【22-49】世界のユニコーン企業発展の新動向
解樹江(中国発明協会ユニコーン企業イノベーション分会会長、遼寧大学国際テクノロジー金融研究院院長、中国人民大学中国民営企業研究センター副センター長) 2022年10月05日
画像提供:視覚中国
イノベーション能力が非常に高く、成長の高いポテンシャルを秘めるユニコーン企業は、一つの国・地域のイノベーション能力とイノベーションエコロジカルを評価するための重要なバロメーターで、国際競争力や地域競争力を高めるための重要なマーケットエンティティだ。
イノベーション能力が非常に高く、成長の高いポテンシャルを秘めるユニコーン企業は、一つの国・地域のイノベーション能力とイノベーションエコロジカルを評価するための重要なバロメーターで、国際競争力や地域競争力を高めるための重要なマーケットエンティティだ。2019年から2021年の3年間、評価額トップ500に入った世界のユニコーン企業のデータ分析によると、世界のユニコーン企業の発展は、「成長の加速」、「構造の分散化」、「集中的な上場、競争の激化」といった新たな動向が見られた。
動向1:成長のカギとなる要素が強化され、総評価額が加速的に上昇
2019年から2021年の3年間、世界ユニコーン企業トップ500の総評価額は、1兆9300億ドル、2兆100億ドル(前年比8%増)、2兆9400億ドル(前年比46%増)で、総評価額は加速的に上昇している。ユニコーン企業が成長するためには、独創性や破壊的技術、再現が難しいビジネスモデル、歩調がしっかりと合った戦略とブランド、持続的な資本によるエンパワーメント、超大規模な市場、良好なイノベーションエコロジカルといったカギとなる要素を兼ね備えていなければならない。世界のユニコーン企業トップ500の総評価額が加速的に上昇しているということは、ユニコーン企業の成長を促すカギとなる要素が強化されており、各要素と要素のカップリング効率が継続的に向上しているからだ。
動向2:国の集中度が下がり、一極集中化が弱まる
2021年、トップ500に入る世界のユニコーン企業の国を見ると、その集中度は下がっており、中国と米国が主導的地位を保ってはいるものの、その数は前年比で19社減少した。世界トップ500に入る中国と米国のユニコーン企業数は、2019年の410社から、2020年には409社、2021年には390社に減少し、全体に占める割合は82%から78%に低下した。一方、インド(29社)は新たに10社増加し、世界ユニコーン企業トップ500に入る企業数の増加ペースが最も速い国となった。世界ユニコーン企業トップ500に入る企業数が増加している国には、ドイツ、インドネシア、スイス、スウェーデン、オーストラリア、スペイン、カナダなどがある。一方、数が横ばいとなっている国には、フランスやイスラエル、シンガポール、日本、コロンビア、アラブ首長国連邦、南アフリカ、エストニアなどがあり、数が減少している国には英国、韓国、ブラジル、フィリピン、ルクセンブルクなどがある。
動向3:分野の分布が安定し、企業サービス系企業が増加
ここ3年、トップ500に入る世界のユニコーン企業の分野の分布を見ると、生活サービス・企業サービス系の企業数が常にトップ2をキープし(割合は約40%)、生活サービス・企業サービスも、世界ユニコーン企業トップ500のメイン分野となっている。2021年の世界ユニコーン企業トップ500のうち、企業サービス系の企業は112社で、全体に占める割合は22.4%と、生活サービス系の企業数を初めて上回り、トップに立った。2位の生活サービス系企業は86社で、全体に占める割合は17.2%。3位にはスマートテクノロジー系の企業が入り、69社となっている。2019年から2021年の3年間、文化・観光・メディア、金融テクノロジー、スマートテクノロジー、企業サービス、航空・宇宙と材料エネルギーの6分野のユニコーン企業数の増加率はそれぞれ1%、1.2%、2%、1%、0.8%、0.8%で、医療・ヘルスケア系の企業数は横ばい、その他の分野(生活サービス、教育テクノロジー、物流サービス、自動車交通、農業テクノロジーなど)のユニコーン企業は減少傾向となっている。
動向4:中国と米国が並走 競争力ある得意分野には差
ユニコーン企業の総合競争力が、一つの国・地域が将来、経済競争において優位に立てるかを左右すると、ある程度言えるだろう。
中国と米国は、世界ユニコーン企業トップ500に入る企業数や総評価額において、デッドヒートを繰り広げている。中国は、生活サービス、スマートテクノロジー、自動車交通、物流サービス、教育テクノロジーなどの分野で優位性を誇っているのに対して、米国は企業サービス、医療・ヘルスケア、航空・宇宙、金融テクノロジーといった分野で優位性を誇る。2021年、中国のランキングトップ10に入るユニコーン企業の多くが、ビジネスモデルの再現が難しいことと持続的な資本エンパワーメントなどを特徴としており、中国の大規模市場と良好なイノベーションエコロジカルにおいて成長している。一方、2021年の米国のランキングトップに入ったユニコーン企業は、技術イノベーションのパフォーマンスが際立っている。
動向5:都市の分布が分散化しているが、依然として世界主要都市に集中
2021年、世界ユニコーン企業トップ500は138都市に分布し、2019年比で12都市増加し、都市分布はさらに分散化が進んでいる。しかし、主に中国の北京、上海、深圳、米国のサンフランシスコ、ニューヨーク、ロサンゼルス、インドのバンガロール、韓国のソウルといった世界主要都市に集中している。2021年、ユニコーン企業数が最も多かった20都市には、世界ユニコーン企業トップ500に入った企業の68%が集中していたものの、2019年の69.8%と比べると1.8ポイント低下した。それでも、北京とサンフランシスコは依然として、世界で最もユニコーン企業が集まっている都市で、その2都市だけで世界ユニコーン企業トップ500に入る企業が117社あり、全体の4分の1近くを占めている。目まぐるしく変化し、競争が熾烈な市場において、ユニコーン企業が、イノベーション創出の難度や複雑性を予想するというのは至難の業となる。そのため、企業のために、破壊的技術イノベーションに合ったエコロジカル環境をいかに作り出すかが非常に重要となる。イノベーションエコロジカルに必須の要素には、知識を方向性とした収入分配制度、科学的な分類評価メカニズム、整備された知的財産権保護体制、公平な市場競争環境、合理的な企業の試行錯誤コストなどがある。こうしたユニコーン企業が集中している都市には大学や科学研究機関、政府、金融などの仲介サービス機関があり、組織間のネットワーク、連携を通して、人的資源、技術、情報、資本といったイノベーション要素を統合することができるほか、イノベーション要素の効果的な集積と各主体の価値創出を実現し、ユニコーン企業が成長できるよう、良好なエコロジカルを作り出すことができる。
動向6:30%以上の企業が入れ替わり、ユニコーン企業の競争が激化
新型コロナウイルス感染症や産業変革、資本市場といった要素が重なり、世界ユニコーン企業トップ500の競争図にも変化が起きている。2021年、世界ユニコーン企業トップ500に入った企業152社が入れ替わり(前年同期比12.8%増)、入れ替わり率は30.4%に達した。また、86社がトップ500から外れた(前年同期比274%増)。一方、世界ユニコーン企業トップ500に入った企業のうち、66社が資本市場に進出し(前年同期比113%増)、2021年度に上場したユニコーン企業の時価総額は合わせて9456億4300万ドルと、上場前の総評価額を3632億6100万ドル(増加幅62%)上回った。資本市場がユニコーン企業のイノベーションバリューを引き続き高く評価していることの現れだ。
動向7:資本市場進出する企業はNYSEとナスダック市場に集中
2020年に、世界ユニコーン企業トップ500に入る31社が資本市場に進出した。うち、13社がナスダック市場に、9社がニューヨーク証券取引所(NYSE)に進出し、全体の71%を占めた。2021年に上場した世界ユニコーン企業トップ500に入る企業は66社で、うち29社がNYSEに、28社がナスダック市場に上場し、全体の86%も占め、その割合は前年比で15ポイント上昇した。NYSEとナスダック市場への上場に集中していることが分かる。
動向8:SPACを通じた上場が革新的上場ルートとしてトレンドに
2020年以来、ますます多くのユニコーン企業はSPAC(特別買収目的会社)との合併を通して上場を実現しており、全体の18%を占めている。SPACを通じた上場というのは、直接上場(DPO)、合併、逆さ合併、私募といった特徴が一体となった革新的な上場ルートだ。直接海外でIPOする場合と比べると、SPAを通じた上場には、企業評価額が不十分といったデメリットもあるものの、同モデルは、「上場のハードルが低い」、「かかる時間が短い」、「コストが安い」、「確実性が高い」といった明らかなメリットが際立っている。ますます多くのユニコーン企業がそれを通して資本市場に進出している。
中国は現在、イノベーション主導の発展戦略を踏み込んで実施する重要な時期を迎えており、効果的な措置を積極的に講じて、ユニコーン企業が破壊的技術革新を創出するのに有利なエコロジカルを構築し、ユニコーン企業を代表とするテクノロジーイノベーション企業の急成長を促進し、中国のユニコーン企業の競争における全体的な優位性をキープすることで、中国の産業のモデル転換・高度化、経済の質の高い発展を促進しなければならない。
※本稿は、科技日報「全球独角獣企業発展的新趨勢」(2022年9月1日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。