【23-09】整備が進むマルチレベルの特色ある地域イノベーション体制
劉 垠(科技日報記者) 2023年02月14日
「中国地域テクノロジーイノベーション評価報告2022」発表
中国科学技術発展戦略研究院が北京で2022年12月7日に発表した「中国地域テクノロジーイノベーション評価報告2022」によると、2012年の中国共産党第18回全国代表大会以来、中国の地域のテクノロジーイノベーション水準が全体的に向上し、重要戦略地域のテクノロジーイノベーション発展の成果が際立っている。2022年、中国全土の総合テクノロジーイノベーション水準指数は75.42ポイントで、2012年比で15.14ポイント上昇した。
北京、上海、粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深圳、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、マカオ両特別行政区によって構成される都市圏)のテクノロジー・起業中心地の牽引役としての地位がさらに強化された波及効果により、北京・天津・河北や長江デルタ、広域珠江デルタといった地域のイノベーション能力増強を牽引していることは注目に値する。長江経済ベルト・黄河流域の生態保全や質の高い発展促進が実施されている沿線エリアのテクノロジーイノベーション能力が安定して増強され、地域の協同イノベーション発展の成果がさらに際立つようになっている。
中国科学技術発展戦略研究院の張旭院長は、「中国のマルチレベルかつ特色ある地域イノベーション体制はさらに整備され、中国のイノベーション型国家、テクノロジー強国建設を力強く下支えしている。中国共産党第20回全国代表大会の報告は、地域のイノベーション発展の方向性をさらに明確化しており、『地域協調の発展戦略実施を深化』させ、『国際テクノロジーイノベーション中心地、地域テクノロジーイノベーション中心地建設を統合的に推し進める』」との見方を示す。
地域のイノベーション水準向上を裏付ける3つの集団の発展状況
中国科学技術発展戦略研究院技術予測・統計分析研究所の玄兆輝所長は、「『中国地域テクノロジーイノベーション評価報告』は、国家イノベーション調査制度シリーズ報告の一つで、現時点において中国で最も長く続いている評価報告の一つでもある。今年度の報告は、▽テクノロジーイノベーション環境▽テクノロジー活動への投資▽テクノロジー活動の成果▽ハイテク産業化▽テクノロジーの経済・社会発展促進―――という5つの面で、中国の31省・自治区・直轄市のテクノロジーイノベーション水準を測定、評価している」と説明する。
総合テクノロジーイノベーション水準指数によると、中国の31地域は、▽イノベーションリーディングエリア▽中等イノベーションエリア▽イノベーション追走エリア‐‐‐の3つの集団に区分けすることができる。
第1集団のイノベーションリーディングエリアは、総合テクノロジーイノベーション水準指数が全国平均水準を上回っているエリアで、今年は上海市、北京市、天津市、広東省、江蘇省、浙江省が入っており、2012年の報告のランキングと全く同じ顔ぶれとなっている。
第2集団の中等イノベーションエリアは、総合テクノロジーイノベーション水準指数が全国平均水準を下回っているが、50ポイントを上回っているエリアで、2022年は重慶市や湖北省、陝西省、甘粛省など21地域が入り、2012年に比べて14地域増加した。
第3集団のイノベーション追走エリアは、総合テクノロジーイノベーション水準指数が50ポイント以下の4地域で、2012年に比べて14地域減少した。
3大テクノロジー起業中心地の牽引役の地位が強化
北京、上海、粤港澳大湾区の3大テクノロジー・起業中心地建設の成果は、報告のデータを見れば明らかだ。
北京は、世界に影響力ある全国テクノロジーイノベーション中心地建設を加速させており、今年の総合テクノロジーイノベーション水準指数は86.2ポイントと、全国総合ランキングで2位となった。研究開発(R&D)者の数は、年間33万6000人(2020年のデータ。以下同)だった。R&D経費投入強度は6.44%と、全国1位となっている。技術市場の技術取引額は6316億2000万元(1元は約18.9円)と、全国総額の22%を占めた。
それだけにとどまらず、北京のイノベーションの成果の波及効果も際立っている。北京から天津市、河北省へと移転された技術の契約額は前年比22.9%増の347億5000万元に達している。天津の総合テクノロジーイノベーション水準は前年より順位を1つ上げ、トップ3に返り咲いた。
上海国際テクノロジーイノベーションセンターの成果も際立っており、総合テクノロジーイノベーション水準は長年、全国ランキング1位をキープしている。また、テクノロジー活動への資金投入指数ランキングでも全国1位となっており、R&D経費支出が1615億7000万元と、対GDP比率は4.17%となっている......。
玄所長は科技日報の取材に対して、「長江デルタは、上海の牽引の下、中国で最も競争力ある地域共同体となっている。江蘇省と浙江省の全国総合ランキングは5位と6位をキープし、安徽省の地域イノベーション能力も向上し続けている。長江デルタの協同イノベーション体制は持続的に最適化され、イノベーション体制の効果が急速に現れるようになっている。開放・イノベーション水準も向上し続け、技術の国際収入は全国の50%に迫っている」と説明する。
粤港澳大湾区建設の成果も際立っている。広東省の総合テクノロジーイノベーション水準は全国ランキングで4位となり、テクノロジー活動への人材投入や技術成果の市場化、資本生産率などは全国1位となっている。粤港澳大湾区は、国際的影響力を持つ重要なテクノロジークラスターとなっている。世界知的所有権機関(WIPO)の報告によると、「深圳--香港--広州」テクノロジークラスターは数年連続で世界2位をキープしている。
長江経済ベルト、黄河流域エリアが好調
長江経済ベルトのうち、長江沿いにある11省・市がイノベーション主導発展戦略を実施し、テクノロジーが経済を下支え、牽引する役割を果たすようになっていることは注目に値する。武漢市をイノベーションの先進地とする湖北省、湖南省、江西省の「3省」を含む長江の中流エリアのR&D経費支出、研究開発者が全国に占める割合はいずれも9.5%となっている。重慶市や成都市を先進地とする長江の上流エリアは、四川省、貴州省、雲南省の「1市3省」を牽引しており、そのR&D経費支出、研究開発者が全国に占める割合はいずれも8%、ハイテク産業の売上高が全国に占める割合は10%となっている。
報告によると、生態保全と質の高い発展促進が実施されている黄河流域の沿線エリアのテクノロジーイノベーション能力は安定して増強されている。うち、陝西省の総合テクノロジーイノベーション水準はランキング9位となっており、テクノロジー活動成果ランキングで全国4位となっている。山東省の総合テクノロジーイノベーション水準はランキング11位で、テクノロジー経済・社会発展促進指数ランキングでは前年比で順位を7つ上げた。甘粛省と青海省は、イノベーション環境改善に取り組んでおり、ハイテク産業の発展が加速しているほか、企業に対してイノベーションを奨励することで、産業構造を最適化し、地域競争力を向上させている。
玄所長は、「中国共産党第18回全国代表大会以来、中国のイノベーション発展の地域構造は大きく変化し、優位性の相互補完を行い、質の高い発展を遂げるマルチレベルの戦略構造が次第に形成されている」としながらも、「テクノロジーイノベーションは目に見えて進歩しているが、中国の地域のイノベーション発展には解決が急務な課題もある。例えば、新型コロナウイルスの感染拡大といった要素の影響の下、一部の地域のテクノロジーイノベーションへの投資は伸び悩んでおり、地域企業のイノベーションアクティブ度もさらなる上昇が必要だ。また、ハイテク産業の発展にはブレイクスルーが必要で、一部の資源型地域は、イノベーション発展へのモデル転換がなかなか進んでいない」と指摘する。
そのため、報告は、「今後、地域のテクノロジーイノベーション発展のためには、中国共産党第20回全国代表大会の戦略・計画に基づいて、地域のテクノロジーイノベーション体制能力建設を加速させ、地域のイノベーションが、国家発展の新たな原動力、新たな優位性を構築するうえで重要な役割を果たすようにし、テクノロジーイノベーション中心地の地域のイノベーション体制建設における中心的地位を強化し、地域間の協同イノベーションの能力・水準を向上させ、中国のイノベーション型国家と世界テクノロジー強国建設のために力強い下支えを提供する必要がある」と提案している。
※本稿は、科技日報「多層次各具特色区域創新体系更加完善」(2022年12月9日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。