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【23-52】投資の冷え込む中国、OSSの活用は大企業へ

2023年09月26日

高須 正和

高須 正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人

略歴

略歴:コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動している。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。『ニコ技深センコミュニティ』『分解のススメ』などの発起人。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスや、深圳市大公坊创客基地iMakerbase,MakerNet深圳等で事業開発を行っている。著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など
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中国経済の減速がオープンソース・スタートアップへも

 2023年初頭から、中国は厳格だったゼロコロナ政策をストップし、ほぼすべての経済活動を平時に戻した。

 だが、3年以上にわたるコロナ政策はビジネスへの影響が大きく、景気対策としての公共投資を繰り返した影響も長引きそうだ。同じくコロナの経済的影響からまだ脱しきれていない世界経済も、世界最大の輸出入国である中国に影響を与えている。

 2023年1月に発表された「中国オープンソース年度報告」は、中国オープンソース界10大ニュースのトップとして、景気の落ち込みと、それによるオープンソース系スタートアップへの投資冷え込みを語っている。

 中国のオープンソースコミュニティや、それが生み出すソフトウェアプロジェクトは2022年も大きく拡大したが、投資環境は冷え込んでいる状況に、「オープンソースソフトウェア(OSS)の開発はまず好奇心や愛が動機となって行われる。それは見返りを求めないが、投資はリターンを求める」と年度報告では語られている。

大企業を中心にオープンソース活用が進み、政府も後押し

 投資環境が冷え込む中、中国の大企業でのオープンソース活動は、ますます大規模化・組織化が進んでいる。OSPO(Open Source Program Office)という、企業内のオープンソース活動を組織横断的に統括し、社外への発信や社外コミュニティとの連携を図るセクションが、中国ほとんどのテクノロジー大企業で設立されている。OSPOは部署横断的な仕組みなので、発足したばかりのスタートアップのように、小規模で部署が混沌としている会社にはなじまないが、大企業では効果が大きい。

 OSPOを設立した企業はアリババ・テンセント・百度・バイトダンスのようなソフトウェア企業から、DidiやWebankなどのサービス企業、ファーウェイやシャオミ、ZTEなどのハードウェア企業まで、ほとんどの分野にわたる。

 また、中国政府のシンクタンクである中国情報通信院が、産業界でのオープンソース活用を共有し、促進していく組織と会議であるOSCAR Open Source Industry Conferenceを発足させ、2022年9月に最初の会議を行っている。

唯一の大型投資であるZillizはAIと親和性の高いデータベース

 スタートアップ投資は、2021年度に比べて投資件数も投資金額も半分程度に落ち込んでいる。そのなかで2022年の最も大きな投資はMilvusというベクトル型データベースをオープンソースで開発しているZillizがシリーズB+で調達した6000万ドルだ。他は小規模なA、A+ラウンドのものばかりで、Zillizの調達額は突出している。

 ベクトル型データベースはAI分野での活用が期待されるデータベースだ。従来のデータベースとは違い、構造化されていないデータ(画像や音声ファイルなど)を多次元のベクトル形式に変換して格納する。従来のデータベースは同じ構造のデータを集計する、差分を出すなどは得意だが、「だいたい同じだが少し違う」「どのぐらい違う」などを扱うのが難しい。ベクトル型データベースは、標準的なデータベースでは検索や集計に時間がかかる「似ているデータ」を高速で扱うことができる。蓄積されたデータをもとに判定基準をつくるAIの分野で、これまで扱いづらかったデータが扱えるようになることは効果が大きく、注目が集まっている。ChatGPTほか生成型AIのブームは世界規模で広がっている。Zillizのクラウドサービスの顧客も多くがアメリカで、昨今の冷え込んだ投資環境の中でも投資が集まっている分野といえる。

 Zillizへの投資では、オープンソース系スタートアップへの投資に強みのあるYunchi Capitalほか、中国やシンガポールなどに本拠を置く中華系ファンドが複数参加しているが、最も大きいのはサウジアラビアのアラムコのファンドであり、ここからも投資環境の減速がうかがえる。

大企業でのオープンソース活用が広まる中、オープンソースのセキュリティに注目が集まる

 Zillizに比べると小規模だが、中国のセキュリティ企業である安勢信息は2022年5月にエンジェルラウンド、12月にPre-Aラウンドとして連続で数千万元規模の資金調達をした。安勢信息が開発しているオープンソースのセキュリティソフト「CleanSource(清源)」は、開発したソースコードや、使用したオープンソースのモジュールを分析し、セキュリティリスクにつながるものや、ライセンス違反などを発見する。多くのオープンソースソフトウェアを使うことで、それぞれのライセンス範囲を整理するためにSBOM(Software Bill Of Material。ハードウェアにおける部品リストのソフトウェア版)を整備する働きが各企業で行われているが、そのSBOMの整理を助ける機能も備えている。

 Zillizへの投資はAIの投資ブームが反映されたものだが、大企業のOSPO設立と安勢信息は、どちらも産業界でオープンソース活用が進む動きの反映といえる。

投資とハイプ・サイクル 中国オープンソース界の未来

 AIへの投資はもちろん、こうしたオープンソースの産業家、大企業におけるOSPOの設立は中国限定の話でなく、むしろアメリカ企業のほうが先行している。中国での今年の投資環境は、むしろ海外/アメリカのトレンドを1年ほど遅れて反映しているともいえる。

 では、そのアメリカでは2023年は、オープンソースにどういう動きがあるのだろう。よく引用されるガースナーの先端テクノロジーのハイプ・サイクル2023年度版(リンク)では、生成型AIとOSPOがどちらも「今がピーク」とされている。投資以外の実質的な活用ではオープンソースコミュニティは拡大し続けているが、アメリカでのハイプ・サイクルが中国にもそのまま反映されると、2023年の中国オープンソースを巡る投資環境はさらに冷え込むかもしれない。


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