【22-44】オールデジタル化量子シミュレーション開発 量子チップ上で「時間結晶」を作成
洪恒飛 周 煒 呉瑶瑶 /江 耘(科技日報記者) 2022年09月16日
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浙江大学の研究チームはこのほど、「オールデジタル化量子シミュレーション」の実験プランにはじめてチャレンジした。同プランは、26量子ビットの超伝導量子チップ上で、240層にも達する深さの量子ゲートを操作して、共同研究者の構想を実現した。「類比量子シミュレーション」と比べると、「オールデジタル化量子シミュレーション」はより普遍性が高く、プログラミングの柔軟性と量子ゲートの精度も高く、より多くのタイプの量子アルゴリズムを実行することができる。
食塩や鉱石といったよく知られている一般的な結晶を構成している原子は空間配列において周期的に変化する法則がある。一方、時間結晶、つまり、4次元以上の時空間結晶は、時間(試行回数)によって周期的に変化する法則を見せる特徴がある。
浙江大学物理学院の研究員・王震氏、王浩華氏率いる研究グループと、清華大学学際情報研究院の鄧東霊氏率いる研究グループらの共同研究の成果が最近、科学誌「ネイチャー」に掲載された。科学研究者は、超伝導量子チップ上で初めてオールデジタル化量子シミュレーションの方法を採用し、「トポロジー時間結晶」という全く新しい物質の状態を実現した。
同研究において、研究者は「トポロジー時間結晶」の縁がトポロジーに保護されているため、離散時間結晶の動きが見られる状態、つまりフロケ対称性保護トポロジーを発見した。超伝導量子チップ上で、デジタル化量子シミュレーションという方法を使用して、さらに多くの物理学的先端問題を模索するために活用できると期待されている。
時間結晶の過程において新たな道筋模索
合同チームが描き出したデジタル量子シミュレーショントポロジー時間結晶のコンセプト図によると、超伝導量子チップの内部は、多彩な量子の世界のようだ。科学者らは、その量子の世界で「トポロジー時間結晶」を構築した。「トポロジー時間結晶」の規則で配列されている結晶は対称性保護トポロジーを示し、回転する指針は、時間ディメンションを示し、中央で流れている数字は、デジタルシミュレーションを示している......。
時間結晶の理論の面では、一部の科学者は離散時間結晶という概念を提起し、非平衡状態システムである「量子多体ローカリゼーション化システム」において、時間結晶の理論模型を作り出す可能性を打ち出した。一方、実験の面では、近年、一部の研究チームがイオントラッププラットフォームやダイヤモンド窒素-空孔中心プラットフォーム、核磁気共鳴量子プラットフォームといった複数のプラットフォーム上で、「離散時間結晶」を実現している。
「時間結晶」は、周期性重複が自然で、安定した「基底状態」、つまり、物質のエネルギーが最も低い状態であるという点が非常に特別だ。浙江大学物理学院の研究員・王震氏は、「時間結晶は、時計が動く時のようにエネルギーを消費する必要がない。その元々の性質は、ストロボまたは呼吸に似ており、周期的に変化する」と説明する。
清華大学の鄧東霊教授は2年前から、トポロジーの概念を時間結晶に組み込むという新たな「時間結晶」の構想にチャレンジしている。浙江大学超伝導量子計算チームと連携することで、鄧教授は、超伝導量子チップ上でこうした全く新しい時間結晶を作り出すことにチャレンジしている。王氏は「一般的な時間結晶は一部の実験プラットフォームで既に実現している。私たちがチャレンジしているのは、誰も作り出したことがないタイプだ」と説明する。
合同チームは、浙江大学杭州国際テクノロジー・イノベーションセンター量子計算イノベーション工坊が発表した「天目1号」超伝導量子チップを活用して実験を展開している。浙江大学マイクロ・ナノ加工センターに依頼して製作した同チップのビットのコヒーレンス時間は平均100マイクロ秒を突破し、世界の先端レベルに達している。同チップは比較的拡大しやすい近接結合フレームを採用しており、プログラミングの柔軟性が高く、さらに多くのタイプの量子アルゴリズムを実行しやすく、研究の見通しは非常に明るい。
編み出された「オールデジタル化シミュレーション」という優れもの
一般的なコンピューターでは歯が立たない複雑な問題を解決する面では、近年、量子計算がますます高い能力を発揮し始めている。科学者らは、適用範囲が幅広い「共通型量子計算」を開発するためには、まず、特定の専門的な現象と問題を研究する「専門型量子計算」を実現しなければならないと考えている。
王氏によると、量子計算は、量子ビット上でロジカルオペレーションの計算を実行する、つまり、量子ゲートを通して計算を実現する。量子ゲートの組み合わせによって、異なるアルゴリズムの「積木」が出来上がり、科学者が考える「建物」を作るのに使うことができる。今回の合同研究において、理論物理学者らは、建築士の役割を担い、「積木」の組み合わせ方を設計した。一方、浙江大学の研究チームは、普遍性の高い量子の「積木」作成を担当し、「建物」を作るのに必要な原材料を提供した。
論文の共同筆頭著者で、清華大学学際情報研究院の博士課程で学ぶ蒋文傑氏は、「通常、量子多体物質の変化の過程をシミュレーションするためには、たくさんの複雑な量子の『積木』が必要となる。当チームは模型の物理的特性に基づいて、できるだけ少ない『積木』で『建物』を作る方法を打ち出した」と説明する。
論文の共同筆頭著者で、浙江大学物理学院の博士課程で学ぶ張叙氏は、「具体的な問題を解決するために、異なる『積木』の組み合わせを調整するだけでよく、チップを交換する必要はない」とし、「デジタル化量子シミュレーションは、普遍性の高い量子計算実現のために必ず通らなければならない道だ」との見方を示す。
浙江大学の研究チームは今回、「オールデジタル化量子シミュレーション」の実験プランにはじめてチャレンジした。同プランは、26量子ビットの超伝導量子チップ上で、240層にも達する深さの量子ゲートを操作して、共同研究者の構想を実現した。「類比量子シミュレーション」と比べると、「オールデジタル化量子シミュレーション」はより普遍性が高く、プログラミングの柔軟性と量子ゲートの精度も高く、より多くのタイプの量子アルゴリズムを実行することができる。
蒋氏は、「理論的には、デジタル化シミュレーションは特定のシステムに限らず、たくさんの物理システムの研究に活用することができる」と説明する。
周期的に呼応する前後のチェーン状結晶
オールデジタル化量子シミュレーションを通して、合同チームは初めて、26個の「準粒子」からなるチェーン状のトポロジー時間結晶のシミュレーションに成功した。デコヒーレンス時間内であれば、縁の量子ビットがスピンし、駆動周期性に基づいてアソシエーション応答する。その応答は、初期状態では全く敏感でなく、トポロジーの保護を受けたロバストネスの状態になり、つまり、特性またはパラメーター摂動に対して反応しない。実験では、システムの妨害を調整することで、同トポロジー相と熱化相の境界を描き出すことに成功した。
合同チームは、26個の量子ビットからなるチェーン状のトポロジー時間結晶の変化を示す図を描き出し、その現象を説明している。前と後ろの2つの「粒子」のスピンは、トポロジカル・オーダーで、同時に回転し、長時間その状態を保つ。一方、中央の『粒子』は時間によって、連動が異なり、安定していない。前後の『粒子』は、同時に回転し、同時に元に戻る現象の周期は、システム駆動の2倍だ。このようなトポロジーの性質は、対称性保護が原因だ。
張氏はトポロジー時間結晶の変化の過程について、「一列の子供がイヤホンで音楽を聞きながら回転する」ことに例え、「それぞれの子供が、自分が聞いている音楽のリズムに基づいて回転するほか、他の2人か3人かと息を合わせて雑技のポーズを決めなければならないようなものだ。こうした特別に設計された雑技のポーズは、トポロジーの性質を備えており、量子効果を通して、前後の『子供』の踊りを『もつれ』させる。たとえ音楽のリズムが変わったとしても、前と後ろの子供は安定して息を合わせることができる。つまり、周期的に何かに呼応する現象だ」と説明する。
研究チームは、「今回のトポロジー時間結晶のシミュレーション成功は、超伝導量子チップ上でデジタル化量子シミュレーションを活用することが可能であることを証明しており、超伝導量子計算プラットフォームにおいて、さらに多くの新物質や新現象を発見するのにヒントを与えてくれる」との見方を示す。研究チームは今後、量子チップの規模と性能を拡張することにより、性質がより新しく、スケールより大きく、物理的な内容がより豊富な量子問題をシミュレーションし、量子アルゴリズムの発展と応用に基礎的なプラットフォームを提供し続ける計画だ。
※本稿は、科技日報「全数字化量子模擬出手在量子芯片上"搭"出時間晶体」(2022年8月16日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。