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【24-44】大規模モデル応用の「ラストワンマイル」を越えるには?

劉園園(科技日報記者) 2024年05月21日

2023中国国際スマート産業博覧会の会場で大規模言語モデルを体験する子供。(撮影:王全超)

 2023年は生成AI(人工知能)大規模言語モデルの発展元年で、業界の応用が急増した。24年の中国政府活動報告は「AI+」行動を実施することを打ち出しており、大規模AIモデルの技術が現在、注目を浴びている。これをさらに活用し、各業界を活性化させるにはどのようにするべきだろうか。

 北京瀾舟科技有限公司(以下「瀾舟科技」)はこのほど、孟子大規模言語モデルを含む「1横N縦」大規模言語モデル技術・製品ラインナップを発表した。業界の専門家は発表会で「大規模AIモデルの応用を推進するには、ラストワンマイルの難題の解決が必要だ」と指摘している。

企業向けの大規模言語モデル

 北京市海淀区の徐振濤副区長は「海淀区には現在90以上の大規模言語モデル企業・機関があり、さらに増え続けている。登録された大規模言語モデルは36で、北京市全体の72%以上を占めている。すでに中関村、知春路、学院路などで、全国に先駆けて大規模AIモデル産業集積エリアを形成している」と説明した。

 瀾舟科技は海淀区の代表的な大規模AIモデル企業だ。

 同社の周明創業者兼最高経営責任者(CEO)は「大規模AIモデルの中国における最大の応用見通しは、企業へのサービス提供だろう。デジタル化の波において、大規模言語モデルをはじめとするAIが人類の未来を再構築しつつある。大規模AIモデル技術を利用し企業の成長を後押しすることが、業界の注目点になっている」と述べた。

 北京零一万物科技の共同創業者である祁瑞峰氏は23年5月に海外から帰国し、起業した。祁氏は「大規模言語モデル業界は常に目まぐるしく変化している。一般消費者向けの大規模AIモデルは現在コストが高いため、企業向けの大規模AIモデルからスタートする可能性がある」と語った。

 祁氏によると、中国でAI事業を手掛ける企業の大規模言語モデルに対する態度が、静観から全体計画の段階へと変化している。一部大手企業はさらに、100以上の大規模言語モデル技術の応用を計画している。

 企業向け大規模AIモデルの急速な台頭のほかに、大規模マルチモーダルモデル(LMM)の発展も注目されている。

 創新工場(北京)企業管理の董事長で、北京零一万物科技CEOの李開復氏は「クロスモーダル生成技術は、認知と意思決定のスマートな転換点だ。大規模AIモデルに現実の世界をより正確にシミュレーションさせたければ、大規模言語モデルの各種モーダルの能力を一体化し、単一モーダルを『テキスト-画像』や『テキスト-動画』などのクロスモーダル、さらにはフルモーダルに拡大する必要がある」と説明した。

普及には数多くの難題も

 大規模AIモデル産業は発展途上だ。周氏のチームが100社以上の企業をリサーチしたところ、大規模AIモデルの応用には複数の「ラストワンマイル」の難題があることが分かった。

 周氏は「大規模AIモデルのトレーニングと配備のコストは1000万元(1元=約22円)に上ることが多く、企業ユーザーにとって受け入れがたいものだ。大規模AIモデルは規模が大きければ大きいほど良いわけではない。規模が大きくなるほどコストが高くなるからだ。多くの企業の大規模AIモデルに対する需要は、主に意図の理解や対話、テキスト生成などだ。100億~1000億レベルのパラメータのトレーニングを行った大規模AIモデルは、企業ユーザーの需要を満たすと同時にコストの問題を解決する」と強調した。

 周氏によると、大規模AIモデルの応用で直面するデータセキュリティや大規模言語モデルのハルシネーションといった難題については、一つずつ解決する必要がある。

 北京智象未来科技の梅濤創業者兼CEOは、大規模AIモデルの商用化にはコスト、効率、体験という3つの面の向上が必要だと分析。「大規模AIモデルとユーザーの間で、応用レイヤーやツールレイヤーを構築してから引き渡すべきだ。応用のラストワンマイルは短く見えるが、これを飛び越えるためには大きな努力が必要だ」と指摘した。

 周氏は、大規模AIモデルの応用促進について「国は大規模AIモデル産業へのトップレベルデザインを強化し、中国の大規模AIモデル産業の発展の道筋と注力ポイントを明確にするべきだ。その一方で大規模AIモデル企業はシーン応用面における優位性を十分に発揮し、応用によりイノベーションを牽引し、問題を発見して研究開発に取り組み、大規模AIモデル技術のイテレーションを絶えず推し進め、産業の進歩を推進すべきだ」と訴えた。


※本稿は、科技日報「如何跨越大模型落地应用"最后一公里"」(2024年4月8日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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