【23-02】【調査報告書】『中国の科学技術仲介機構の構造および機能に関する分析』
2023年08月21日 JSTアジア・太平洋総合研究センター
科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『中国の科学技術仲介機構の構造および機能に関する分析』を公開しました。以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html#fy22_rr06
エグゼクティブ・サマリー
中国では科学技術の評価、科学技術成果の産業への転化(日本で言われている「研究成果の社会展開」と同義)、イノベーションのためのリソース配分、イノベーションにかかる政策の決定、先端科技スタートアップ企業の経営コンサルティング、金融支援など多岐にわたる支援サービスを行う組織を「科学技術仲介機構」と呼んでいる。こうした機能の一部の役割を果たす組織は1950年代にもあったが、科学技術政策を厳格に実施する政府機関であり、厳密には「科学技術仲介機構」ではない。日本では、科学技術振興機構(JST)や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、民間機関がこのような業務を行っている。
科学技術部が「科学技術仲介機構の積極的な発展に関する意見」を発布した2002年が中国の「科学技術仲介機構」の政策的整備の元年とみることができる。同意見の公表以降、中国における科学技術仲介機構は中国の科学技術イノベーション・システムの重要な構成要素の一部と位置付けられている。
改革開放以後、中央・地方政府の強力な支援により、①インキュベータや②生産力促進センター、③科学技術成果転化促進センター、④技術財産権取引機構、⑤科学技術金融サービス機構、⑥特許代行機構、⑦科学技術評価機構、⑧科学技術情報サービス機構(順番は後述する科学技術仲介機構の重要度・貢献度ランクに従った)等のさまざまな役割や呼称をもつ科学技術仲介機構が発展を遂げてきた。しかし、科学技術仲介機構の定義や分類については、中国国内においてもコンセンサスが得られていないのが実情である。科学技術仲介機構と位置づけられる組織の中で、最も重要度・貢献度が高いと認識されているのはインキュベータとしての役割を提供している機構である。これに科学技術成果の産業転換を促進する生産力促進センターといわれる機構が続く。
本調査は、中国の研究開発プロセスの全般において、科学技術部が「科学技術仲介機構の積極的な発展に関する意見」の中で述べている「科学技術仲介機構」がどのような機能を果たし、科学技術イノベーションならびに産業技術の向上に貢献しているかを明らかにするとともに、今後の日本の研究機関や研究者と中国との間の協力における基盤情報とすることを目的としている。以下の章で構成されている。
1 科学技術仲介機構の概要
中国では1980年代半ば以降、市場ニーズを踏まえた科学技術仲介機構と呼ばれる組織が急速に発展していくことになったが、当時は官営あるいは準官営であり、政府部門の制約を受けていた。このため、効果的な競争や規律の仕組みがなく、経営レベルや効率の低下をもたらし、本来の役割を果たすことは難しかった。
その後、改革・開放によってもたらされた起業に対する熱が科学技術仲介機構の発展を促し、政府主導による直接投資に加えて、各種機構が独自の情報や技術リソースを統合することを特徴とした発展のスタイルが登場した。
2010年、国務院は戦略的新興産業の育成と発展を打ち出すとともに、科学技術イノベーションと科学技術成果の転化を促進するため、科学技術仲介サービス業の発展を加速する方針を明らかにした。また国務院は2021年、政府と市場の正しい関係を堅持するとした、今後の科学技術仲介サービス業の発展の方向性を示した。
ここでは、①科学技術サービス業および科学技術仲介機構の定義・分類、②中国の研究開発システムにおける科学技術仲介機構の変遷と位置付け、③科学技術仲介機構の発展過程、④科学技術仲介機構の重要度・貢献度と本調査研究の対象、⑤科学技術仲介機構における中国技術市場協会の役割と政府との関係――について解説した。
2 中国の研究開発システムにおける科学技術仲介機構の役割と貢献
中国国内では、科学技術仲介機構の分類・定義について完全にコンセンサスが得られているわけではないが、前述の8つのタイプの機構に分けて、①科学技術仲介機構の役割と支援機能および事業内容、②スタートアップ企業育成と知的財産権の保護と活用に着目した科学技術仲介機構の役割――について解説した。
3 科学技術仲介機構の規模、地域分布、収益
前述の8つのタイプの機構について、①発展の規模、②地域分布、③収益――について解説した。中国では、科学技術仲介機構の定義・分類についてコンセンサスが得られていないため、インキュベータと生産力促進センターを除いて、まとまった統計データがないのが現状である。
4 代表的な科学技術仲介機構の運営方法と特徴、成功事例、課題
中国を代表する科学技術仲介機構にアンケートを行い、①組織構成と概要、②国内協力、③業績と得意分野、④成功事例、⑤国際協力、⑥課題と発展目標――についてまとめた。以下の16の機関にアンケートに協力いただいた。
(1)インキュベータ
①北京北航天匯科技孵化器有限公司
②天津智匯谷科技サービス有限公司
(2)生産力促進センター
①山東生産力促進センター
②江蘇省生産力促進センター
(3)科学技術成果転化促進センター
①北京高科啓創科学技術成果転化サービスプラットフォーム
②西安交通大学国家技術移転センター
(4)技術財産権取引機構
①中国技術交易所有限公司
②深圳連合産権交易所股份有限公司
(5)科学技術金融サービス機構
①中国科技金融促進会
②内モンゴル科技融資総合サービスプラットフォーム
(6)特許代行機構
①中国国際貿易促進委員会特許商標事務所
②済南聖達知識産権代理有限公司
(7)科学技術評価機構
①青島科学技術成果標準化評価サービスプラットフォーム
②河南省中創科技評価研究院
(8)科学技術情報サービス機構
①四川省科学技術情報研究所
②北京市科学技術情報研究所
5 科学技術仲介機構の課題と今後の展望
国際的な産業チェーンの不安定さや地政学的な影響など、様々なリスクや課題に直面する中で、科学技術仲介機構の価値と意義が明らかになっている。中国政府は、イノベーションの主体を企業に移す方針を明らかにしているが、その中で科学技術仲介機構が重要な役割を果たすことが期待されている。
一方で、科学技術仲介に関する政策が不備である、専門的な(目利き)人材が不足しているといった課題が指摘されている。
ここでは、①科学技術仲介機構による中国の科学技術進歩とイノベーションへの貢献に対して期待される役割、②科学技術仲介機構の課題と今後の展望――について解説した。
6 日本の識者による調査結果に対する所見
本調査結果について、日本の4名の専門家の方にレビューをいただいた。
【参考資料】科学技術仲介機構の政策的位置づけと支援
中国では、2003年が「科学技術仲介機構」の設立年とされているが、2015年以降に限っても、科学技術仲介機構の発展を支援する14の政策が中央レベルで発布・実施されている。これ以外にも、地方レベルで各地の状況を踏まえた政策が打ち出されている。一方で、科学技術仲介機構に関する政策の不備を指摘する声が関係者からあがっている。2023年3月に公表された国務院の機構改革において、科学技術仲介機構の所管が、科学技術部から工業・情報化部に移されたことも、そうした状況を踏まえたものとの見方が出ている。
ここでは、科学技術仲介機構に関する中央政府レベルの政策に加え、北京市、上海市、深圳市、天津市、山東省、広東省の関連政策について紹介した。