【22-55】バイオ液体燃料で環境と経済のウィンウィンを実現
馬愛平(科技日報記者) 2022年10月24日
画像提供:視覚中国
二酸化炭素排出(CO2)排出削減が非常に大きな課題となっているのを背景に、その削減に効果的なバイオ液体燃料が今後、交通分野で排出を削減するうえで重要な役割を果たすと期待されている。国際エネルギー機関(IEA)と国際連合食糧農業機関(FAO)の総合研究によると、バイオ液体燃料は温室効果ガスの排出をある程度削減できるという。バイオマスエタノールを例にすると、2008年以来、再生燃料基準(RFS)の要求に基づいてバイオマスエタノールとその他のバイオ燃料を使用したことで、米国の交通・輸送の分野における温室効果ガス排出が既に9億8000万トンも削減された。2021年だけを見ても、バイオマスエタノールを使用したことで削減できた温室効果ガスの排出量は5450万トンに達した。
海外でバイオマスエタノールのようなバイオ液体燃料の使用が始まっているだけでなく、中国もバイオ液体燃料に力を入れている。清華大学化学工業学部・応用化学研究所の劉徳華所長は、「20数年の発展を経て、中国のバイオマスエタノールは、一部ですでにガソリンに取って代わり、グリーン交通に下支えを提供している」と説明する。
中国がバイオマスエタノールの生産大国の仲間入り
バイオ液体燃料とは、バイオマスを発酵させて純度を上げるか、生化学的合成を通して製造したバイオマスエタノール、オイル類などの液体燃料のことで、現時点ではバイオディーゼル、バイオマスエタノールなどがメインだ。中国のバイオマスエタノールの生産原材料は、当初のトウモロコシやわら、もみ、よく見られる穀物から、キャッサバといった非穀物類に変わっている。
国投生物科技投資有限公司の劉勁松副社長は科技日報の取材に対して、「従来のでんぷん質を原料としたバイオマスエタノールと比べると、今のセルロース系のバイオマスエタノールの主な原料は、わら、小麦など穀物の穀、フジのつる、木くず、皮、おがくず、低木の枝、枯葉、食品加工業から排出されたカスといった農林廃棄物となっている。セルロース系のバイオマスエタノールの生産技術には、バイオ化学的変換、熱化学的変換、化学変換の3種類がある。現時点ではバイオ化学的変換がメインとなっている。わらなどは、事前処理を経て、酵素加水分解と発酵を通して、バイオマスエタノールを製造し、蒸留によって精練して純度を高め、基準を満たす製品にする。液状の酒粕は分離濃縮を経て、バイオマスボイラーで燃料に変えられ、バイオマスエタノール生産設備に電気や熱を提供することができる」と説明した。
中国のバイオマスエタノール産業は長年、「審査を経た生産、方向を定めた流通、閉鎖的運営、秩序に基づく発展」という原則に沿い、安定した産業の基礎が築かれている。中国のバイオマスエタノールの生産はバイオベースがメインだ。2021年末の時点で、中国のバイオマスエタノールの生産能力は年間529万5000トン、年間生産量は290万トンに達している。バイオエタノールをガソリンに混ぜたバイオマスエタノール混合ガソリンが、中国の12省(自治区)で使用されており、バイオマスエタノールは既に、中国の新興グリーンバイオ産業となっている。そして、中国は既に、世界においてバイオマスエタノール生産大国の仲間入りを果たしてもいる。
バイオディーゼルは、グリーンエネルギーの一種として、環境保護、再生可能といった特性を備え、化石燃料と混ぜて使用するのが一般的だ。「CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラル」の目標達成を目指す中、各国はバイオディーゼル燃料の混合を義務付けることで、世界で年間4000万トン以上規模のバイオディーゼル市場を作り出している。中国のバイオディーゼルの主な市場はEUで、国内では主に環境保護型の可塑剤の製造に用いられている。
環境にやさしく経済効果の高いバイオ液体燃料
交通分野への応用を見ると、バイオ液体燃料は、大きな発展のポテンシャルを秘めている。バイオディーゼルを例にすると、一般的なディーゼルに完全に取って代わることができるほか、土地を占有したり、穀物の取り合いをしたりすることなく、植物もしくは廃棄物の二酸化炭素吸収源がクローズドループを形成するようにすることで、CO2排出の「ゼロ成長」を実現することができる。そして、交通輸送分野におけるCO2排出を削減するうえで最も直接的で、効果的な手段となる。劉副社長は、「バイオ液体燃料は、再生可能エネルギーの重要な構成部分として、交通分野のCO2排出を削減するうえで新たなルートを切り開いてくれる」との見方を示す。
2021年から2030年ごろまでの間に、バイオマスエタノールやバイオディーゼルは、道路輸送のCO2排出を削減する重要な手段の一つとなり、航空分野でもバイオ燃料が少しずつ使用されるようになると予測されている。2030年を過ぎると、バイオ液体燃料の使用総量は、7000万トンに達し、交通分野のCO2排出を約4億トン削減するようになると予測されている。
バイオ液体燃料を使用すると、環境にやさしいだけでなく、経済効果も高い。
劉副社長は、「中国は農業生産大国であり、農業わらの資源大国でもある。毎年、約2億トンのわらがそのまま燃やされ、資源の浪費、環境汚染につながっている」と指摘する。
バイオ液体燃料を発展させることで、燃やすわらの量を減らし、汚染物質の排出を削減できるほか、雇用を創出し、農家の増収に直接つなげることもできる。また、間接的には、わらの貯蔵や輸送、農機製造といった産業と歩調を合わせて発展することができ、産業クラスター効果による目に見える経済効果をもたらすことができる。中国の車用バイオマスエタノール混合ガソリン推進事業指導グループの特別顧問を務める喬映賓氏は、「5トンのわらを使って1トンのセルロース系バイオマスエタノールを生産できるとすると、1億トンのわらで、2000万トンのセルロース系バイオマスエタノールが生産できることになる。それをガソリンに混ぜると、CO2排出を約7000万トン削減できるほか、原油の輸入を年間1億トン以上減らすことができる。セルロース系のバイオマスエタノールを活用することは、エネルギーを確実に確保するということだ」と強調する。
さらなる発展のために技術のブレイクスルーによるコスト低減が必要
長期的に見ると、セルロース系のバイオマスエタノールといった製品を代表とする先進バイオ液体燃料の発展が今後の発展のトレンドとなり、経済の持続可能な発展と環境の質の保護に対して積極的な役割を果たすようになるだろう。
中国国家エネルギー局が2021年7月に発表した「2021年エネルギー事業の指導意見」は、「セルロースといった非穀物系のバイオマスエタノール産業のモデル推進を加速させなければならない」と明確に打ち出しているほか、「セルロース系のバイオマスエタノールの発展が、バイオマスエタノールの主な発展の方向」としている。
従来のバイオ液体燃料と比べると、先進バイオ液体燃料はCO2排出削減の効果が高く、明るい見通しを持つ。IEAの「2050年までにエネルギー関連のCO2排出をネットゼロにするためのロードマップ」では、バイオ燃料の生産量の増加は、大部分が先進バイオ液体燃料が占めている。その割合は、2020年の1%未満から、2030年には45%近く、2050年には90%にまで上昇する見通しだ。
現時点で、バイオ液体燃料は生産コストが依然として高く、その発展の主な足かせとなっている。バイオマスエタノールとバイオディーゼルは現在、市場におけるコストの面の競争力こそ低いものの、水素エネルギーよりもコストが安い。今後、わらを原料とするセルロース系のバイオマスエタノールの技術のブレイクスルーを実現することができれば、そのコストは大幅に低減すると予想されており、発展のポテンシャルが大きい。
劉副社長は、「現在、先進バイオエネルギー技術やバイオ製造技術は依然として産業化の初期にある。セルロース系のバイオマスエタノールのCO2有効利用プロジェクトといった重要工業モデルプロジェクトと新技術の孵化を支援することで産業の成長を加速させることが依然として必要だ。また、製品への補助金と減税を通して、バイオ液体燃料のコストを低減し、市場が受け入れやすい環境を作り、その発展を促進する必要がある」との見方を示す。
※本稿は、科技日報「生物液体燃料:変廃物為緑能,譲環境和経済双贏」(2022年9月8日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。