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【24-84】「汎用AI実現のカギは『心』の確立」朱松純氏

何 亮(科技日報記者) 胡軼慧(科技日報実習生) 2024年09月02日

 北京通用人工智能研究院の朱松純院長は、中国湖北省鄂州市で開催された蓮花山研究院20周年学術思想シンポジウムで「汎用人工知能(AI)を実現させるためには、AIに『心』を持たせる必要がある」と訴えた。

 朱氏はシンポジウムで「多くの人がスケーリング則(Scaling Law)を規範とし、データが多く、計算能力が強く、モデルのパラメータが大きいほど良いと考えている。しかし私は、汎用AIを実現するには、データだけでは不十分であり、別の道を探る必要があると考えている。それはAIに『心』を持たせることだ」と指摘。汎用AIがすでに世界のテクノロジー競争の最先端分野となっており、競争で優位に立つためには、ビッグデータの出所を明確にし、AIの発展方向を正しく定めることが重要との認識を示した。

 そして、「ビジュアルデータを処理できなければ、AIシステムはただの空っぽの枠組みに過ぎない。データラベリングは、コンピューターに特殊なメガネをかけさせるようなもので、これにより、画像やテキスト、その他データの詳細について識別し、理解する能力を備えるようになる」と説明した。

 1997年にスコット・コーニッシュ(Scott Konish)氏が世界で初めて分類器の訓練に使われるイメージエッジのデータセットのラベリングに成功。朱氏も画像理解の整理の可能性に目を付けて、2004年から高粒度データの大規模なラベリングを始めた。

 朱氏は取材に対し、「2008年に私とチームのメンバーは、データラベリングで2つのボトルネックに直面した。1つは価値、因果、意図といった要素が感知データの表面下に潜んでいると、センサーが直接察知できず、ラベリングが難しくなることだ。もう1つは、データラベリングのプロセスが特定のタスクと高度に関連しており、タスクによってラベリングの方法が異なり、データやモデルの規模を拡大させ続けても、汎化能力を高めることができないことだ」と述べた。このことにより朱氏は、汎用AIについてさらに深く考えるようになったという。

 朱氏の見解では、汎用AIはコンピュータビジョンや自然言語処理などの中心領域で構成される複雑な巨大システムであり、その研究開発の道は「月面着陸」に例えられるという。一方、ビッグデータのロードマップは「エベレスト登頂」のようなもので、両者の目標は大きくかけ離れている。

 では、どのようにして汎用AIの開発を進めればいいのだろうか? 朱氏はAI研究について、『理』から『心』への転換が必要だと考えている。『理』とは数理モデルであり、『心』とは認知アーキテクチャ、価値の整合性のことだ。

 朱氏は「約30年の発展を経て、AIの複数の中心分野は、内的融合と外的交差という発展傾向を示しており、汎用AIに向かって進んでいる」と説明。こうした融合の過程において、単一のタスクを解決する専門AIから、複数のタスクを解決し、自律的にタスクを定義する汎用AIへの転換をもたらす統一的なAIアーキテクチャが形成されるとの考えを示した。

 さらに「コンピューターに『心』を持たせ、『理』から『心』への移行を実現し、ビッグデータからビッグタスク、感知から認知への飛躍を実現することが、今後10〜20年間の学術における最前線となり、スマート学科が担うべき核心的使命となるだろう」と語った。


※本稿は、科技日報「通用人工智能关键在立"心"」(2024年8月5日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

 

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