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【24-11】メタバース共同体が産業のボトルネックを打破し、人材の供給を推進

王延斌(科技日報記者) 2024年02月05日

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濰坊職業学院情報工程学院のメタバースバーチャル展示ホールで調整を行う教員。(撮影:王延斌)

 中国山東省濰坊市にある濰坊職業学院でこのほど、全国メタバース産学融合共同体が設立された。同コミュニティは中電雲計算技術有限公司、ハルビン工業大学威海キャンパス、濰坊職業学院が中心となり、複数の企業、業界団体、大学が参加。産学融合の新たなモデルを構築し、科学・教育融合の新しい道を模索する。

メタバース発展のカギは人材育成にあり

 メタバースは5Gやクラウドコンピューティング、人工知能(AI)、仮想現実(VR)、ブロックチェーン、デジタル通貨、モノのインターネット(IoT)、バーチャルヒューマンなどの新技術によって構築された全く新しい世界だ。現実世界を越える一方で、現実世界も反映している。

 工業・情報化部(省)や科学技術部など5部門が2023年9月8日に共同で発表した「メタバース産業イノベーション発展3カ年行動計画(2023-25年)」は、25年までに産業メタバースの初期段階目標を達成し、複数の代表的な応用を開発し、ベンチマークとなる生産ライン、工場、パークを創出すると打ち出している。

 注目すべきは、この行動計画が大学のメタバース関連学科における専門人材育成強化への支援を明記したことだ。産学研協力を深化させ、企業と大学・研究機関による人材の共同育成を奨励し、メタバース技術の技能人材実践トレーニング拠点を構築し、ハイレベル人材の供給を強化するとしている。

 世界を見渡すと、メタバース分野では激しい競争が繰り広げられており、ハイレベル人材の供給は早急に解決しなければならない重要課題となっている。

 濰坊を訪れた工業・情報化部人材交流センターの色雲峰副主任は、「中国は産業システムが整備され、応用シーンが多く、市場が大きく、メタバース産業発展の着実な基盤を備えているが、メタバースの重要技術や標準・制度、人材育成などの面では弱点を抱えている。今回の全国メタバース産学融合共同体の設立は、絶好のタイミングだ」と述べた。

 同共同体の設立大会に出席した教育部職業技術教育センター教学教材処の劉義国処長は「メタバースを凧にたとえると、その糸になるのは人材育成だ。メタバース技術を駆使して技能人材の成長に寄与することと、育成された人材を活用してメタバース業界の発展を推進することが必要だ」と語った。

「全国」を掲げるメタバース共同体がなぜ山東省に?

 山東省教育庁職業教育処の郭慶志副処長によると、同省はメタバース産業を重視しており、ここ数年間は同分野で積極的に事業展開を行い、中国国内トップクラスとなる1000億元(1元=約21円)規模のVR産業先進地を構築する目標を掲げている。今回の大会の開催地である濰坊市は、メタバース産業の先進的優位性があり、市内の大手企業である歌爾集団はVR技術と拡張現実(AR)技術でトップレベルにあり、同市も『メタバース技術イノベーション・産業都市の建設』のスローガンを唱えているという。

大学・行政・業界・企業の協同が必要

 濰坊職業学院党委員会の劉建成書記は、「現在、濰坊はメタバース技術イノベーション・産業都市の建設に向けて努力している。市内のデジタル経済とメタバース産業の発展ニーズに対応するため、私たちは濰坊市メタバース産学融合実践トレーニング拠点を構築し、国家級の可視化インタラクションデザインVR協同イノベーションセンター、省級の農産物ブロックチェーン新技術研究開発センターを建設した」と説明した。

 メタバースの競争では、チャンスと課題が共に存在する。これは大会に参加した専門家の共通認識だ。

 メタバース共同体を利用して発展のボトルネックを打破するにはどうしたらよいか。色氏はこれについて3点を提案した。1つ目は産業のニーズに焦点を当て、人材の供給を推進し、産業発展のニーズに対応すること。2つ目は産学資源を集積し、人材育成を促進し、産業発展の実際状況をしっかりフォローすること。3つ目は実行主体が役割を発揮し、産学融合の新モデルを模索することだ。

 劉義国氏は「分散と融合」「仮想と現実」「教育と生産能力」の3つのキーワードを打ち出した。彼は「メタバース共同体の下、政府、業界団体、企業、さまざまな地域の大学が参加し、皆が共同でプロジェクトを進め、一つ一つの実績を積み上げ、産業の発展を推進する必要がある。メタバースは虚構に見えるが、実体的なサービスが必要であり、仮想と現実を切り替え、人材育成に寄与し、産業の発展を推進することが大切だ」と訴えた。

 郭氏は山東省の教育部門を代表して資源とメカニズムの問題を提起した。「メタバース共同体は全国的な産学融合共同体であり、全国的な視野と視点が必要だ。優れた教育と産業のリソースの集積効果を発揮し、教育チェーン、人材・産業チェーン、イノベーションチェーンのマッチングを推進するとともに、全要素が融合したインタラクションが必要となる。メタバース共同体は実体化、精密化、具体化した運営を行うべきだ」と語った。

 メタバース共同体をどのように構築するか。濰坊職業学院はメタバース共同体の筆頭機関として、計画を進めている。劉建成氏は「共同体の産業・教育資源を利用し、『中等職業学校-高等職業学校-4年制大学』の段階式育成を模索し、メタバース産業の発展に必要な人材のレベルを高める必要がある。大学・企業人材の双方向交流メカニズムを構築し、メタバース産業の人材バンクを構築し、開放型地域産業・教育融合実践センターとメタバース技術イノベーションセンターを建設し、国際交流・協力メカニズムを革新することが必要だ」と述べた。


※本稿は、科技日報「元宇宙共同体:破解产业瓶颈 推动人才供给」(2023年12月8日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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