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【23-63】競争が激化する中国の遺伝子組み換えコラーゲン産業

李 禾(科技日報記者) 2023年11月15日

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第27回CBE中国美容博覧会で展示された遺伝子組み換えⅢ型コラーゲン。

 動物由来のコラーゲンと比べ、遺伝子組み換えコラーゲンは分子が単一的で、成分がはっきりしているため、高純度の製品を作ることができるほか、ウイルスの潜在的リスクがなく、細胞の毒性が低い上、免疫原性が極めて低く、アレルギーや炎症、発熱といった問題が起きる可能性がより少ない。また、水溶性やエマルションなどの特性があり、加工性が高く、コールドチェーンによる輸送を必要とせず、保存が容易で、生産・製造過程もグリーンで環境にやさしい。

技術革新が続き、企業が続々参入

 山西錦波生物医薬(以下「錦波生物」)は注射用遺伝子組み換えヒト型コラーゲンⅢ溶液を革新的製品として申請し、中国国家薬品監督管理局がこのほど、登録を承認した。同社は北京証券取引所への上場も果たしている。バイオメディカル材料である活性型コラーゲンの研究、開発、生産に特化した広州創爾生物技術も北京証券取引所への上場を計画しており、申請書類の提出を済ませている。このように、遺伝子組み換えコラーゲン業界の競争は日増しに熾烈になっている。

 現在、市場に流通しているコラーゲンは、遺伝子組み換えコラーゲンと従来の動物由来のコラーゲンがメインだ。遺伝子組み換えコラーゲンの市場規模の拡大ペースは近年、動物由来のコラーゲンを上回っており、市場における遺伝子組み換えコラーゲンの浸透率も次第に高まっている。遺伝子組み換えコラーゲンとはどのようなものだろうか? また、従来の動物由来のコラーゲンと比べ、どんなメリットがあるのだろう? 中国の遺伝子組み換えコラーゲンは今後どのように発展するのだろう? その見通しは明るいものなのだろうか? これらについて、専門家に考えを聞いた。

動物由来のコラーゲンよりも高い優位性

 人体の細胞外マトリックスの主要成分がコラーゲンで、その85%を占めている。また、人体の組織や器官の主な構造タンパク質でもあり、人体のタンパク質の30~40%を占めている。それは、肌や血管、腱、筋膜などの部位に多く見られ、複数の重要な生物学的機能を発揮させている。

 遺伝子組み換えコラーゲンは、生物のコラーゲンのアミノ酸配列をベースに、合理的に設計したもので、酵素を切断し、つなぎ合わせた後、合成生物学技術を活用して、大腸菌やピキア酵母などの細胞に組み込み、細胞の迅速な生産能力を利用して製造、獲得したコラーゲンを指す。人間のコラーゲンをベースに設計し、つなぎ合わせて得た遺伝子組み換えコラーゲンは、ヒト由来リコンビナント・コラーゲンと呼ばれている。

 南京理工大学の楊樹林教授は「動物由来のコラーゲンと比べ、遺伝子組み換えコラーゲンは分子が単一的で、成分がはっきりしているため、高純度の製品を作ることができるほか、ウイルスの潜在的リスクがなく、細胞の毒性が低い上、免疫原性が極めて低く、アレルギーや炎症、発熱といった問題が起きる可能性がより少ない。また、水溶性やエマルションなどの特性があり、加工性が高く、コールドチェーンによる輸送を必要とせず、保存が容易で、生産・製造過程もグリーンで環境にやさしい」と説明した。

 遺伝子組み換えコラーゲンは、損傷した組織の修復をサポートし、傷の癒合を促し、関節炎などの病気の治療を補助できるため、医療分野で幅広く応用されている。このほか、肌の弾力性やハリを高め、しわや細い線を減らし、肌、骨格、関節などの健康を維持する機能も備えているため、美容や健康食品製造分野にも応用が可能だ。

 中国食品薬品検定研究院の徐麗明研究員は「遺伝子組み換えコラーゲンは、良好な生体適合性、生分解性、生物活性のほか、特有の止血、細胞再生機能などを備えているため、幅広いシーンに応用できる」と語った。

技術のブレイクスルー実現で世界トップレベルに

 中国は早くから遺伝子組み換えコラーゲンの研究を行ってきた。楊樹林教授のチームは2002年、合成生物学技術を活用して、遺伝子組み換えコラーゲンを製造する研究に着手した。南京理工大学と江蘇江山聚源生物技術(以下「江蘇聚源」)は2014年、国家ハイテク研究発展計画(以下「863計画」)の「遺伝子工学菌高密度発酵発現コラーゲン、効率的な分離プロセスの重要技術とその産業化」プロジェクトを共同で請け負った。南京工業大学生物・製薬工程学院の楊洋博士は「西北大学の范代娣教授が研究開発した、大腸菌をシャーシ細胞とした遺伝子組み換えコラーゲンも、863計画の支援を受け、遺伝子組み換えコラーゲンの実験室技術が迅速に実用化され、産業化発展や応用拡大が推進された。これにより、研究成果が次々と生まれ、活気を帯びる局面を迎え、次々と技術のブレイクスルーを遂げている」と語った。

 社会では、遺伝子組み換えコラーゲンの認知度が高まるのに伴い、新たな応用シーンが増え、新製品に対するニーズも高まっている。多くの企業は資源を投入して研究を進め、遺伝子組み換えコラーゲンという新たなバイオ材料を幅広い消費者に届け、人々の満足感を高めようとしている。

 楊樹林教授は「中国の遺伝子組み換えコラーゲン産業は世界トップレベルにあり、オリジナルの知的財産権保護を通じて、国内と世界で特許保護クラスターを形成し、米国や欧州、東南アジアなどで製品の品質マネジメントシステムに関する認証を取得している」と説明した。

 現時点で、中国の遺伝子組み換えコラーゲンを生産する主な企業は、錦波生物、江蘇聚源、西安巨子生物基因技術、江蘇創健医療科技の4社で、それらの製品が国内市場の98%を占めている。うち、江蘇聚源の子会社である浙江諸暨聚源生物技術の新工場は既に、全閉ループ自動生産を実現し、遺伝子組み換えコラーゲン高純度粉末の生産能力は年間20トンに達している。

 技術のブレイクスルーも、遺伝子組み換えコラーゲンの応用分野の継続的な拡大を推進しており、機能性スキンケア用品から、頭皮ケア用品、運動後の回復や美容に用いられる健康食品などへと拡大している。南京大学鼓楼医院の孫凌雲教授率いるチームと楊洋博士は、遺伝子組み換えコラーゲンを原料とし、3Dバイオプリンティング、エレクトロスピニングといった技術を活用して、組織工学スキャフォールドを構築し、遺伝子組み換えコラーゲンの再生医学分野における応用研究範囲を拡大している。

業界の発展が段階的に規範化

 遺伝子組み換えコラーゲン市場は現在、急速に拡大している。統計によると、2022年、中国の同市場の規模は前年比71.3%増の185億元(1元=約21円)に達し、コラーゲン市場全体の46.6%を占めた。2017~22年の複合年間成長率(CAGR)は65.3%だった。2027年には、同市場の規模は1083億元に達し、コラーゲン市場全体の62.3%を占めると予想されている。また、同市場の2022~27年のCAGRは40%を超える見込みだ。

 業界の発展を規範化するため、国家薬品監督管理局は、業界基準と政策を相次いで発表し、遺伝子組み換えコラーゲン生体材料の命名や、製品の監督・管理および品質管理などについて規範化するよう求めてきた。具体的には、2021年3月に「遺伝子組み換えコラーゲン生体材料命名指導原則」が、同年4月に「遺伝子組み換えコラーゲン系医療製品分類区分原則」がそれぞれ発表された。また、2022年8月には「遺伝子組み換えコラーゲン」業界標準が施行され、今年7月には「遺伝子組み換えヒト型コラーゲン」医療機器業界基準が施行された。さらに、遺伝子組み換えコラーゲン医療機器命名業務をより良く指導し、規範化するため、今年1月には、国家薬品監督管理局・医療機器基準管理センターが「遺伝子組み換えコラーゲン生体材料命名指導原則」の解説も発表した。

 楊洋博士によると、国家薬品監督管理局が筆頭となり「遺伝子組み換えコラーゲン国際標準」制定に関する業務計画が現在進められている。

 楊樹林教授は「中国の遺伝子組み換えコラーゲン業界の発展の見通しは明るい。川下の応用範囲も拡大し続け、応用シーンもますます増え、国際市場に対する影響力も大きくなる一方だ。ただ、ハイテクが『象牙の塔』から出て、人類に恩恵をもたらすためには、大規模生産と低コスト供給を実現しなければならず、川下がそれを入手でき、うまく活用できるようになることに注目しなければならない。さまざまな応用シーンとニーズに合わせ、異なる構造、設計を持つ遺伝子組み換えコラーゲン製品をより一層多く提供するためには、さらに多くの大学や研究機関、企業が参入する必要がある。多種多様な応用が産業のエコシステムをさらに充実させることになる」と述べた。

 楊樹林教授はさらに「現在の市場の盛り上がりを見ると、冷静さを保ちながら基礎を固め、発展を規範化する必要がある。そして、基礎研究、特に科学実験とデータをベースとした研究を強化する必要がある。業界の発展にとって有害で無益な『話題集め』に陥ることを避けなければならない」と強調した。


※本稿は、科技日報「我国重组胶原蛋白赛道持续升温」(2023年9月5日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。