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【22-12】高い目標を掲げる山東省のイノベーション・起業共同体

王延斌(科技日報記者)/馬文哲 劉凡子(科技日報通信員) 2022年06月03日

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2022年4月7日、山東省菏沢市牡丹区高荘鎮の新型材料メーカーでガラス繊維を加工する作業員。新華社(撮影・郜玉華)

 統計によると、昨年10月末の時点で、イノベーション・起業共同体が投じた研究開発経費は104億元(1元は約19.6円)を超え、国家級テクノロジープロジェクト371件を担い、研究開発のために立ち上げられたチームのメンバーは1万人近く、価値の高い発明特許や成果の応用は約700件、呼び込まれた重要イノベーションプラットフォームは94に達し、もたらした産業付加価値額は513億元を超えた。

 ハイテクの「イノベーションチェーン、産業チェーン、資金チェーン」をどのように繋ぎ合わせればいいのだろう?3月、「山東省『政産学研金服用』(政府、産業、学術、科学研究、金融資本、サービス、ユーザー)イノベーション・起業共同体管理規則」に関する通知(以下「通知」)が山東省科技庁の公式サイトに掲載された。通知は間違いなく上記の質問の答えを導き出している。山東省の発展に長年注目してきた人にとって、「イノベーション・起業共同体」というのは聞きなれた言葉で、これは同省が全国に先駆けて打ち出した策だ。

「イノベーション・起業共同体」とは何なのだろう?2019年3月、山東省は全国に先駆けて「『政産学研金服用』イノベーション起業共同体構築に関する実施意見」(以下「実施意見」)を出し、全国に先駆けて省級イノベーション・起業共同体の育成という目標を打ち出した。

 簡単に言うと、イノベーション・起業共同体構築とは、テクノロジーと産業を十分に融合させ、市場の「見えざる手」を利用し、科学研究成果の産業化、新興産業の大規模化、一定規模以上の産業の先端化を効率よく、効果的に推し進め、テクノロジーが経済発展を下支えし、経済が逆にテクノロジーのイノベーションを促進するという好循環の形成を加速させることを指す。

 イノベーション・起業共同体の形成というのは、山東省がテクノロジー体制、メカニズムを改革するための革新的措置であるだけでなく、市場のメカニズムにおける優勝劣敗と新陳代謝とも十分に結び合わせ、発展に「新鮮な血」を注入し、新たなエネルギーを増やすことにもつながる。

「空母打撃群」を標準装備とする共同体が5つから31まで増加

「5年ほどかけて、山東産業技術研究院をモデルに、30以上の省級イノベーション・起業共同体を育成し、各地でエンティティ、スタイル、チャンネル、方向性の異なるイノベーション・起業共同体を構築するようリードし、『1+30+N』のイノベーション体制を作り出し、イノベーション主導の発展の成果をさらに際立たせている」。

「実施意見」が3年前に掲げたこの目標は、今であっても大胆と言え、共同体の数だけでなく、質の高さも追求している。このほか、山東産業技術研究院(以下「山東産研院」)のモデルケースを再現するのは非常に難しいだろう。

 大学でも、科学研究機関でもなく、企業でも、事業機関でもないというのが2019年に設立された山東産研院の特徴だ。わずか2年の間に、この研究院は、ハイテクプロジェクトを累計で220件呼び込み、社会からの投資総額は380億元を超え、各種研究開発機関66を設置し、ハイテク企業124社を立ち上げ、ハイレベルのイノベーションチーム76チームを集めた。同研究院は仲介者であるだけでなく、科学研究と産業の間に整った生態環境を作り出している。

 しかし、政策立案者である山東省科技庁にとって、山東産研院の成功には、共通要素があり、鋭意改革がそのスピリットとなる一方で、新旧原動力の転換という面でカギとなる時期に差し掛かっている山東省には、難関を攻略するために先頭に立ってリードしてくれる複数の新型プラットフォームが必要だ。

 2019年、山東省は発展のスタイルを変え、経済構造を最適化し、成長の原動力を入れ替える正念場にあった。当時はイノベーション体制の整備が必要で、イノベーション要素の活力も不足しており、イノベーションの効率が悪く、テクノロジー成果実用化チャンネルの円滑化も必要な状態で、それら課題が質の高い発展の足かせとなっていた。そのため、体制・メカニズムの改革を通して、要素が集まり、特色ある融合イノベーションプラットフォームを複数構築し、省全域で「政産学研金服用」の各要素が加速しながら集約され、融合発展するよう牽引し、効果的な市場、有能な政府、企業に有利で、効率的に連携するというイノベーション環境を作り出すことが急務となっていた。

 そこで打ち出されたのがイノベーション・起業共同体という策だった。「ルートマップ」確定後は、全力でそれを推進することが急務となった。

 政策を打ち出して以降、山東省政府は、レーザー設備を含む5つのイノベーション・起業共同体をまず構築し、モデルとなるベンチマークの構築を通して、その経験・成果を全面的に広げていくことを決定した。「1」が中心となってリードし、「30」がしっかりと持ち場に立って責任を果たし、「N」が全面的に広がるイノベーション・起業のエコシステムを作り出すという仕組みだ。

 しかし、この取り組み実施の初期段階では、多くの人が共同体のメカニズムやスタイルを理解しておらず習慣的にプロジェクト実施の一つとみなしたため、産業チェーンに注目してイノベーションチェーンを展開したり、イノベーションチェーンの要求に従いオールチェーンの計画・設計をすることをせず、数多くのイノベーション要素を効果的に集め、深く融合させることもなかったため、その産業チェーンにおけるリーダー的役割が発揮されていなかった。

 その課題を克服するには改革しかない。山東省は模索しながら、改善、向上を図り、2019年には第一陣の5つ、翌20年には22のイノベーション・起業共同体が構築され、今ではその数が31にまで増えている。それら共同体は「空母打撃群」という概念を「標準装備」としている。

世界から優秀な人材を募集して踏み込んだ改革が実現

 科学研究の難関攻略がある程度進められ課題も増えてくると、小さなチームでは大革新のニーズを満たすことができなくなる。これはイノベーション・起業共同体が直面した「成長の悩み」で、さらに広い範囲と分野、さらに深いレベルでのイノベーション要素や資源の集約が急務となった。

 そこで、山東省はまた大きな行動に出た。昨年7月、イノベーション・起業共同体連盟と連盟基金を立ち上げ、その2ヶ月後に、「掲榜掛帥」(年齢・職位にとらわれずイノベーションプロジェクトのリーダーを公募する)を世界で展開した。

 出所は問わずに、能力のある人を採用する「掲榜挂帥」制度の実施・推進は、さらに開放的なイノベーション体制を構築し、科学研究経費の管理スタイルを最適化し、「適材適所」を実現するうえで、重要な意義を持っている。

 科技日報の取材では、世界から人材が公募されたのは、山東省の産業発展の足かせとなっている技術的問題を解決し、共同体と世界の資源の精度の高いマッチングを促進するのが狙いであることが分かった。

 短期間のうちに、企業(チーム)プロジェクト835件が集まった。うち745件は山東省のほか中国国内の上海市や浙江省、江蘇省を含む8省・市からの応募で、残りの90件は米国や日本を含む17ヶ国・地域からの応募だった。

 その過程で、山東省科技庁は従来のスタイルを改革し、テクノロジー信用促進プラットフォームやプロジェクト評価モデルの建設を際立たせ、「科学、技術、経済、社会、文化」の5次元の評価モデル、体制を構築することで、テクノロジー型中小企業の正確なイメージを描き出し、企業の信用を確保して物的担保の代わりにすることと、産業認定、技術評価の3つを「保険」とすることで、金融機関に信用貸付の根拠を提供して安心してもらい、さらに、テクノロジー型小規模企業の発展のためにデータ分析を提供するなどして、ケースバイケースの「処方箋」を提供している。

 取材では、現時点で、山東省は52プロジェクトの誘致に成功し、テクノロジー型中小企業50社が、無担保で14億9380万元の融資を受ける意向を示していることが分かった。また、この活動を通して、省内外の企業800社以上のプロジェクトが、共同体と話し合い、うち560社が共同体に加盟する、または踏み込んで連携するようになり、イノベーション起業共同体の機能拡大、自己刷新、自己向上が実現している。

 上記のデータは、山東省が展開するイノベーション・起業共同体の「掲榜挂帥」が、イノベーション資源の共有、協力・連携、ウィンウィンを実現する革新的な措置で、テクノロジー、金融、産業が深く融合するための有益な模索となっていることを十分に物語っている。

コア技術を確立して多くのテクノロジー企業が誕生

 高分子化合物新材料関連産業のキーテクノロジーをめぐる問題を解決し、3つの1千億元級産業クラスターを作り出すべく、「山東省高分子化合物新材料イノベーション起業共同体(以下『高分子化合物共同体』」は昨年、青島市城陽区と、「掲榜挂帥」を通して優秀なイノベーション・起業共同体を共に構築することで合意した上、具体的な目標を掲げた。

 現在、その目標が一歩一歩達成されている。

 臭素化イソブチレン-イソプレンゴムは、高性能タイヤのインナーライナーに必ず採用されるカギとなる材料で、先端設備の制動減衰振動に絶対に必要な中核材料でもある。中国は1960年代から、その研究開発の計画を策定し、合成や応用技術の難関攻略に挑んでいたものの、高品質の製品の産業化はなかなか実現していなかった。

 高分子化合物共同体のプロジェクト責任者・李栄勛氏によると、同共同体は山東京博集団と共同で、政産学研の踏み込んだ連携を通して、臭素化イソブチレン-イソプレンゴムの合成と応用のキーテクノロジーの難関攻略を展開し、コア技術を開発するとともに、プロジェクトの産業化を実現した。これにより、中国は、米国とドイツに続いて、臭素化イソブチレン-イソプレンゴム合成技術の知的財産権を持つ3番目の国となった。

 同共同体で生まれた青島海泰科塑膠科技公司は昨年、深圳証券取引所のベンチャー企業向け市場「創業板」に上場した。同社は主に、射出成形用金型やプラスチックパーツの研究開発に従事しており、世界の自動車メーカートップ10にソリューションを提供している。

 李氏によると、イノベーション・起業共同体が、良好な起業の孵化スタイルを構築しており、共同体のイノベーション成果や呼び込んだ成果を起業の「種」とし、共同体の資源育成を通して、元気な「苗」に成長し、それからそこにスペースや資金を提供することで、幹の太い大きな産業へと成長している。上記はその典型的な成功例だ。

 山東省科技庁の関係責任者は取材に対して、「イノベーション・起業共同体作は高度に開放されたイノベーションプラットフォームで、世界、社会全体から優秀な人材を募集し、技術、資金、市場、産業の分野で同じ目標、理想を持つ人材を集め、重要なキーテクノロジーに的を絞って、研究に没頭してもらい、未来の技術イノベーションセンター構築を目指している」と説明した。

 統計によると、昨年10月末の時点で、イノベーション・起業共同体が投じた研究開発経費は104億元を超え、国家級テクノロジープロジェクト371件を担い、研究開発のために立ち上げられたチームのメンバーは1万人近く、価値の高い発明特許や成果の応用は約700件、呼び込まれた重要イノベーションプラットフォームは94に達し、もたらした産業付加価値額は513億元を超えた。


※本稿は、科技日報「瞄定更高目標 山東双創共同体要縫合」(2022年4月15日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。