知されている応用のシーンが不足していたため、それはずっと鳴かず飛ばずの状態になっていた。

 2022年に、デジタル通貨や非代替性トークン、メタバースといった新技術、新業態が全面的に爆発的に成長し、ディセントラリゼーション、バーチャル・アイデンティティ、暗号通貨の論議に参加する人がますます増え、テクノロジー界、投資界のWeb3.0に対する関心にも火がついた。もちろん、Web3.0への関心の高まりには、ブロックチェーン、人工知能、バーチャルリアリティといった一連の技術の発展、整備が一般の人の生活にもたらしたディスラプションとも切り離せない。また、メタバースの誕生が複数の技術の融合を促進した。もしかすると、Web3.0は、メタバースがそのオープン、ディセントラリゼーションという特性を実現する重要な下支えとなるかもしれない。

 李教授は、「将来的にはメタバース+Web3.0になるという声もある。FacebookはMetaに社名変更し、騰訊(テンセント)は『リアルインターネット』という概念を提起している。それらIT大手のメタバースをめぐる展開も、Web3.0関連の議論の高まりを後押ししている」との見方を示す。

 データの所有権をユーザーが持ち、ユーザーが独自にデータをコントロールでき、安全性が保証されているのを前提に、データの相互運用性を実現するというのがWeb3.0の中核的理念だ。そのため、Web3.0アーキテクチャについて語る際、通常はその代表的な存在である分散型アプリケーション(DApps)を指す。

 Web2.0アーキテクチャは、フロントエンド、バックエンド、データバンクなどで構成されている。同様に、Web3.0アーキテクチャも、類似したフロントエンド、バックエンド、データバンクに分けることができる。その違いは、DAppsのフロントエンドアーキテクチャが主に、スマート・コントラクト(分散型アプリケーション)の通信に重きを置き、バックエンドロジックがスマート・コントラクトを通して実現し、その後、シェアステートマシン(つまりブロックチェーンネットワーク)に配置する点だ。そのため、集中型データバンクやWebサーバーは必要なく、ブロックチェーンを利用してコンピューターネットワーク間でアプリケーションを配信することができる。

 新たなアーキテクチャのほか、Web3.0の幅広い応用を実現するために、克服する必要のある現実的な課題もいくつかある。

 李教授は、「ユーザーにサービスを提供する面で、Web3.0をユーザーのニーズを理解するオーダーメイド人工知能のサポート役に例えることができる。そのためには大量の個人データやユーザーの習慣を下支えにする必要がある。Web3.0は、ユーザーのデータ所有権を守るために、データの暗号化やブロックチェーンのインタラクティブが必要になり、ブラウザクライアント端末の高い計算能力やストレージ能力が求められる。しかし、計算、ストレージ技術、ハードウェア設備がアップグレードされ続けるにつれて、この問題は効果的に解決されるはずだ」との見方を示す。

 そのほか、データ監督・管理も軽視できない問題だ。

 いかなる情報技術も、100%の安全を提供することはできない。ディセントラリゼーションのシステムが攻撃を受けると、その損失を取り戻すことはさらに難しくなる。ビットコインやイーサリアムのシステムは深刻な攻撃を受けたことがあり、その経済損失は億単位の規模となった。そのため、インターネット業界がさらに成熟し、情報技術がさらに整備されなければデータの安全性を保証することはできない。

 各ユーザーが自分でコンテンツを作成し、コントロールできるようになると、違法コンテンツやデマなどの発信、受信にも向き合わなければならない問題となる。しかし、この点で、過度の監督・管理を実施し、ネットワーク上の情報の安全性、信頼性を保証しようとすると、Web3.0の本質から離れてしまう。そのため、いかに適切な妥協点を見つけるかが、関係する監督・管理当局や業界のリーディングカンパニーにとって大きな課題となっている。

 そのため、李教授は、「現在の実際の応用から見て、関連の法律、法規、条例の計画を踏み込んで策定し、ディセントラリゼーションの世界が直面する可能性のある各種問題に対処できるよう備えなければならない」と指摘する。

Web3.0が直面するのは技術的難題だけではない

 現在の議論の盛り上がりを見ると、Web3.0が間もなく実現するような気になるかもしれないが、実際にいつ実現できるかについては、既に実現したという人もいれば、まだ5~10年かかるという人もおり、いろんな説が入り乱れている。

 李教授は、「Web2.0であっても、Web3.0であっても、ユーザー中心の理念で、アップグレードしているが、技術の発展や商業スタイルなどの制約・影響を受けて、最終的に異なる形態になっている。インターネットユーザーとインターネット企業間の利害対立が日に日にエスカレートしており、ブロックチェーン技術の発展がその問題を効果的に解決してくれるという希望をもたらしている。多くのインターネット企業が現在、Web3.0関連の技術の模索や応用を始めており、応用が進み、整備されるにつれて、自然とWeb3.0時代へと突入するかもしれない。そうなれば、Web3.0の最も顕著な特徴を総括して、Web3.0がいつ実現したかを判断することができるようになるだろう」との見方を示す。

 しかし、現時点では、Web3.0は多くの難題に直面しており、それは技術的難題だけでなく、商業的要素の影響もたくさん受けている。

 ブロックチェーン技術の大規模応用は現在、初期の段階にあり、ブロックチェーン技術が普及するにつれて、現有の商業スタイルや利益分配規則がきっと大きな打撃を受けるようになり、IT大手のユーザーデータ独占状態も打破されるようになるだろう。そして、これまでそれらのデータをコントロールすることのできなかった企業や組織も関連の技術革新へと乗り出し、技術全体の発展を推進するようになるだろう。

 そうなれば、IT大手の商業スタイルの面の優位性は次第に失われていき、自身の技術革新に対してより高い要求をつけることになる。そして、現時点では比較的小規模のテクノロジー型企業に多くのチャンスをもたらし、「専精特新(専門化・精密化・特徴化・新規性)」型企業の育成・発展にもつながるだろう。

 現時点では、Web3.0とインターネットユーザーの日常生活にはまだ一定の距離があるものの、Web3.0がもたらすであろう未来は、インターネットユーザーにとっては安全、かつ便利な体験を意味し、期待するに値する。


※本稿は、科技日報「Web3.0時代:你在网上創造的一切,全部帰你」(2022年4月11日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。