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【22-64】地球上に2京匹以上 アリの数はどのように数えたか

孫 明源(科技日報実習記者) 2022年11月29日

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画像提供:視覚中国

 地球上にはどれくらいの数のアリが生息しているのだろう?生物学者から見ると、アリは自然界において重要な役割を担っており、アリを観察すると生態系に関する重要な情報を数多く取得することができるという。そのため、多くの科学者は世界のアリの総数をいろんな方法で推計することを試みてきた。今年9月に発表された香港大学の科学研究チームが筆頭となって行われた研究の成果によると、地球上のアリの総数は2京匹以上だという。

 研究の参加者で、論文の著者でもある香港大学生物科学学院の生態学・生物多様性学部の博士課程在学中の王潤璽氏は科技日報の取材に対して、「2京匹というのは最終的な数字ではない。しかし、この数字はベースラインとして重要な意義があり、今後の一連の研究展開に役立つだろう」との見方を示した。

複数のアプローチで得られたアリの数のベースライン

 過去100年近くの間に、世界のアリ学研究者は各種論文1万本近くを発表し、その多くがアリの数の統計に関する論文だ。しかし、研究者によって調査方法が異なるため、こうした結果を足し算するという簡単な方法では、正しい数を導き出すことはできない。そのため、研究チームは、ウィンクラーによるリター抽出法を採用した研究を行い、その結果を基礎にして、各生物群系さらには世界の地表のアリの総数を推計した。

 王氏は、「ウィンクラーによるリター抽出法というのは、特定の地域の落ち葉や表土(リター)を収集し、ふるいにかけ、その後十分に乾かして、中にいる昆虫を全て振るい出して収集する方法だ。今回のアリの総数に関する研究はこの方法を採用した」と説明する。

 この方法はハードルが低く、結果の安定性も高く、何度も繰り返し行うことが可能で、標準化方法と呼ばれている。標準化方法に基づいて得られたデータは、研究者の推計の基礎となる。このほか、研究の範囲を地表に留めることがないように、研究者はエアゾール式殺虫剤を使う方法で、植物に覆われた部分のアリの数の統計を出した。

 働きアリがアリ全体に占める平均的な割合及びさまざまな空間単位内のアリの分布規則を基に、研究者は統計学法を用いて、各アリの個体群だけでなく、世界のアリの総数を推計した。少なく見積もっても、地表に生息しているアリだけでも0.3京匹に達し、地球上の全てのアリの総数は少なくとも2京匹になるという。

 ただ、王氏は、「当チームが採用した標準化方法にも限界がある。ウィンクラーによるリター抽出法は、抽出時間が短く、サンプルの採取は日中に集中しているほか、十分な落ち葉がない場所には適さない。このほか、研究の実施地点は、米国や西ヨーロッパ、アフリカ南部、東南アジアといった地域に集中しており、このほかの地域のデータは少ない。アリの種類によって個体群の大きさ、習性、働きアリが占める割合などが異なり、全てを同じ方法で計算することはできない。こうした限界を考慮するなら、潜在的な誤差がたくさん存在することになり、推計結果にも影響を及ぼす」と指摘する。

 そして、「正確な数字を求めるということだけが、当チームの研究の目的ではない。また、この論文の目的も、『最終結論』を出すことではない。全ての研究成果と同じく、この数字は、生物多様性の研究チェーンの一部分で、今後の研究のための筋道づくりに過ぎない。当チームの研究の2京匹というのはベースラインで、地球上にはそれよりもっと多くのアリが必ずいることを示している。これまでにも、世界のアリの数の推計を出した研究があったが、当チームの推計結果は、以前の推計結果より2~20倍多い」と説明する。

小さなアリが生物多様性研究を大きくサポート

 数が極めて多く、極めて広い地域に分布し、種類も極めて豊富な昆虫としてのアリは、ほぼ全ての大陸に分布し、生息地も非常に多い。南極大陸といった極寒の地域を除いて、地球上のほぼどこにでも生息しているアリは、世界の各生態系において、種子の散布や落ち葉などの有機物の無機物への分解促進、他の動植物との共生、捕食者としてのエネルギー循環促進など、重要な役割を果たしている。アリの種類と数の分布は、自然界の生態系の変化に関する多くの重要な情報を反映している。

 王氏は、ある研究によると、地球温暖化が進むにつれて、アリの活動範囲が二極化していることを例に挙げ、「多くの地域のアリの種類の分布は、現地の気候と動植物の状況の変化の影響を直接受けている。ほかの大型の野生動物よりも、アリの種類と数の分布のほうが、生態系の微妙な変化の兆候をより反映している」と説明する。

 そして、「大型の哺乳類よりも、アリを含む無脊椎動物のほうが変化に敏感な上、豊富な情報を提供してくれる。アリは数も種類も多いため、依存している生態系も小さい」という。

 それでも、現時点では、生物多様性研究の主な方向性は依然として、魚類や鳥類、哺乳類といった脊椎動物を中心としている。なぜなら、こうした大きな動物は観察しやすく、統計も出しやすく、通常、一般的な観察法を採用して研究を行うことができ、それにより導き出す統計、数字の正確度も高いからだ。それとは反対に、アリを含む無脊椎動物に関する研究は少なく、注目度もずっと低いため、人間のアリに対する理解は非常に限られており、生物多様性関連の知識には一定の空白が存在している。

「世界のアリの総数の推計という観点から見ても、生物多様性研究にとっても、2京匹という数はスタート地点にすぎない」と王氏は言う。


※本稿は、科技日報「地球上的2億億隻螞蟻是這様"数"出来的」(2022年10月13日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。