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【22-17】脳型コンピューターでAI高速計算力を実現へ

金 鳳(科技日報記者) 2022年06月30日

 南京大学物理学院のある実験室のドアを開けると、小さな車が黒と白のレールの上を、一定の速度で自動走行していた。レールの上をクルクルと周ったり、コーナーを曲がったりするその様子は、危なげなくとても安定していた。

 この車の「自動運転」実現の秘密は、車の上部に埋め込まれた指の爪ほどの大きさの脳型CPUにある。南京大学の繆峰教授は5月28日、科技日報の取材に対して、「脳型CPUは、センサーが収集したアナログ信号を直接処理し、車を駆動させることができるほどの並列計算能力を誇る。車のレスポンスタイムは約1000倍速くなる一方、消費電力は100--1000分の1になる」とこのようなシーンで、脳型コンピューターのポテンシャルを説明した。

 人間の脳の神経構造は、強大な情報処理能力を備えているほか、その消費エネルギーは頭をめいっぱい使ったとしても、電力に換算するとわずか20ワット程度である。繆教授の研究は、人間の脳のニューロンの構造を模倣して、脳型デバイスや電気回路を設計し、計算力を向上させ、消費電力を低減させることを主な内容としている。繆教授が率いるチームはここ10年、「レゴ」のように原子を積み重ねる方法を活用して、耐高温メモリスタやバリスティクスアバランシェデテクター、室温で精度が高い赤外線探知機といったデバイスを設計し、中国物理学会の「黄昆物理賞」や国際先進材料学会(IAAM)のScientist Medalといった賞を受賞してきた。

脳型デバイスでニューロモルフィック・コンピューティングの未来を切り開く

 繆教授が10年前に帰国した頃は、先端の脳型コンピューターの模索は始まったばかりだった。本当の意味でのニューロモルフィック・コンピューティングを実現するためには、適切な材料を見つけ、脳型デバイス構造を設計し、新デバイスに基づくハードウェアシステムを構築する必要があった。

 繆教授は、「当時、中国内外には参考にできる経験がなかった。始めの3~4年、私たちは材料やデバイスの熱安定性と信頼性を繰り返し模索した。明らかに原理は正しいのに、デバイスは思った通り働かず、がっかりしたこともあれば、テクノロジー・ロードマップが正しいのかと疑ったこともある。トンネルに迷い込んでも諦めなかった」と振り返る。2018年、繆教授率いるチームは、世界初の2次元(2D)材料だけを使った、超高温、大きなストレスに耐えるロバスト性の高いメモリスタの開発に成功した。

 科学研究における挑戦が、繆教授を未知の世界の探求へとますます引き込んでいるほか、生活におけるちょっとしたことも、科学の力を活用して限界に挑戦するインスピレーションを繆教授に与えている。

 自身が大学生の時、家族が目の病気を患ったのを機に、繆教授は目の構造に真剣に注目するようになった。そして、数年後、その知識から、脳型視覚センサーを研究するインスピレーションを得た。「人間の脳が処理する情報のうち、80%以上は目を通して取得する。目は情報を検知すると同時に処理できるだけでなく、消費エネルギーは非常に少ない。目にそっくりで、情報の検知と処理を同時に行うことのできる脳型視覚センサーを作り出すことができれば、スマート工業や自動運転、スマート監視セキュリティといった分野で応用できる可能性がある」と繆教授。

 繆教授率いるチームは2020年、脳型視覚センサーを構築した。繆教授は、「レゴを組み立てるように、原子の世界で、セレン化タングステンや窒化ホウ素といった性質の違う複数種類の2D材料を異なる順番で積み重ね、垂直ヘテロ接合デバイスを製作した。これは、網膜の垂直に複数の層に分かれた構造を模倣できるだけでなく、いろんな2D材料によって網膜の異なる細胞の機能を模倣できる」と説明する。

 同研究において、デバイスのレスポンスタイムは10ミリ秒未満、消費電力は10ナノワット未満と、人間の網膜の水準に近づいた。このデバイスに基づき、チームはさらに、「脳型視覚原型システム」を構築し、大規模にインプットされる画像のスピーディーな識別を実現した。

ニューロモルフィック・コンピューティング技術の上限拡大を目指す

 新しいコンピューターハードウェアやコンピューティングスキームを、どのように活用して、大規模な並列計算を実現し、情報処理の速度をアップさせるかというのが、今後のコンピューター分野で幅広く注目されている課題となっている。

 繆教授率いるチームは2021年、現時点で並列度(DOP)が最高のニューロモルフィック脳型コンピュータースキームを編み出し、アルファベッドが書かれた画像16枚の並列読取り、並列識別を実現し、識別した結果を無線で伝送する機能デモンストレーションに成功した。

 繆教授は、「従来的なクロス配列に基づくニューロモルフィック・コンピューティングスキームは通常、直流またはパルス信号を使い、各列の信号は、ベクトルの単一の数値しか表示できず、並列度を向上させることができない。当チームは、各固定の周波数のピーク値に、データの信号をアップロードした。そのようにすることで、各列の信号を空間周波数の一列の数値にアップさせることができる。複数の列の信号をインプットすると、単なるベクトルのインプットから、空間周波数のマトリックスインプットへとレベルアップさせることができる。そして、演算の並列度も大幅に向上する。さらに、ハードウェア配列の規模が大きくなればなるほど、並列度も高くなる」と説明する。

 デバイス構造の設計から、大規模並列計算の実現まで、理論研究のブレイクスルーにより、繆教授は脳型コンピューターの未来に自信を強めている。繆教授は現在、画像の識別や運転サポートといった分野で、技術の産業化推進に取り組んでいる。

 繆教授は最近、「ニューロモルフィック・コンピューティング技術の上限を探る道において、コンピューティングスキームをイノベーションすることにより、素晴らしい『分身術』を編み出すことはできないか?」と、常に思い巡らしているという。

 米学術誌「サイエンス」は2021年、科学の分野で未解決なままになっている重要な科学的問題125を発表した。それには、「コンピューターの処理速度に限界はあるのか?」というのも含まれていた。

 繆教授は、「この問題に解答するための、新たなアプローチを見つけたい。また、大量のデータを計算するうえで直面する計算力の不足を補強し、実行可能な技術的チャネルと科学的基礎を提供したい」と自分にチャレンジを課していると同時に、未来に対しての約束もしている。


※本稿は、科技日報「繆峰:用類脳計算,譲AI算力加速"奔跑"」(2022年5月30日付3面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。