【22-21】「東数西算」をめぐり「勝負」を打つ広東省韶関市
龍躍梅(科技日報記者) 2022年07月19日
広東省韶関市の華韶データバレーで検査を行う技術者 撮影・張偉
500億元
2025年をめどに、韶関データセンタークラスターは、19インチラック50万台、サーバー500万台の規模に達し、その総投資額は500億元(1元は約20.2円)以上に達する計画だ。そして、同クラスターは広東省韶関市のデータ産業の川上・川中・川下で複合効果が生み出されるよう力強く牽引し、1千億元級の電子情報・ビッグデータ産業クラスターを構築し、東部地域のデータを西部地域で保存・計算する中国のプロジェクト「東数西算」の韶関モデルを模索する計画だ。
韶関市では、唐時代(618‐907)の名相・張九齢が道路を整備したエピソードが今に至るまで語り継がれている。
韶関市に属する南雄市の北部にある山・大庾嶺は、嶺南地区と中原を繋ぐルートであるものの、その山道は非常に険しく、途中には多くの断崖絶壁があるため、南北のアクセスを阻むボトルネックとなっていた。しかし、唐玄宗開元4年(716年)、張九齢が筆頭となって大庾嶺の道路が整備された。張九齢は地元の住民を率いて、大変な努力を経て、大庾嶺古道がついに貫通し、嶺南と嶺北を繋ぐ主要な道路となった。
「デジタル経済」の時代に突入した現在も、韶関市は「データの道」を建設している。
今年、「東数西算」が本格的に始動した。粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深セン、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、澳門<マカオ>両特別行政区によって構成される都市圏)全国一体化計算力ネットワーク国家ハブノードとして、韶関市にデータセンタークラスターを建設し、広州や深圳などのリアルタイムの計算力のニーズを引き受け、華南地域、ひいては中国全土をカバーするリアルタイムの計算力センターを構築する計画だ。
5月29日、全国一体化計算力ネットワーク粤港澳大湾区国家ハブノード韶関データセンタークラスターが正式に発足した。これは、韶関データセンタークラスターの建設が始まったことを示している。
ビッグデータ産業クラスターを構築するのにベストな位置にある韶関
全国一体化計算力ネットワーク粤港澳大湾区国家ハブノードとして、韶関市にデータセンタークラスターが建設されることになったのはなぜなのだろう?
国際ユーラシア科学アカデミーの会員で、清華大学と北京大学で教授を務める魏少軍氏は、「データセンター発展の最大のボトルネックは、エネルギー消費量の基準達成が難しいことだが、韶関市はこの面でメリットがある。同市は広東省北部の山間部に位置し、平均気温が低く、粤港澳大湾区と背中合わせとなっているため位置的優位性が高い」との見方を示す。
韶関市は、粤港澳大湾区の発展が湖南省、江西省へと波及する際の中心的位置にあり、自然環境やエネルギー・電力、ネットワーク資源、産業の基礎といったカギとなる要素の面でも、優位性を誇っている。華南地域がビッグデータ産業クラスターを構築するうえでベストな場所に位置しているのだ。
自然環境の面を見ると、韶関市は南嶺山脈の南部に位置し、地質構造は、非地震帯の湘粤褶曲帯上にあり、年間平均気温は、広東省で最も低い。また、台風の影響を受けることも少なく、海風による腐食の心配もなく、自然災害が少ない地域で、データセンターの安全で、安定した運営に適している。
エネルギー確保の面では、データセンターは、消費電力量が非常に多く、電源のキャパシティや安定性に対する要求も極めて高い。韶関市は、広東省の電力エネルギーの主要拠点の一つで、同市の産業用電力の料金は中国で最も安い。
ネットワーク資源の面では、韶関市は、国家光ファイバー一級ネットワークノード北京‐粤港澳大湾区(広州)において必ず経由する支点となっている。
産業の基礎の面では、韶関市には省級ビッグデータ産業パーク「華南数谷」があり、華韶データバレープロジェクトや中国聯通(チャイナ・ユニコム)スマートカスタマーサービス南方エリアセンタープロジェクトなどがそこに集まっており、ビッグデータ産業の良い基礎が築かれている。
このほか、韶関市は働きやすく、住みやすく、交通網が広く四方八方に通じているといった独特のメリットもある。
中国通信工業協会データセンター委員会の理事長を務める三峡集団の金和平最高情報責任者(CIO)は、「計算力インフラのエネルギー消費量や気候といった要素に対する要求は非常に高い。韶関市は広東省の最北端に位置し、気温がちょうど良く、計算力インフラの熱放出への外的条件が整っている。韶関市の再生可能エネルギー資源は豊富で、元々あった水力発電の発電設備容量だけでも200万キロワット余りに達する。さらに、風力発電や太陽光発電などを積極的に開発しており、これらが、計算力インフラの長期にわたる安定した運営に、しっかりとした原動力的サポートを提供することになる」との見方を示す。
複数の地域のリアルタイムの計算力をめぐるニーズを引き受ける
いわゆる「東数西算」の「数」はデータを指し、「算」は計算力を指す。分かりやすく言えば、東部地域のデータを西部地域で保存・計算するプロジェクトで、南方地域の水を北方地域に送り慢性的な水不足を解消するプロジェクト「南水北調」や西部地域の電力を東部地域に輸送する「西電東送」に似通っている。
中国の4当局は今年2月、北京・天津・河北、長江デルタ、成都・重慶地区、粤港澳大湾区における全国一体化計算力ネットワーク国家ハブノード建設を承認した。既に建設が承認されていた内蒙古(内モンゴル)自治区、貴州省、甘粛省、寧夏回族自治区を加えると、中国が計画する8大計算力ネットワーク国家ハブノードが出揃ったことになり、プロジェクト「東数西算」が本格的に始動したことになる。
魏氏は、「十分な計算力は、スマート化発展推進の基礎的条件で、計算力は既に、スマート化時代の重要な生産力となっている」との見方を示す。
粤港澳大湾区国家ハブノードは、韶関データセンタークラスターを含む3レベルのデータセンター空間レイアウト・構造に構築される計画だ。うち、中国全土で建設が計画されているデータセンタークラスター10ヶ所の一つとしての韶関データセンタークラスターは、ネットワークのレベルを国家級の中核となるネットワークハブノードに引き上げる存在となる。韶関データセンタークラスターは広州や深センのリアルタイムの計算力のニーズを積極的に引き受け、ウォーム・データ・コールドデータをめぐる業務を西部地域への移行を牽引する計画だ。
中国工程院の院士で、鵬城実験室の高文室長は、「東数西算が計算力消費時代を切り開いた。計算力ネットワークは将来、今の電力網のようになるだろう。韶関市が建設するデータセンタークラスターは、実際には中国南方地域に打たれた重要な『駒』だ」との見方を示す。
2025年をめどに、韶関データセンタークラスターは、19インチラック50万台、サーバー500万台の規模に達し、その総投資額は500億元以上に達する計画だ。そして、同クラスターは広東省韶関市のデータ産業の川上・川中・川下で複合効果が生み出されるよう力強く牽引し、1千億元級の電子情報・ビッグデータ産業クラスターを構築し、「東数西算」の韶関モデルを模索する計画だ。
市を挙げてデータセンタークラスターを建設へ
5月29日、浪潮や華為(ファーウェイ)、中国エネルギー建設、騰訊(テンセント)、快手、中国電信、万国数据などの重要プロジェクト30件を韶関市で実施することで合意した。データセンタープロジェクトへの総投資額は約1200億元に達する見込みだ。
韶関市発展改革局の郭先桂局長は、「データセンタークラスターの建設は、当市の経済、社会の発展を促進するうえで、非常に大きな役割を果たすだろう。それは、当市の今後の発展を左右する『勝負手』だ。そのため、私たちは絶対にそれを成功させなければならない。全国一体化計算力ネットワークデータセンタークラスター建設始動をめぐって、当市は既に『韶関データセンタークラスターのスタートアップエリアの全体的なコントロール性詳細計画』や『韶関データセンタークラスターのグリーンで低炭素な総合エネルギー計画』、『韶関データセンタークラスター産業発展計画』などを策定している」と説明する。
さらに多くの企業が韶関市で大きく発展することができるよう、同市はビッグデータや次世代情報技術関連の産業、企業を対象にした『韶関市のビッグデータ産業のイノベーション発展促進規則(試行)』を打ち出し、企業の入居や運営、補助金などの6つの面にサポートを提供している。入居や運営の面を見ると、企業が運営する自前のブロードバンド・インターネット接続費用、電気代、クラウド資源費用の50%を補助金として支給する。企業の育成の面では、市レベルで1台(セット)目となる製品に対して、最高で25%の奨励金を支給する。また、国レベル、省レベルで1台(セット)目となる重要技術サポート資金の対象製品については、財政から1∶1の割合で奨励金を支給する。貢献への奨励の面では、主要業務の売上高が初めて500万元を超えた企業に奨励金を支給する。
金CIOは、「韶関市は現在、クリーンエネルギー資源の開発に力を入れている。当集団はこの分野を長年深く耕してきたため、関連資源の開発という面では、技術的優位性を持っている。当集団は、韶関市政府と、クリーンエネルギー資源の開発について最近合意した。今後は、当集団の技術を活用して、約500万キロワットの風力発電、太陽光発電の資源を開発する計画だ」と説明する。これも、計算力施設の安定した運営につながることになるだろう。
韶関データセンタークラスターは今後、どのようにすればその役割を十分に果たすことができるのだろう?魏氏は、「韶関データセンタークラスターの建設の過程において、粤港澳大湾区の産業発展の計画と緊密に結び合わせ、自動運転や電力供給のスマート化、新エネ車、バイオ医療、教育スマートサポートといった新興産業への応用と緊密にリンクしなければならない。韶関市は今後、計算力やキャビネットをレンタルすることで、経済効果を生み出すほか、粤港澳大湾区全体のスマート化発展を下支えしなければならない。そして、しっかりとした計算力で、中国各地のスマート化企業を韶関市に呼び込み、『韶関モデル』を構築する必要がある」と指摘する。
※本稿は、科技日報「"東数西算"新賽道上広東韶関這様謀算」(2022年6月10日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。