【25-001】中国のスパコン「天河」、グラフ探索の2部門で世界1位に
張 強(科技日報記者) 呉文亮(科技日報通信員) 2025年01月06日
スパコンのグラフ探索性能を評価するランキング「Graph500」がこのほど発表され、中国人民解放軍国防科技大学コンピューター学院が開発した新世代スーパーコンピューター「天河」が、「ビッグデータ部門(GreenGraph500 Big Data)」と「スモールデータ部門(GreenGraph500 Small Data)」の2つのランキングで1位になった。「天河」が同分野でトップに立つのは5回目となる。
グラフ探索とは何か。「天河」のグラフ探索性能が世界をリードする裏ではどのようなイノベーションが創出されているのだろうか。グラフ探索にはどんな応用シーンがあるのか。こうした問題について、「天河」のグラフ探索最適化システムのメイン開発者で、同学院副研究員の甘新標氏に話を聞いた。
「グラフ」とは、物事の関係を示すのに用いられるデータ構造を指す。物事の関連性を分析する重要なツールとしてのグラフ探索は、データをグラフの方法でモデリングすることで、フラット化した視点では得られなかった結果を得ることができる。グラフ探索は、社会ガバナンスや国防・セキュリティといった多くの分野で応用されており、学術界や産業界において注目度の高い分野となっている。
甘氏は「1つの『グラフ』は冗長な文章に勝る。グラフ探索技術はビッグサイエンスやビッグプロジェクト、ビッグデータなどの先端問題を解決できるよう科学者をサポートするほか、産業のイノベーション能力を高める助けにもなる」と説明した。
「天河」の開発チームは、グラフ探索のコアテクノロジーを攻略するために、ソフトウェアとハードウェアの協調最適化やグラフ探索モデルなどについて踏み込んだ研究を行い、中国国産プロセッサーを対象としたディープマップ最適化、ソフトウェアとハードウェアの協調グラフレイアウト、トポロジー感知グラフ通信、スーパーグラフ圧縮関連の難題を解決した。「天河」のグラフ探索は現在、中国の国家スーパーコンピューター天津センターと長沙センターの国産メインフレームシステムに配置されている。
甘氏は「『天河』は高精度の計算をサポートできるだけでなく、データ集約型アプリケーションの面でも一定の強みがあり、中国の人工知能(AI)とビッグデータ処理能力の発展に対し、重要なサポート的、推進的役割を果たしている」と語った。
高い性能を誇る「天河」はさまざまな分野で活用されている。
甘氏は「人々の衣食住・移動では、既にグラフ探索が活用されている。例えば、健康管理アプリを使う時、システムはユーザーの運動データや食習慣、睡眠の質をグラフ探索・分析することで、健康に関する的確なアドバイスを送り、ユーザーがより良い形で健康管理ができるようサポートすることができる。また、オンラインプラットフォームで書籍を購入する際、システムは購入履歴や閲覧履歴、好み、趣味をグラフ探索・分析することで、ユーザーが興味を示しそうな書籍や商品をおすすめすることができる。そして、プラットフォームで決済を行う際には、システムは決済履歴と行動的特徴をグラフ探索・分析することで、取引リスクを評価することができる。ナビゲーションを利用する際、システムは交通量と渋滞情報に基づいて、ユーザーに最速のルートを推薦することができる」と紹介した。
さらに甘氏は「『天河』のグラフ探索は現在、ドローンの飛行ルート計画やマイクロスケールウィンド・ファームシミュレーション、ソーシャル・マルチメディア分析などの分野で幅広く応用されており、今後はテクノロジーイノベーションや社会の発展にさらに多くの技術的サービスを提供するようになるだろう」と自らの見解を語った。
※本稿は、科技日報「"天河"超算何以"顶天立地"」(2024年12月2日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。