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【24-06】地域に合わせて発展する中国の水素エネルギー産業

陸成寛(科技日報記者) 2024年01月17日

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観光バスに水素を注入する作業員。(画像提供:視覚中国)

 中国水素エネルギー連盟はこのほど、4年連続となる「中国水素エネルギーおよび燃料電池産業発展報告2022」を発表した。水素エネルギーは最もクリーンで効率の高いグリーンエネルギーとして世界で認められており、「二酸化炭素(CO2)排出量ピークアウト・カーボンニュートラル」の目標達成時期が近づくにつれて、水素エネルギー産業の発展が社会の各界から幅広い注目を集めている。

 では、中国内外の水素エネルギー産業は今、どんな発展傾向を見せているのだろうか? 中国の水素エネルギー産業の発展は今、どんな状況や課題に直面しているのだろうか? 中国の水素エネルギー産業は今後、どの方向に発展していくのだろうか? これらについて専門家の意見を聞いた。

水素エネルギー産業の発展政策と標準体系は持続的に強化

 同連盟の副秘書長を務める同済大学の馬天才教授は「報告は2022年における世界の水素エネルギー産業の発展動向とその傾向を体系的にまとめている。詳細かつ正確な内容とデータを通じて、中国の水素エネルギー産業が発展する上で直面している新たな情勢や課題、任務、要求を解析し、中国の水素エネルギー産業の主な発展の方向性や任務を分析しており、中国の水素エネルギーおよび燃料電池産業に、業界的な参考と理論的保障を提供することを目的としている」と説明した。

 そして、「今回の報告は、中国内外の水素エネルギー産業の発展動向とトレンドを体系的にまとめている。世界を見ると、各国が国家レベルで戦略的計画や政策を相次いで発表しており、水素エネルギー産業に対する支援と推進に力を入れ続けている。2022年末時点で、米国やドイツ、日本を含む41カ国・地域が国家レベルの水素エネルギー発展戦略を制定・発表している。全体的に見ると、現在、世界の水素の需要と供給の規模は安定して拡大している。そして、低炭素・クリーン水素の割合が高まり続けている。交通や発電分野を見ると、水素ベースエネルギーの応用が持続的に推進されている。重点地域では、水素の価格とコストの差が広がっており、欧州の水素価格は前年比で大幅に上昇している」と紹介した。

 中国では、水素エネルギー産業の発展に関する政策や標準体系が持続的に強化されており、水素エネルギーの管理規範も次々と打ち出されている。2022年末時点で、中国は水素エネルギー関連の国家標準102項目、業界標準30項目、団体標準136項目、地方標準19項目をそれぞれ制定しており、水素エネルギーの標準体系が次第に整備されている。また、国内の再生可能水素の生産能力は倍増しており、東北、華北、西北地域では、生産が集中的に始まっている。2022年における中国の再生可能水素の生産能力は約5万6000トンだった。再生可能水素の製造プロジェクトの推進が加速しており、西北、華北地域では、再生可能水素の大型生産拠点モデルプロジェクトの建設が計画されている。

 馬氏は「より重要なのは、中国の主要地域で水素価格が安定しながら下落し、工業や発電分野で水素エネルギーの応用が加速していることだ。大規模な産業応用がサプライチェーンの構築を推進しており、今後、中国の水素エネルギー産業発展の重要な足掛かりとなるだろう。2022年、燃料電池自動車(FCV)の推進が加速し、『FCVモデル都市群』などの重要モデルプロジェクトにより、中国のFCVの新規販売台数は3367台、保有台数は前年比約36%増の1万2682台に達した。また、完成した水素ステーションは累計で前年比40%以上増の358カ所になった」と述べた。

多元化・商業化応用という新たな局面を形成

 中国国家発展改革委員会と国家エネルギー局が2022年3月に共同で発表した「水素エネルギー産業発展中・長期計画(2021~35年)」は、水素エネルギーを将来の国家エネルギー体系の重要な一部として組み入れている。

 同連盟専門家委員会の委員を務める有研科技集団首席科学者の蒋利軍氏は「同計画の牽引の下、中国の水素エネルギー産業は発展の新たな段階に突入した。グリーン水素を源とし、脱炭素を主要目標として、水素エネルギーが工業や交通、発電といった業界で多元化し、商業化応用されるという新たな局面が形成されつつある」との見解を述べた。

 蒋氏はまた「現時点で、中国の水素エネルギー産業の展開には2つの大きな特徴がある。まず、水素エネルギー産業の内包が一層豊富になり、水素動力やグリーン水素産業、水素貯蔵の3つの方向性に発展している。水素エネルギーを活用した交通手段は、道路を走る車両から、飛行機や船舶、鉄道車両、その他の工事車両へと拡大している。グリーン水素の産業応用は一般社会でさらに注目を集めており、グリーン水素化学工業計画プロジェクトが次々と実施され、複数のエネルギー関連中央企業(中央政府直属の国有企業)が1万トン級のグリーン水素化学工業プロジェクト建設の中心となり、水素冶金モデル応用が推進され、長期間の水素貯蔵の事業展開も進んでいる」と説明した。

 水素エネルギー産業は地域の実情に合わせた地域化発展という傾向を見せている。蒋氏は「再生可能エネルギーが豊富な西部地域は、グリーン水素を源として、グリーン水素化学工業、水素冶金といった産業を重点的に発展させている。応用シーンが豊富な東部地域は、水素エネルギーの交通手段への応用を重点的に発展させている。沿岸や辺境の地域は、分散型電源として水素カップリングクリーンエネルギー供給システムの構築を模索している」と述べた。

 この点について馬氏は「中国の各地域では資源に比較的大きな差があるため、水素エネルギー産業の発展速度も地域によって異なっている。中国の水素エネルギー産業が最適化した展開を行うには『地域事情に応じた措置』と『優位性の相互補完』がカギとなり、各地は差別化した発展を目指す必要がある」と指摘。さらに「西部地域は再生可能資源が豊富で、産業発展のコストが安く、モデル応用のポテンシャルが大きいという優位性を生かし、大規模グリーン水素供給拠点と大規模応用シーンを構築して、産業発展を推進することができる。東部地域は技術革新能力が高く、設備製造の基礎が強固であるという優位性を生かし、水素エネルギーのキーテクノロジーと設備・製品の継続的な世代交代を推進し、先進技術の実用化を加速させることができる。沿海地域は、洋上風力発電で生み出された電力で水素を製造するポテンシャルを積極的に掘り起こし、『海上エネルギーの島』を構築し、洋上風力資源の大規模利用を実現することができる」との見解を述べた。

重点技術の研究開発強化が極めて重要

 馬氏は「重点技術の研究開発強化は、水素エネルギー産業の発展にとって極めて重要だ。水電解による大規模水素製造などのキーテクノロジー、中核部品分野の研究開発とブレイクスルーに焦点を当て、関連技術のモデルプロジェクトにおける先行的な試験導入を推進すべきだ」と強調した。

 蒋氏も「技術イノベーションの面では、体系的な製品開発を目標に、材料、部品、設備における優位性ある資源を集約し、体系的な研究開発を展開し、『分散』『無秩序』『小規模』を避け、縦割り横割りを防ぐ。原理のイノベーションの面では、大胆なイノベーションを奨励し、一時的な失敗に対する寛容な姿勢を示し、独自性を持つ技術に、大きな成長の余地を提供する必要がある」と訴えた。

 水素エネルギー産業の発展について馬氏は「水素エネルギーの標準と公共サービス体系を整備する。水素液化や水素と電気のカップリングといった重点分野について、水素エネルギーの標準制定・改定を行うとともに、中国の規格制定作業を重視する。また、『水素エネルギーリーディング行動』を活用し、国や地域の検査認証プラットフォームを構築し、技術設備の世代交代を加速させる必要がある」と述べた。

 蒋氏も「標準体系構築の面では、社会団体が役割を十分に果たすようにし、規範化されたグリーンルートと多方面が連携する活動メカニズムを構築し、本質的に安全な新技術と使用コストが低減された新たなスタイルの採用を促進し、技術や標準の世代交代を急ぐ。中国水素エネルギー連盟は今後、この面で重要な役割を果たす」と、標準を制定して水素エネルギー産業発展を促進することの重要性を強調した。

 馬氏は「重要モデルプロジェクトの推進も、水素エネルギー産業の発展をサポートする重要な足掛かりとなる」とし、「『製造・保存・運用』の全チェーンが一体化した重要モデルプロジェクトとエリア水素エネルギーインフラ整備を計画すべきだ。川上と川下の需要と供給がマッチせず、利用が不明確といった問題を解決し、サプライチェーンの大規模化を通じて、発展コストの低減を提案する。また、水素エネルギー産業の健全な発展を実現するためには、中国内外で交流、協力を幅広く展開し、海外市場の事業展開を積極的に行い、世界のリーディングカンパニーと共に、水素ベースのエネルギー貿易と国際標準制定、キーテクノロジーの研究開発、共同モデルプロジェクト建設といった面で、協力の機会を掘り起こし、体系的な協力の枠組みを制定すべきだ」と指摘した。


※本稿は、科技日報「中国氢能产业呈现因地制宜发展态势」(2023年10月30日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。