科学技術
トップ  > コラム&リポート 科学技術 >  File No.23-44

【23-44】基礎研究への多元的投資メカニズムの整備を

袁汝兵、王彦峰(北京市科学技術研究院副研究員) 2023年09月05日

 中国中央政治局第3回集団学習を主宰した習近平国家主席は「基礎研究の強化はハイレベルな科学技術の自立と自強を実現するための差し迫った要求であり、世界的な科学技術強国を建設する上で必ず通る道だ。基礎研究への財政支出を安定的に増やすべきで、税制優待策などの複数の方法により、企業が資金投入を拡大するよう働きかけ、民間企業や組織に対して、科学基金や科学寄付金などを設立して、多様な資金投入を奨励し、国家自然科学基金とその連合基金の支援効果を高め、競争型の支援と安定的な支援を組み合わせた基礎研究への資金投入メカニズムを構築・整備しなければならない」と訴えた。これは、新時代において、中国が基礎研究を強化し、資金投入メカニズムを整備する上での明確な方向性であり、従うべき根本的原則となっている。

 2012年以降、中国の基礎研究への資金投入は毎年増加している。2012年は499億元(1元=約20円)だったが、その後は毎年約15%のペースで増え、2022年には1951億元にまで拡大した。社会のR&D(研究開発)投資全体に占める割合も4.8%から6.5%に上昇した。資金投入の増加により、基礎研究で重要な成果が次々と出ている。「中国天眼」と呼ばれる500メートル球面電波望遠鏡(FAST)や定常強磁場施設(SHMFF)、核破砕中性子源施設といった国レベルの重要プロジェクトが実現した。また、量子情報や幹細胞、脳科学、ニューロモルフィックチップといった先端分野においても、国際的な影響力を持つ重要な成果が上がっており、イノベーション能力が強化し続けている。

 しかし、中国のハイレベルなテクノロジー自立自強実現という差し迫った必要を満たし、世界的なテクノロジー強国建設という目標の達成に向けて、中国の基礎研究への資金投入は、規模でも構造でも依然として大きな向上の余地がある。一方、基礎研究への資金投入規模はさらに拡大する必要がある。基礎研究費が国内総生産(GDP)に占める割合は約0.1%を維持しており、基礎研究費が研究開発資金投入に占める割合もさらに上昇させる必要がある。他方で、基礎研究費の財源は単一的で、主に国の財政支出、特に中央財政のテクノロジーへの支出に頼っており、企業や民間団体、個人の資金投入が不足している。それに対して、海外を見てみると、基礎研究費の財源・ルートは相対的に幅広く、政府のほかに、企業、一般社会の資金などもある。中国は現在、キーテクノロジーや基礎研究の全体的な水準をさらに高める重要な時期に差し掛かっており、基礎研究への資金投入を多元化させるメカニズム構築が急務となっている。具体的には、以下の3つの面に注力することを提案する。

 第1に、基礎研究への財政支出を継続的に強化することだ。支出規模の点では、中央財政の基礎研究分野に対する長期的な支出・予算制度や、安定した支出、成長メカニズムを構築し、基礎研究費のGDP、研究開発費に占める割合を高め続けることを提案する。そして、中央財政支出を通して、地方が基礎研究への資金投入の割合を高めるよう誘導し、経済が発展している地域がニーズに合わせて基礎研究への資金投入を増やすよう働きかける。

 資金投入の方向性については、重要なオリジナル成果を生み出すことを第一とし、国の重要な戦略的ニーズと産業発展において鍵となるボトルネックに焦点を当て、先端誘導の模索型基礎研究や戦略誘導の体系化された基礎研究、市場志向の応用型基礎研究への資金投入を強化するほか、国家重点実験室といった国の戦略的なテクノロジー力の基礎研究費を確保し、より多くの財政資金を、企業が投じることができない、あるいは投じる意欲がない根源的なイノベーションに投入しなければならない。

 分配・使用メカニズムについては、基礎研究費の分配・使用メカニズム改革を深化させ、科学者にさらに大きなテクノロジー・ロードマップの決定権と経費使用権を与えるほか、監督・管理をさらに強化し、科学者が確実に自主権を行使し、それを管理できる状態にし、資金の使用効率を高め続けるべきだ。

 第2に、企業が資金を投入し、基礎研究に参加する新たな原動力を引き出すことが必要だ。現有の企業が基礎研究に資金を投入する場合の税金・経費支援政策を細部にわたるまで着実に実施し、税引前控除、追加控除といった関連政策の全面的な実施を推進する。給付付き税額控除、繰越控除といった方式を模索し、権限を授与された地方政府が地域の発展に合わせて、企業の基礎研究の制度設計に資金を投入するよう働きかける大胆な模索を行い、政策的供給を持続的に革新する。また、新型の挙国体制と市場メカニズムの関係をうまく処理し、共同支援措置を模索し、関連企業が基礎研究への資金投入を強化するよう働きかけ、条件が整っているリーディングカンパニーが基礎先端系研究基金や連合基金、関連賞を設立するようサポートし、関連企業が大学、科学研究機関などと研究開発機関、共同実験室を共同で建設するよう支援し、産学研がしっかり融合した技術研究開発体制を構築し、「0」から「1」へのオリジナルイノベーション創出を強化する。市場の見通しが明るい基礎研究と応用基礎研究に対しては、政府調達サービスといったスタイルで、企業が将来を見据えた計画を立て、企業が幅広く基礎研究への参加、資金投入を強化するよう提案する。

 第3に、社会ルートの基礎研究への資金投入を積極的に拡大する。まず、社会資本がオリジナルイノベーション、基礎研究に注目し、それを支援する良い雰囲気作りを積極的に推進し、寄付を受け取る分野としての基礎研究の重要な地位を一層明確にする。次に、一般社会の寄付による基礎研究支援のトップレベルデザイン、関連措置を整備し、寄付ルートをスムーズにし、法律・法規、政策メカニズム、寄付を受け取る手順、監督・管理メカニズムを規範化する。さらに、一般社会の寄付による基礎研究支援を積極的に誘導する必要がある。個人が基礎研究に寄付をする場合の免税制度を構築し、個人の基礎研究への寄付の意欲を高めるほか、基礎研究公益寄付体制構築を加速させ、非営利組織の寄付の基礎研究に対する支援の貢献度を高める。最後に、新たな基礎研究への資金投入の形式を継続的に革新して充実させ、テクノロジー金融による基礎研究支援の効果的な方法を模索するなどして基礎研究費への資金投入ルートを拡大させ、中国の基礎研究への資金投入を多元化させるメカニズム整備加速を促進する。


※本稿は、科技日報「完善基础研究多元化投入机制」(2023年7月10日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。