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【24-16】ゲノム編集技術でリコピンの生産量を増やす

呉純新(科技日報記者)李雄風、李 禾(科技日報通信員) 2024年02月22日

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植物に含まれるリコピンは赤色の天然色素で、成熟したトマトの果実などに存在している。(画像提供:視覚中国)

 湖北工業大学生物工程・食品学院のHBUT-Chinaチームが、微生物細胞工場を活用し、合成生物学や代謝工学技術と組み合わせて、CRISPR-MAD7(Cas12a)ゲノム編集システムの開発に成功した。これを使ってコリネバクテリウム・グルタミカムを改造し、藁で生成したバイオベースを有効活用して高付加価値産物であるリコピンに変換することで、環境負荷が大きい「エコロジカル・リュックサック」を「緑の富」に変え、二酸化炭素の排出削減と持続可能な発展を実現した。この革新的成果を生み出した同チームは、合成生物学の学生研究コンテスト「2023 The International Genetically Engineered Machine competition」(iGEM)で金賞を受賞した。

「植物界の黄金」とも称されるリコピンは、科学的に検証された抗酸化作用が最も強い物質の一つだ。リコピンには老化や疾患に関係する体内の活性酸素を取り除く効果があり、血管を保護し、心血管疾患を予防する働きがある。リコピンはこれまで、植物からの抽出や化学合成によって得ていたが、これらの方法にはデメリットもあり、最適な選択肢とは言えなかった。

 CRISPR-MAD7(Cas12a)ゲノム編集システムは、DNA二本鎖を切断する働きを持つCasタンパク質MAD7と、ガイド鎖として機能するcrRNAという2つの重要部分で構成される。簡単に言えば、同システムは、オフィスソフトウェアの「検索・置換」ツールに似ている。研究者はまず、特異性の高いcrRNA分子をデザインすることで、ゲノムの特定の位置を識別し、結合させる。その後、Casタンパク質MAD7がその特定の位置に誘導され、そこにあるDNAを切断する。同チームは、細胞が自己修復メカニズムを利用して、切断されたDNAを修復し、ゲノム編集を行うことを発見した。

 同プロジェクトの学生責任者である江益明さんは「このシステムを利用すれば、菌株の遺伝ルートを再設計し、菌株の成長や生産特性を変えることができる。それにより微生物細胞がターゲット物質をより高い効率で生産できるようになる」と説明した。

 このシステムを菌株の改造でさらに効果的に応用するためには、システムが必要とする発現エレメントを最適化することが、重要なステップとなる。半年間の努力を経て、同チームは理想的な実験結果を得ることができた。チームメンバーの王念念さんは「小さな変数が変わっただけでも、実験を1からやり直さなければならない。私たちはそれでも何度も比較を繰り返し、最終的に単一遺伝子や大フラグメントノックアウトにおける効率の良い編集を実現した。CRISPR-MAD7(Cas12a)ゲノム編集システムを活用して、われわれはコリネバクテリウム・グルタミカムに一連の改造を加え、リコピンを効率よく生産する菌株を構築した。従来の菌株と比べると、遺伝子を組み替えた菌株は生産量が135倍になった」と語った。

 同チームは実験を通じて、藁は酸分解と酵素分解を経て、グルコースを効果的に生成することを発見した。藁が生成したグルコースは、コリネバクテリウム・グルタミカムを培養する際の炭素源となる。チームの指導教員を務める湖北工業大学の鄭学雲講師は「実験結果の比較によると、改造された菌株は、普通のグルコースよりも、藁が生成したグルコースで培養したほうが多くのリコピンを生産できる」と述べた。


※本稿は、科技日報「开源助推AI技术落地」(2024年1月2日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

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湖北工業大学

 

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