【23-59】言葉の壁を越える翻訳機、世界陸上で活躍
王沁鷗、呉俊寛、劉 暘(新華社記者) 2023年10月26日
ハンガリーのブダペストで8月に開催された2023年世界陸上競技選手権大会で、男子800メートルに出場したイエメンのアブドラ・モハメッド・アル・ヤーリ選手は、自己ベストを更新しただけでなく、過去に参加したどの国際大会よりも多くの友人ができたという。アル・ヤーリ選手は「それは中国製の翻訳機のおかげだった」と語った。
アル・ヤーリ選手は「この翻訳機を使って、フランス語やポルトガル語、ハンガリー語を話す選手と会話をした。僕は英語がそれほど得意でないため、これまでの国際大会では、こんなに多くの選手と交流したことはなかった。このことは、今大会で成績以外において最も意義深いこととなった」と述べた。
アル・ヤーリ選手が語った中国製の翻訳機とは、今回の世界選手権で選手に提供されたスマート翻訳機のことで、60言語の文字・音声翻訳がリアルタイムでできる。大会オフィシャルサプライヤーの中国企業、科大訊飛(iFLYTEK)は、選手やコーチらに翻訳機を提供したほか、登録記者にもスマートボイスレコーダーを提供した。
組織委員会とメディアルームの間に設置された設備技術サポートエリアには毎日、各国・地域から集まった記者が問い合わせのために訪れていた。また、試合会場の内外において、各国・地域の選手やコーチ、スタッフが、あちこちで翻訳機を使って交流していた。多くの人が「テクノロジー製品のおかげで海外でも便利に生活ができ、他の国の人々との距離も縮まった」と感じていた。
アル・ヤーリ選手は「ハンガリー語とアラビア語の翻訳が正確で、手放せなくなった。ブダペストに到着して、登録手続きをした時に翻訳機をもらい、各種手続きや宿のチェックイン、練習計画、試合などの場面でハンガリー人ボランティアとコミュニケーションを取った。大会開催期間中に翻訳機をなくしてしまったが、すぐにスタッフに連絡してもう1台貸してもらった」と語った。
ウォーミングアップ施設では、ハンガリー人の大会スタッフ、チェテーニさんが、キューバ人選手のスパイクに関する問題の処理をサポートしていた。チェテーニさんが英語で話そうとすると、その選手はすぐに翻訳機を取り出し、2人はすぐにハンガリー語とスペイン語で会話を始めた。
チェテーニさんは「ここ数日、翻訳機を使って多くの選手とコミュニケーションを取ってきた。翻訳機で一番頻繁にコミュニケーションを取っているのは、スペイン語を話す選手。選手たちは海外で試合に参加することが多いものの、全ての選手が英語を流暢に話せるわけではない。翻訳機があれば、選手は言葉の心配をせずに、練習や試合など一番大事なことに集中できる」と語った。
同翻訳機のシリーズ製品は北京冬季五輪・パラリンピックなどの国際大会でも使われてきた。例えば、8月に開催された成都FISUワールドユニバーシティゲームズでは、男子4×100メートルリレーのトルコ代表メンバーが、試合会場の取材エリアで翻訳機を持った中国人記者に会い、自分がトルコ語で話したことがリアルタイムで表示されるのを見て驚いていた。
メンバーの一人は「英語では言いたいことが言えないことがある。でも母語なら世界の人にもっと理解してもらえる」と話していた。
記者にとって、ボイスレコーダーは仕事の効率を高めるツールとなる。
2023年世界陸上競技選手権で使われたボイスレコーダーは、英語、ハンガリー語、中国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、韓国語、日本語の8つの音声で文字起こしができる。同大会では8月26日までに、翻訳機とボイスレコーダー合わせて約5300台が貸し出された。大会期間中、関連する人工知能(AI)オープンプラットフォームもリリースされ、年末までに開発者向けに100種類以上の能力が公開される予定となっている。
日本人記者の折山淑美さんは「取材後の録音の整理には通常、取材の3倍の時間がかかる。でも、今回はその半分以下の時間で済んだ。オリンピックを10回取材してきたが、この種の製品を使うのは今回が初めて」と話していた。
チェテーニさんは「交流というのは、スポーツ大会開催の目的の一つで、テクノロジーが目的の達成に一役買っている。このような製品がもっと増えてほしい」と述べた。
※本稿は、科技日報「打破语言障碍翻译"神器"助力田径世锦赛秘」(2023年9月6日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。