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【22-67】分子育種技術で「小骨のない魚」を開発

呉 純新(科技日報記者) 蒋 朝常(科技日報通信員) 2022年12月12日

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筋肉間骨があるダントウボウとないダントウボウの比較レントゲン画像(画像提供:取材対応者)

 高沢霞教授率いるチームは、すでに開発されていた第1世代ヘテロ接合型(F0世代)の骨の少ないダントウボウの雌、雄を選んで交配させ、筋肉間骨が全くないダントウボウの種苗(F1世代)の繁殖に成功した。現在は、それを安定的に遺伝させて、繁殖させる取り組みを行っているという。関連のプロセスに基づいて、新しい遺伝資源の特性が安定し、国の関連の認証を取得すれば、「小骨のないダントウボウ」を市場で大々的に販売することができるようになる。

 種なしスイカや種なしブドウを食べたことがあるという人は多いだろうが、「小骨のない魚」が食卓に並ぶ日も近いかもしれない。将来的に、「魚の骨がのどに刺さる」というのは過去のものとなり、骨を気にせずに魚を食べるというのが普通のことになる日が来るかもしれない。

 華中農業大学水産学院の高沢霞教授率いるチームが最近発表した「小骨のないダントウボウ」に関する研究の最新の成果によると、第1世代ヘテロ接合型の骨の少ないダントウボウから雌、雄を選んで交配させ、筋肉間骨が全くないダントウボウ(以下「小骨のないダントウボウ」)の種苗の繁殖に成功した。現在は、それを安定的に遺伝させて、繁殖させる取り組みを行っているという。関連のプロセスに基づいて、新しい遺伝資源の特性が安定し、国の関連の認証を取得すれば、「小骨のないダントウボウ」を市場で大々的に販売することができるようになる。

 では、どのようにして魚の小骨をなくしたのか?「小骨のないダントウボウ」の小骨はどこへ行ったのか?「小骨のないダントウボウ」の食感は、小骨のあるダントウボウと違うのか?この研究の成果をダントウボウ以外の淡水魚に応用することはできるのだろうか?こうした点について、科技日報の記者が高教授率いるチームを取材した。

魚類の筋肉間骨の骨化の法則性を特定

 ダントウボウは武昌魚とも呼ばれ、中国で主に養殖されている淡水魚の一つで、肉質が良く、とてもおいしい。高教授が所属するチームは早くも2008年から、ダントウボウの遺伝・選抜育種を行ってきた。当時、同チームは主に、生長や耐病性、低酸素耐性といった特性に注目していた。その後、2012年から、筋肉間骨に注目するようになり、その筋肉間骨特性を改良することを思いついたという。

 ダントウボウは筋肉間骨が比較的多いため、食べる際に非常に手間がかかる。さらに、筋肉間骨の存在が、ダントウボウの種業や産業の質の高い発展をある程度制約してきたと言えるだろう。ダントウボウの選抜育種の過程で、高教授率いるチームはさまざまな資料を収集し、筋肉間骨はダントウボウ、ひいては中国国内外で主に養殖されている硬骨魚類の安全な食用と生産加工価値に大きな影響を与えていることを知った。

 高教授は、「私を含めたチームのほとんどのメンバーが、ダントウボウを食べて、小骨がのどに刺さった経験がある。そのため、『小骨がのどに刺さる』という小さな問題を解決することで、中国における小骨のある魚の種業発展の質向上をバックアップしたいと考えるようになった。小骨のないダントウボウの育種研究を通して、魚を安全に、安心して、楽しく食べてもらえるようにしたい」と語る。

 では、小骨はどのようにして形成され、生長の各段階において、どのような違いが生まれるのだろう?

 まず、「小骨について探る」ということが、高教授チームが明確にすべき課題となった。

 高教授率いるチームは、骨格の染色や形態学解剖、レントゲン画像を通して、ダントウボウは卵から孵化して約20日後、体長が約1.33センチになると、筋肉間骨が出現し始め、尾から頭に向かって順番に形成されていくことを確認した。それが、筋肉間骨のないダントウボウの選抜育種研究のスタート地点となった。

 その後、同チームは、さまざまな泳ぎ方の魚を比較し、ダントウボウの筋肉間骨が形成される順序には明確な理由があることを突き止めた。研究結果によると、泳ぎ方と、筋肉間骨が形成される順序や筋肉間骨のタイプの複雑さには一定の関係がある。同チームは、さまざまな組織学のノウハウを活用して、筋肉間骨の骨化様式は膜内骨化であり、軟骨の段階は経ないことを突き止めた。

 同チームは、筋肉間骨組織のハイクオリティのリボ核酸(RNA)を抽出して、次世代シーケンシング技術を採用して、ダントウボウの筋肉間骨の発生・発育のさまざまな段階におけるトランスクリプトーム、トランス−スプライシングRNA、プロテオームなどのマルチオミクス解析、筋肉間骨組織と他の骨格組織の遺伝子発現、タンパク質発現の差分解析を展開し、BMP、Wnt、Fgfといったシグナル伝達遺伝子が、筋肉間骨の発生・発育の過程をコントロールする役割を果たしていることを突き止めた。また、筋肉間骨の発生・発育をコントロールするカギとなる候補遺伝子を発見した。

 高教授率いるチームが発見した魚類の筋肉間骨の骨化における法則性は、ダントウボウを含む魚類の筋肉間骨の発生・発育の分子メカニズムを探究するうえで、より明確な方向性を示している。

特性の変化をもたらす重要な遺伝子を発見

 高教授率いるチームはまず、DNAマーカー利用選抜とゲノム編集という現代的な分子育種技術を採用して、ダントウボウの筋肉間骨の特性に対する遺伝的改良を展開した。

 魚類の筋肉間骨の発生・発育をコントロールするカギとなる遺伝子を発見するまで、高教授率いるチームは、DNAマーカー利用選抜育種技術を通して、筋肉間骨の少ない品種の選抜育種を目指した。

 高教授率いるチームは、選抜育種グループから、ダントウボウには最も少なくて84本、最も多くて146本の小骨があることを確認し、魚類の筋肉間骨の数量特性の遺伝力を初めて評価し、ダントウボウの筋肉間骨の数とある程度はっきりと関係があるSNP遺伝子座位を選び出した。

 高教授率いるチームは、「まず、ゼブラダニオから始めた。さまざまなゲノム編集技術を採用して、約60の候補遺伝子がゼブラダニオの筋肉間骨の発生・発育に影響しているかを分析したところ、3つの遺伝子がさまざまな程度でそれをコントロールしていることを発見した」と説明する。

 3つのうちのscxaとbmp6が機能を失うと、ゼブラダニオの筋肉間骨が目に見えて減少した。しかし、こうしたゼブラダニオには往々にして欠陥も存在していた。一方、runx2bの突然変異によりゼブラダニオの筋肉間骨が全てなくなっても、その生長や他の骨格の形成、筋肉の脂肪酸とアミノ酸の含有量といった特性に顕著な影響はなかった。

 runx2bの突然変異によるゼブラダニオの品種遺伝特性は非常に安定しており、子孫にも安定的に筋肉間骨が全くない表現型が現れた。

 その後、同チームは、DNAマーカー利用選抜育種―ゲノム編集技術体系をダントウボウに応用して、本格的な「小骨のないダントウボウ」開発の第一歩を踏み出した。

 2020年、同チームは、ダントウボウのCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を確立し、翌21年からダントウボウのrunx2bゲノム編集実験に乗り出し、F0世代のゲノムを編集したダントウボウを作り出した。さらに、今年、F0世代から突然変異が確認された雌と雄を選んで交配・繁殖させ、F1世代を作り出し、筋肉間骨が全くないダントウボウを選び出した。

 現時点で、「骨なしダントウボウ」の生長特性は良好で、孵化して5ヶ月の体重は平均50グラム以上となっている。肉眼で観察すると、「小骨のないダントウボウ」と、同じ大きさで小骨のあるダントウボウの外観はほぼ同じだ。レントゲン画像を見ると、小骨のあるダントウボウの体の中には、一列に横向きに並ぶ筋肉間骨があるのに対して、「小骨のないダントウボウ」は、全体が暗く、筋肉間骨は全く見られない。

「小骨のないダントウボウ」が食卓に並ぶまでにはまだ多くの研究が必要

 この10年、中国で養殖されたダントウボウは70‐80万トンに達している。

 高教授率いるチームは、「ダントウボウの種業や養殖産業のさらなる発展を促進するためには、テクノロジーを駆使して、筋肉間骨特性を改良し、その食用的価値と加工価値を高める必要がある。これはやってみる価値があり、非常に意義がある」との見方を示す。

 高教授率いるチームが開発した「小骨のないダントウボウ」は、現時点ではまだ大規模養殖の段階には入っていない。同チームは、今後、「小骨のないダントウボウ」が国の審査をクリアすれば、体系内の試験ポイントや地方の水産技術普及ポイント、ダントウボウ苗種繁殖場、養殖合作社などと連携して、共にダントウボウの種業と養殖業のモデル転換・高度化を促進したい考えだ。

 ただ、「生産・普及の前に、厳格な試験性養殖評価をクリアしなければならない。また、各世代の『小骨のないダントウボウ』の生長指標や肉質といった指標も細かく評価しなければならない。その他、関連の遺伝資源制度を確立し、発表・実施しなければ、生産・普及を検討することはできない」と高教授率いるチームは説明する。「小骨のないダントウボウ」が実験室から出て、食卓に並ぶようになるまでには、まだ多くの研究が必要なのだ。

 この技術を通して「小骨のないダントウボウ」は実現しそうだが、他の小骨の多い魚類にもその技術を採用することができるのだろうか?高教授率いるチームは、「小骨のないダントウボウ」の新遺伝資源の養殖スタイルや栄養ニーズなどの研究を展開することで、工場での循環型養殖システムなど現代的な養殖モデルを構築し、興味を持つ他の科学研究チームや企業と連携して、他の小骨のある魚類も対象にして、筋肉間骨のない新遺伝資源育成の研究を展開したい考えだ。

 ダントウボウはコイ科の魚だ。高教授率いるチームは、「アオウオ、ソウギョ、ハクレン、コクレン、コイ、フナ、ホウギョといったコイ科の魚は、ダントウボウと同じタイプの筋肉間骨を同じ様式で形成する。そして、ゲノム配列もダントウボウと非常に似ている。そのため、理論的には、こうしたコイ科の魚類についても筋肉間骨のない品種を育成することは可能だ」との見方を示す。

 高教授率いるチームは既に、ソウギョのF0世代の突然変異体を得ており、ソウギョやギベリオブナ、ハクレンといった魚類の筋肉間骨特性の改良も順調に進んでいるという。


※本稿は、科技日報「解決"卡嗓子"問題,無刺魚来了」(2022年11月1日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。