【22-24】オミクロン株の新派生型は肺での増殖能力を取り戻した?
張佳星(科技日報記者) 2022年07月21日
陝西省西安市は7月6日午前0時から7日間、市全域で店内飲食や娯楽施設の営業を禁止する一時的な管理統制措置を講じた。関係責任者には7月5日に西安市が開催した新型コロナウイルス対策をめぐる記者会見で、ゲノムシーケンシングの結果、感染者は全員、オミクロン株の新たな派生型BA.5.2に感染していたことが分かったと明らかにした。
新型コロナウイルス感染症ビッグデータによると、陝西省の今回の感染における感染者の数は現時点で17人。7月以来、陝西省の新規感染者は一桁台を保っているにもかかわらず、店内飲食やカラオケボックスといった娯楽施設の営業を禁止するなどの一時的な管理統制措置が講じられたのはなぜなのだろう?その理由は、オミクロン株の新たな派生型の特性にある。
感染するペースが非常に速く、ウイルス量がより多いほか、業界内の専門家は科技日報の取材に対して、「従来のオミクロン株に比べて、新たな派生型のBA.5は肺で増殖しやすく、免疫をうまくすり抜けるという新たな状況が確認されている」と説明した。
ある免疫学者は科技日報の取材に対して、「新型コロナウイルスに感染したことがある人でも、BA.5に再感染することがあるほか、BA.5は肺機能に対する影響が増大しており、細心の注意を払う必要がある」との見方を示した。
カリフォルニア大学サンディエゴ校医学センターの李克峰准教授は、「新型コロナウイルスの従来株は、肺胞細胞にはあり、上気道にはないタンパク質を利用して、肺に進入するため、重症化のリスクが高かった。しかし、オミクロン株BA.1はその能力を失い、ほとんどが上気道で増殖していた。ところが、BA.5は再びその能力を取り戻し、肺で増殖するようになった」と説明した。
BA.5とBA.5.2の関係について、北京化工大学生命科学・技術学院の童貽剛院長(教授)は科技日報の取材に対して、「BA.5から派生したBA.5.2は、BA.5と比べて、非スパイクタンパク質上に、アミノ酸変異が1つあり、その特性はBA.5とそれほど変わらないと見られる。あるモデルの変異配列に基づいて、BA.5.2の相対成長アドバンテージ(relative growth advantage)は、BA.5に比べて20%上昇したと計算されたものの、その信頼区間は8--32%と低い」と説明した。
免疫をすり抜ける能力が高いBA.5の対策は難しい
中国疾病予防管理センターウイルス病所の研究員・王文玲氏は国務院共同対策機構がこのほど開催した記者会見で、「今年2月以来、中国で主に流行しているのはオミクロン株の亜種BA.2だった。世界のウイルスゲノム共有データによると、BA.5が最近、急速に拡大している。現時点の研究では、BA.4とBA.5は感染力と免疫をすり抜ける能力も高まっていると見られている」と説明した。
新たな派生型のBA.5はなぜ免疫をすり抜ける能力が高いのだろう?北京大学の謝暁亮院士が率いるチームとその協力チームは、さまざまな変異株のスパイクタンパク質を対象に、立体配座解析(キーの表面の模様を分析)を行い、それとは異なる中和抗体、細胞受容体との親和性を調べた。研究では、BA.5上のF486V変異とL452R変異は、複数種類の抗体の識別を回避し、hACE2への親和性は低下していないことが分かった。
科学誌「ネイチャー」に掲載されたこの研究結果によると、BA.5は、免疫をすり抜ける能力が高く、ワクチンを接種していても、ブレイクスルー感染する可能性があるほか、オミクロン株BA.1に感染してできた抗体をもすり抜ける能力を持っているという。
つまり、BA.5のスパイク蛋白の486変異、452変異などが、人の細胞の「鍵」を開けられるだけでなく、体内の中和抗体の"捕獲"をうまく回避できるということだ。このような変化により、感染予防対策の難度が増した。
BA.5が肺で増殖する能力を取り戻し重症化率が上昇する可能性
オミクロン株の最初の派生型BA.1やBA.2は、ほとんどが上気道で増殖していたため、感染しても軽症ですむことが多かった。しかし、最近の研究では、新たな派生型BA.5は、肺胞細胞に感染することが分かった。
東京大学や京都大学、イスラエルのワイツマン科学研究所といった科学研究機関27機関が共同で発表した研究結果によると、BA.4、BA.5はBA.2に比べて、人の肺胞細胞に感染する能力がさらに高いという。
オミクロン株が失った肺での増殖能力を、BA.5などの派生型が取り戻したのはなぜなのだろう?
李准教授は、「人の細胞の表面にあるタンパク質分解酵素TMPRSS2と関係がある。TMPRSS2は、肺胞細胞の表面に存在し、肺で増殖するかは、それをうまく利用できるかにかかっている。これまでのオミクロン株は、TMPRSS2とうまく結合することができなかった。それに対し、BA.5は、TMPRSS2と結合する能力が高くなっており、肺で増殖するようになった」と説明する。
複数の研究によると、TMPRSS2はインフルエンザやコロナウイルス治療の潜在的なターゲットポイントであると、業界で見なされている。この膜貫通型タンパク質が「通行を許可」すると、ウイルスは膜融合の方法で、宿主の細胞に進入できる。
派生型のBA.5は、TMPRSS2が「膜融合」するための分子メカニズムを取得した。前述した研究の動物実験でも、BA.5はBA.2よりも病原性が高いことが証明されている。
この結論は、ある程度の裏付けもある。最近の統計によると、BA.5の感染者が増加するにつれて、イスラエルの重症患者が前週比で95.4%増の170人となった。
西安市の関係責任者は、今回の感染を引き起こしたBA.5.2について、「感染者のCT値は低く、感染力が強い。当市の感染状況は非常に厳しく複雑で、市中感染が続発するリスクが高い」と説明した。
感染対策について、前出の免疫学者は科技日報の取材に対して、「BA.5.2のCT値が低いのは、感染者のウイルス量が多いことを意味する。ウイルス量が多いのは、体内のウイルス量が多く、感染力が強いと同時に、検出しやすいことを示している。そのため、適切なPCR検査を実施すれば、市中感染が発生する前に効果的に抑制することができる」との見方を示した。
原稿執筆時点で、北京市で7月5日に報告された感染者1‐3は、ゲノムシーケンシングの結果、BA.5.2に感染していたことが分かった。その感染経路、発生源ははっきりとしていて、全体的にコントロール可能な状態だ。
※本稿は、科技日報「奥密克戎新分支或"重拾"感染肺部能力」(2022年7月7日付3面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。