【23-41】中国の新たな汚染物質対策が急速に進展
李 禾(科技日報記者) 2023年08月16日
(画像提供:視覚中国)
中国では現在、有毒・有害な新たな汚染物質のモニタリング分析やリスク評価、排出源トレーサビリティ、効果的な汚染物質除去技術の開発・評価などの作業が進んでおり、段階的に識別して分類管理する「スクリーニング-評価-抑制」の新たな汚染物質管理システムが構築されている。一連の標準や技術的規範を策定することで、新たな汚染物質対策を効果的にサポートしている。
中国生態環境部(省)がこのほど発表した「ポリ塩化ナフタレンを含む残留性有機汚染物質5種類の環境リスク管理要求に関する公告」では、残留性有機汚染物質(POPs)5種類の排除・制限に関する規定を定めている。「POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)」が規制する残留性有機汚染物質のうち、中国ではこれまでに23種類が排除され、国内主要産業におけるダイオキシンの排出も大幅に低下している。中国の新たな汚染物質対策は今、急速に進展している。
新たな汚染物質の「スクリーニング-評価-抑制」をダイナミックに展開
「新たな汚染物質」とは、環境中に排出され、人や生物への毒性が高く、環境中での残留性や生物蓄積性があるという特徴を持ち、生態環境や人体の健康にとって大きなリスクとなるものの管理対象になっていないか現有の管理対策ではリスクを効果的に低減することができない有毒・有害な化学物質を指す。
新たな汚染物質の多くは器官毒性、神経毒性、生殖・発育毒性、免疫毒性、内分泌かく乱作用、発がん性、催奇性など、さまざまな生物毒性を持つ。また、大気や水を介して長距離移動し、食物連鎖による生物濃縮によって、長期間にわたり生物の体内に蓄積されることがある。
中国国務院弁公庁が2022年5月に発表した「新汚染物質管理行動案」(以下「行動案」)は「有毒・有害な化学物質の生産と使用が、新たな汚染物質の主な発生源になっている」と指摘している。
現在、中国内外で幅広く注目されている新たな汚染物質は主に、国際的条約の規制対象とされる残留性有機汚染物質、内分泌かく乱物質、抗生物質などである。「行動案」は新たな汚染物質対策の段階的な目標、タスク、実施のロードマップも明確に打ち出している。「行動案」の発表は、中国の新たな汚染物質対策が全面的に始まったことを意味している。
中国生態環境部固体廃棄物・化学品管理技術センターの劉国正主任は「通常の汚染対策とは異なり、新たな汚染物質対策が複雑なのは、有毒・有害化学物質の種類が非常に多く、発生源が多岐にわたり、環境リスクが目に付きにくいからだ。各汚染物質の対策措置を決定する際、環境リスクの特異性を緊密に考慮し、的確な環境管理対策を講じる必要がある」との見方を述べた。
同部科技・財務司の鄒首民司長は「中国では現在、有毒・有害な新たな汚染物質のモニタリング分析やリスク評価、排出源トレーサビリティ、効果的な汚染物質除去技術の開発・評価などの作業が進んでおり、段階的に識別して分類管理する『スクリーニング-評価-抑制』の新たな汚染物質管理システムが構築されている。一連の標準や技術的規範を策定することで、新たな汚染物質対策を効果的にサポートしている」と説明した。
劉氏は「このシステムは、関連機関が調査、モニタリングを行い、環境リスクが比較的大きな新たな汚染物質をスクリーニングして、その環境リスクを科学的に評価した上で、発生源の禁止・制限、過程における排出削減、末端での対策というプロセス全体にわたる環境リスク管理・抑制措置を実施する。新たな汚染物質の危険性に対する人々の認識は絶えず深まっているため、新たな汚染物質のスクリーニング・環境リスク評価は引き続き推進する必要がある」と指摘した。
環境に配慮した代替品が新たな汚染物質対策をサポート
中国は長年、新たな汚染物質の環境に配慮した代替品、代替技術の開発に力を入れ、新たな汚染物質の対策事業を効果的にサポートしてきた。
例えば、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)は白い臭素系の固体物質で、難燃剤として他の材料に添加することができる。研究では、HBCDには毒性があり、生物の体内に侵入しやすく、大量のHBCDが体内に長期にわたって蓄積すると発がん性リスクが増大する可能性があることがわかっている。
HBCDは山東省での生産、加工が盛んだ。同省生態環境庁固体廃棄物・化学品処の鄒暁東処長は「HBCDの排除を進める過程で、当庁は科学的なプランを制定し、企業が環境に配慮した先進的な代替製品とその製法・技術を見つけるようサポートすることで、産業の最適化・高度化を推進している」と説明した。
同省固体廃棄物・危険化学品汚染防止センターの劉強主任は「専門家が研究や実証実験を重ねた結果、テトラブロモビスフェノールAと臭素化SBS(ブタジエン/エチレン芳香族共重合体)がHBCDの代替品になりうることがわかった。これらは工業化生産の条件が整っており、環境リスクも低い。元々HBCDを使って断熱建材を生産していた企業は、工程パラメーターを少し調整するだけで、代替品の生産を続けることができ、製品の質も国の基準を満たす。この2種類の代替品の生産能力は持続的に増強されており、生産と販売はともに好調だ」と語った。
生態環境部の劉友賓報道官は「中国は、残留性有機汚染物質の代替品と代替技術の開発・応用を強化し、鉄鋼や化学工業、紙製造、建材など10以上の業界のグリーントランスフォーメーションと高度化をサポートしている。現在、中国の環境や生体試料中に含まれる有機塩素化合物系残留性有機汚染物質の水準は全体的に減少傾向にある」と述べた。
それだけでなく、中国は世界の新たな汚染物質対策にも急速に貢献している。
「POPs条約」の最初の加盟国の一つとして、中国は毎年、残留性有機汚染物質の発生と環境中への排出を数十万トン削減しており、ポリ塩化ビフェニルを含む電力設備の淘汰目標を前倒しで達成した。
生態環境部の邱啓文元副部長は「条約調印後、中国は国家契約履行メカニズム、環境リスク低減システムを構築し、環境に配慮した代替品の研究開発を強化した。また、グローバル対策に参加し、契約履行のために、中国発のソリューション、中国の知恵、中国の力を提供してきた」と述べた。
2021年に通知された「中共中央・国務院による汚染防止難関攻略の踏み込んだ取り組みに関する意見」は、残留性有機汚染物質などを対象に、調査、モニタリング、環境リスク評価を実施し、有毒・有害化学物質環境リスク管理制度を構築し、排出源の参入管理を強化することなどを求めている。
「行動案」によると、第14次五カ年計画(2021~25年)期間中、中国は、新たな汚染物質への集中対策を実施するほか、健全な管理制度と技術体系を構築し、法的保障を強化する。そして、科学技術による支援、基礎能力の構築、宣伝による誘導を強化し、社会の共同対策を促進する。
新たな汚染物質対策を科学技術が支援
大まかな統計によると、「行動案」発表後、中国の約30地域が地方レベルの新たな汚染物質対策案を打ち出した。対策は現在、全国で急速に推進されている。
ただ、中国の新たな汚染物質対策は初期段階にあり、管理の難易度が高く、複雑な技術が必要で、科学知識が不足しているといった困難や課題に直面していることは否定できない事実だ。
中国工程院院士(アカデミー会員)の侯立安氏は、「新たな汚染物質の環境・健康リスクの効果的な低減について、リスク評価と制御技術体系を構築し、リスク評価の方法論を確立するとともに、重点リスク源が識別できるよう、一連の基礎理論研究や重要技術の研究開発を行わなければならない。効率的で高精度の検出技術の開発を推進し、新たな汚染物質を識別して重点的に管理・規制するリストの研究を行い、人体や生物への毒性評価・健康リスク評価体系を研究しなければならない」と強調した。
中国科学院院士で、中国科学院生態環境研究センター研究員の江桂斌氏は、「新たな汚染物質をめぐる環境問題に対し、中国は整備された科学技術イノベーションメカニズムを構築し、対策技術の研究開発・応用を促し、対策効果を高め、生態環境の持続的な改善を確保する必要がある。例えば、ブロックチェーンやディープラーニングといった技術を使って、環境に配慮した代替品を開発し、人工知能や自動化技術と組み合わせることで、毒性測定や優先的なスクリーニング体系などが開発できる」と見解を述べた。
江氏はさらに「人工知能をベースにしたディープラーニングシステムは、新たな汚染物質対策・リスクアラートのレベルを高める。例えば、化合物の構造設計や、環境に配慮した化学合成案を制定することで、生態環境に害を及ぼす潜在的リスクがある化学物質の発生を減らし、環境にやさしい代替品の安全な設計に対するバーチャルスクリーニングなどを提供できる」と語った。
※本稿は、科技日報「我国新污染物治理步入"快车道"」(2023年6月27日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。