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【23-22】データストレージ産業の発展にはトップレベルの計画強化が必要

劉 艷(科技日報記者) 2023年05月16日

 データを保存できるかどうか、安全かどうか、データを効率良く移動できるかどうか。これらは、データストレージ能力の高さによって決まる。データストレージと演算能力のバランスが取れていない問題や、記憶媒体応用のコア技術のイノベーション不足などの問題を解決するためには、中国のデータストレージ産業の発展に対するトップレベルの計画や具体的な目標を速やかに制定する必要があり、チェーンを補強、強化するとともに、データストレージ能力に関する独自の標準や記憶媒体の応用標準などを定め、重要技術の独自化を実現しなければならない。

曽 勇(電子科技大学校長)

 対話型AI(人工知能)「ChatGPT」が再びアップデートされた。海外メディアの報道によると、米OpenAI社は3月23日、ChatGPTのプラグイン機能を発表。ChatGPTがサードパーティーの知識ソースやデータバンク(ネットワークを含む)にアクセスできるようにし、その機能を拡張する。一例を挙げると、ChatGPTがプラグインを読み込むことで、地球と木星の距離がリアルタイムで計算できるようになる。

 データによると、ChatGPTに必要な総計算量は約3640PF-Days(1PFLOPSの処理能力を備えたコンピュータで計算すると3640日かかる)で、資金は30億ドル(1ドル=約136円)規模となり、演算能力が500PFLOPS(1PFLOPSは1秒間に1000兆回の浮動小数点演算を行う)のデータセンターを7~8カ所設置しなければ、稼働をサポートできない。また、ChatGPTの継続的なアップデートに伴い、データの規模も拡大し続けている。

 近年、AI量子コンピューティングや大規模言語モデル(LLM)、ブロックチェーンといった技術の急速な発展に伴い、インターネットデータの規模が爆発的に拡大している。市場調査会社IDCの試算によると、中国で生成されるデータ総量は2025年までに48.6ゼタバイト(ZB)に達し、世界全体の27.8%を占めるようになる。また、中国の国内総生産(GDP)成長に対する寄与度が年平均1.5~1.8%に達するとみられている。

 中国政府の「東数西算」(東部地域のデータを西部地域で保存・計算すること)戦略や各業界に浸透したデジタル技術において、データの信頼性を確保するためには、効率的で安全なデータ保存が重要になる。

 中国のデジタル経済が、応用の深化、規範化された発展、包摂的共有という新たな段階に入るのに伴い、データ要素はデジタル経済の深化した発展において最も中心的な原動力となっている。安全で信頼性が高く、経済的で効率的な新型ストレージプラットフォームを使ってデータ要素を保存、管理、使用することで、デジタル経済の発展に力強い原動力をもたらすことができる。

データの移動効率を決めるデータストレージ能力

 電子科技大学の曽勇校長は「データはデジタル経済の中核的な生産要素であり、戦略的材料でもある。データストレージの安全性と独自性は、中国のサイバーセキュリティの基礎となる。計算インフラは、国の安全保障と質の高い発展に関わる」との見方を示した。

 第14次五カ年計画(2021~25年)綱要では、データ保存の安全性と演算能力の強化が、新型インフラ整備の加速、さらには現代的インフラシステムの構築における重要な内容だとした。1月3日、中国工業・情報化部(省)を含む16部門は「データセキュリティ産業の発展促進に関する指導意見」を共同で発表し、コア技術の研究開発強化とビッグデータシーンにおける軽量で安全な伝送・保存技術の研究を打ち出した。

 曽氏は「中国の既存のCPUを中心としたITインフラは、演算性能やデータストレージ能力(記憶媒体)、ネットワーク関連の多くの課題や問題に直面しており、現在の戦略的発展要件を満たすことは難しい。そのため、データストレージと演算能力が連携し、高速で繋がり、ストレージと半導体が連携する、フルスタックで自主制御可能な新型ITインフラを構築することが急務となっている」と指摘した。

 さらに「データを保存できるかどうか、安全かどうか、データを効率良く移動できるかどうか。これらは、データストレージ能力の高さによって決まる。データストレージと演算能力のバランスが取れていない問題や、記憶媒体応用のコア技術のイノベーション不足などの問題を解決するためには、中国のデータストレージ産業の発展に対するトップレベルの計画や具体的な目標を速やかに制定する必要があり、チェーンを補強、強化するとともに、データストレージ能力に関する独自の標準や記憶媒体の応用標準などを定め、重要技術の独自化を実現しなければならない」と強調した。

「データ中心」の新しい枠組みへの移行を

 演算速度が速いコンピューターシステムほど、CPUに対する性能要求も高くなる。データ量の爆発的増加に伴って技術レベルの制約を受けるCPUは、すでにデータの増加がもたらす処理のニーズに対応できなくなってきている。現在、中国のサーバーのCPUは、インターネットやストレージなどの要求を処理するために、演算能力の30%を消費しており、遅延を20%増加させている。エネルギー消費が多く、費用対効果が低い上、一般的なCPUはデータの処理・演算を得意としていないため、エネルギー効率比が低い。

 曽氏は「インターネット基盤技術の変化が『CPU中心』の枠組みから、『データ中心』の新しい枠組みへの変化を加速させるだろう。新しい枠組みは、相互接続を単純化した効率的なストレージコンポーネントを通じ、最も基本的な部分のミクロレベルで完全な自主制御を可能にする」との見方を示した。

 さらに「計画による誘導、特別プロジェクトによる牽引、標準の制定という3つの側面から、新型ITインフラを構築すべきだ。国は、記憶媒体応用標準の制定を推し進め、スマートストレージ、スマートフレーム、ストレージ制御/ドライブなどの国家標準や業界標準を制定するとともに、ハイスループットインターネット・プロトコル標準を定め、標準評価システム、符合性認証、マッチングテストを通じて、重要技術・製品の有効な評価と承認を進めるべきだ。また、チェーンを補強、強化し、演算能力とデータストレージ能力を独立した産業チェーンやサブチェーンごとに管理し、発展させるとともに、エコシステム主導により、チェーンで中心的役割を果たす企業を育成し、中国国内の川上・川下産業チェーンの能力を高めるべきだ」と訴えた。


※本稿は、科技日報「推動数据存儲産業発展,還需加強頂層規画」(2023年3月27日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。