科学技術
トップ  > コラム&リポート 科学技術 >  File No.23-54

【23-54】中国で国産PCSK9阻害薬が初承認

周思同(科技日報実習記者) 2023年10月13日

 中国の信達生物製薬が独自開発した完全ヒト型抗PCSK9(プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)モノクローナル抗体薬「托莱西(Tafolecimab)モノクローナル抗体注射液」がこのほど、中国国家薬品監督管理局の承認を受け、原発性高コレステロール血症と混合型脂質異常症の治療で用いられることになった。中国で国産の抗PCSK9モノクローナル抗体薬が承認されたのは今回が初めて。

 中国ではここ数年、心血管疾患の発症率が増加し続けている。特に動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)などの心血管疾患は、都市部と農村部で長期にわたり死因のトップとなっており、全体の40%以上を占めている。心血管疾患を招く主なハイリスク因子のうち、最もよく見られ、最もリスクが高いのは脂質異常症(高脂血症)であり、特に「悪玉コレステロール」と呼ばれる低比重リポ蛋白コレステロールの値の上昇が、ASCVDの発生と進行を促す主な要因と考えられている。そのため、関連する心疾患を予防・治療するには「悪玉コレステロール」のコントロールが非常に重要になっている。

「悪玉コレステロール」の数値を抑えようとする場合、医学界では一般的にコレステロールの合成・吸収を抑制し、コレステロールの排除を促進する方法を取る。

 現在、多くの患者が治療中にコレステロールの合成を抑制するスタチン系薬を投与されているが、この投薬治療を受けた後も、依然として「悪玉コレステロール」の数値が基準に届かなかったり、スタチン系薬の副作用に耐えられない患者がかなりの割合で存在する。だが、PCSK9阻害薬の登場により、脂質異常症の治療に新たな方向性が切り開かれた。

 PCSK9は人体の肝臓で合成されるプロテアーゼ(加水分解酵素)であり、幹細胞表面にある「悪玉コレステロール」の受容体(レセプター)と結合すると、受容体が持つ「悪玉コレステロール」を排除する能力を抑制する。

 したがって、PCSK9の活性を抑えれば、肝細胞表面の「悪玉コレステロール」受容体の数を増やすことができ、これらの受容体が持つ「悪玉コレステロール」を取り込み、分解する能力を強化することができる。PCSK9阻害薬はこの作用機序を通じて効果をもたらす一種の新型脂質低下薬である。

 研究によると、PCSK9阻害薬の脂質を低下させる効果はスタチン系薬よりも明らかに高く、頻繁に服用する必要がない上、腎臓への明らかな副作用も見られないことから、臨床の現場でより受け入れられやすく、国内外のガイドラインで推奨されている。

 これまで中国で販売されてきたPCSK9阻害薬はすべて輸入品で、托莱西モノクローナル抗体注射液は、中国で初めて承認された独自開発の遺伝子組み替え完全ヒト型抗PCSK9モノクローナル抗体薬となった。現在、托莱西モノクローナル抗体注射液の多様な投与量の治療プランが承認され、中国の脂質異常症の臨床管理において新たな治療の選択肢をもたらしている。

 中国科学院院士(アカデミー会員)で復旦大学附属中山医院心血管内科の葛均波主任は、「心血管疾患を招く重要な要因である『悪玉コレステロール』は、今はまだ十分なコントロールが行われているとは言えない。今後はPCSK9阻害薬が脂質異常症の管理で重要な役割を担うようになるだろう」と述べた。

 北京大学第一医院心血管内科の首席専門家である霍勇教授も「托莱西モノクローナル抗体注射液は高コレステロール血症および混合型脂質異常症の患者に対し、より質の高い脂質低下薬の選択肢を提供することができる」と見解を語った。


※本稿は、科技日報「首个国产PCSK9单抗药获批」(2023年8月23日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。