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【22-63】新型導電性透明フィルムが有機太陽光発電の発展をサポート

魏 路 王 春(科技日報記者) 2022年11月25日

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画像提供:視覚中国

 有機太陽光発電モジュールの透明電極材料は透光性、導電性が高く、表面の粗さが小さく、使用コストが安いとった特徴を備えていなければならない。このほか、有機半導体材料の電子構造と表面仕事関数が整合していなければならない。唐正研究グループはレイヤー・バイ・レイヤー堆積法を採用して紫外光ドープ酸化亜鉛(ZnO)薄膜を作成し、有機太陽光発電モジュールの透明電極材料が必要とする技術的要求を満たした。

 シリコンを代表とする無機半導体材料と比べ、有機半導体はコストが安く、材料は多様性に富み、機能をコントロールでき、フレキソ印刷が可能といった多くのメリットがある。このため、有機太陽光発電は「シリコン太陽光発電」にあったたくさんの限界を超えることができる。ただ、有機太陽光発電をスムーズに市場に投入するためには、高性能な有機太陽光発電モジュールに応用できる透明電極材料の開発という問題を解決しなければならない。

 科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」にこのほど掲載された、東華大学先進低次元材料センターのディスティングイッシュトリサーチャー・唐正氏が率いる研究グループの研究成果によると、レイヤー・バイ・レイヤー堆積法を採用して全く新しい導電性透明フィルム材料を開発するとともに、薄膜の導電メカニズムの解明にも成功した。この薄膜材料を有機太陽光発電モジュールの陰極にすることで、太陽光発電モジュールに「酸化インジウムスズ(ITO)」を使うことなく、有機太陽光発電の市場化を推進できる。

酸化インジウムスズに代わる透明電極材料を探す

 有機太陽光発電モジュールの表には現在、太陽光が効率よくモジュール内部に入るようにするために、一般的には透光性が優れた透明電極材料が採用され、効果的に電気に変換できる仕組みになっている。同時に、太陽光から変換された電流を、太陽光発電モジュールから最大限出力できることが求められるため、透明電極材料の導電率を高くする必要がある。

 ITOは、有機太陽光発電モジュールに最もよく採用されている透明電極材料で、導電率や弱い光の吸収率、表面の平坦度などが高いという際立つメリットがあるものの、インジウムはレアメタルで、地殻中の存在量が少なく分散しているため、非常に高価だ。そのため、ITOを使用すると、有機太陽光発電モジュールの製造コストが跳ね上がってしまうことになる。何より、世界のインジウムの推定埋蔵量では、有機太陽光発電モジュールの大規模工業化発展の要求を満たすことはできない。

 そのため、有機太陽光発電を市場に投入するためには、ITOの代替品を探すことがカギとなる。

 よく見られるITOの代替材料、例えば、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)やアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZOといった透明電極材料は、光の吸収率が高く、透光率が低いため、有機太陽光発電モジュールの変換率が著しく制限されている。一方、ナノ金属メッシュやカーボンナノチューブ、グラフェンといった新興の透明電極材料は表面が粗く、電極上に堆積した光を吸収する薄膜の質が悪く、それを使って高性能の有機太陽光発電モジュールを構築するのは難しい。また、他の透明材料の多くも、導電率こそ理想的であるものの、薄膜の厚みに問題があり、電気抵抗があまりに大きく、有機太陽光発電モジュールに適用することはできない。

 有機太陽光発電モジュールの透明電極材料は透光性、導電性が高く、表面粗さが小さく、使用コストが安いとった特徴を備えていなければならない。このほか、唐氏によると、有機半導体材料の電子構造と表面仕事関数が整合していなければならない。その表面仕事関数は、太陽光から変換された電荷が、効果的に有機半導体材料から電極へ移動できるかを左右し、そこから外部回路へと移動するカギとなる。

 酸化亜鉛は、研究者の間で、ITOに取って代わる非常に理想的な透明電極材料であると見なされてきた。自然な状態において、酸化亜鉛は、N型導電性を示し、仕事関数が低く、有機半導体材料と電子構造の相性も良い。また、溶媒キャスト法を採用して作成した酸化亜鉛薄膜は、可視光線や近赤外線の透過率が極めて高く、材料及び製造コストが非常に安い。しかし、導電率が極めて低いというのが、透明電極薄膜として酸化亜鉛を有機太陽光発電モジュールへの応用を厳しく制限している。

導電率が極めて低い酸化亜鉛の導電率を継続的に高める方法

 初期の研究では、通常、アルミニウムドープやガリウムドープ、ホウ素ドープ、フッ素ドープといった元素ドープを通して、酸化亜鉛の導電率を高めている。しかし、元素ドープは酸化亜鉛薄膜の透過率を低下させるだけでなく、有機太陽光発電モジュールの寿命にも影響を及ぼす。そのため、元素をドープした酸化亜鉛は依然として、あまり使用されていない。

 唐氏は科技日報の取材に対して、「元々導電率が極めて低い酸化亜鉛の導電率をいかに、継続的かつ効果的に高めるかが解決すべき難題だ」と説明する。

 唐氏が率いる研究グループは、紫外線ドープ技術に基づき、元素ドープを必要とせずに、酸化亜鉛の導電率を大幅に高めるという方法を編み出した。

「紫外線ドープは酸化亜鉛の導電率を高めることができる」という文献報告はこれまでにもあったが、その導電率の上がり幅には限りがあり、ドープ後の酸化亜鉛を有機太陽光発電モジュールの透明薄膜電極として採用することはできなかった。

 唐氏率いる研究グループは、ゾル-ゲル法に基づき、レイヤー・バイ・レイヤー堆積法を通して、多層薄膜を作成することで、酸化亜鉛薄膜中の酸素空孔の濃度を高め、紫外光ドープの効率を大幅に向上させ、紫外光をドープした後の酸化亜鉛の導電率を500S/cm(ジーメンス毎センチメートル)まで高めることに成功した。初期の研究報告の2--5倍に当たる数字だ。

 唐氏は、「簡単に言えば、酸化亜鉛は紫外線を吸収すると、電荷が発生する。電荷が多いほど、導電性が高くなる。紫外線が消えると、電荷も次第に消えてしまう。酸素空孔の作用としては、酸化亜鉛に多くの電荷を発生させるとともに、電荷の消失を防ぎ、電荷が常にある導体になるのを保証することだ。レイヤー・バイ・レイヤー堆積法を採用したのは、堆積により酸化亜鉛薄膜の厚みが増し、酸素空孔の濃度を高めて、酸化亜鉛導電率の向上を実現するというのが目的だ」と説明する。

 初期の研究結果と比べると、レイヤー・バイ・レイヤー堆積法により作成した紫外線ドープ酸化亜鉛薄膜の表面仕事関数、表面の粗さが低く、薄膜の厚みも酸化亜鉛薄膜の堆積回数を調整して簡単に増すことができ、高性能の有機太陽光発電モジュールの透明電極材料が必要とする技術的要求を満たすことができた。

 レイヤー・バイ・レイヤー堆積法により作成した紫外線ドープ酸化亜鉛薄膜は、紫外線遮断作用がある。これは、有機太陽光発電モジュールに「日焼け止めクリーム」を塗るようなものだ。ITOを採用したモジュールと比べると、モジュールの寿命が長いというメリットもある。

 唐氏は、「これは、私たちの研究におけるサプライズだ」と笑った。

全く新しい応用分野を開拓する将来の太陽光発電技術

 唐氏は、「酸化亜鉛の導電率をさらに高めるというのが今後の研究の方向性。現時点で、レイヤー・バイ・レイヤー堆積法を通して作成した紫外線ドープ酸化亜鉛薄膜の導電率は、実験室レベルの有機太陽光発電モジュールに応用が可能で、その大規模工業化を実現するためには、透明電極薄膜の導電率はもちろん高ければ高いほど良い」と説明する。

 唐氏が率いる研究グループが作成した紫外線酸化亜鉛薄膜のサイズは最大で5×5センチメートル。今後、スリット押し出しコーティング法といった工業化で互換性のある薄膜堆積法を採用することで、さらに大きな面積で堆積された紫外線ドープ酸化亜鉛薄膜を作成すれば、有機太陽光発電の市場化を促進する可能性がある。

 近い将来、有機太陽光発電技術は従来の「シリコン系太陽電池」技術との相互補完が実現するだけでなく、太陽光発電技術の全く新しい応用分野が開拓される可能性がある。例えば、有機太陽光発電モジュールを、光の弱い環境下に設置し、環境光や室内光を吸収させて、室内の電子コンポーネントに継続的に電気を供給することで、電子コンポーネントが外部の電源に依存しているという、モノのインターネット(IoT)技術の発展の大きな足枷となっている問題を解決し、その急速な発展を促進するようになる可能性がある。


※本稿は、科技日報「新型透明導電薄膜助推有機光伏発展」(2022年10月13日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。