トップ >コラム&リポート>  File No.20-01

【20-01】2019年中央経済工作会議の留意点

2020年1月7日

田中修

田中 修(たなか おさむ)氏 :奈良県立大学特任教授
ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員

略歴

 1958年東京に生まれる。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信 州大学経済学部教授、内閣府参事官、財務総合政策研究所副所長、税務大学校長を歴任。現在、財務総合政策研究所特別研究官(中国研究交流顧問)。2009年10月~東京大学EMP講師。2 018年4月~奈良県立大学特任教授。2018年12月~ジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員。学術博士(東京大学)

主な著書

  • 「日本人と資本主義の精神」(ちくま新書)
  • 「スミス、ケインズからピケティまで 世界を読み解く経済思想の授業」(日本実業出版社)
  • 「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)
  • 「検証 現代中国の経済政策決定-近づく改革開放路線の臨界点-」
    (日本経済新聞出版社、2008年アジア・太平洋賞特別賞受賞)
  • 「中国第10次5ヵ年計画-中国経済をどう読むか?-」(蒼蒼社)
  • 『2020年に挑む中国-超大国のゆくえ―』(共著、文眞堂)
  • 「中国経済はどう変わったか」(共著、国際書院)
  • 「中国ビジネスを理解する」(共著、中央経済社)
  • 「中国資本市場の現状と課題」(共著、財経詳報社)
  • 「中国は、いま」(共著、岩波新書)
  • 「国際金融危機後の中国経済」(共著、勁草書房)
  • 「中国経済のマクロ分析」(共著、日本経済新聞出版社)
  • 「中国の経済構造改革」(共著、日本経済新聞出版社)

はじめに

 2019年12月10-12日に、党中央・国務院により、20年の経済政策の方針を決める中央経済工作会議が開催された。本稿では、その留意点を紹介する。

1.経済情勢の認識

(1)概括

 「今年に入り、内外リスク・試練が顕著に上昇する複雑な局面に対して、経済社会の持続的で健全な発展を維持した」とする。

 2018年会議(以下「18年会議」)では、「外部環境の深刻な変化」が強調されていたが、今回は、「内外のリスク・試練が顕著に上昇」と、国内にも問題があることが明らかにされた。また、18年会議では米中貿易摩擦に「穏当に対応」とあったが、摩擦の激化により、この表現は削除されている。

(2)試練・困難への対応

 「十分成績を肯定すると同時に、わが国がまさに発展方式の転換、経済構造の最適化、成長動力の転換の難関攻略の時期にあり、構造的・体制的・周期的問題が相互に交錯し、前述の3つの時期が重なり合っていることの影響が引き続き深まり、経済の下振れ圧力が増大していることを、はっきりと認識しなければならない」とする。

 18年会議の経済下振れ圧力に「直面」から「増大」へと表現が強まった。しかし、その原因として、18年会議は「世界の局面変化」が強調されていたが、今回は、発展方式の転換・経済構造の最適化・成長動力の転換の3つの時期が重なっているためだとし、単に経済周期的問題だけではなく、構造的・体制的問題があることを認めている。

2.2020年の経済政策の基本方針

 「2020年は、小康社会の全面実現と第13次5ヵ年計画の手仕舞いの年である」と位置付ける。

 そして「2020年の予期目標は、『穏』の字を頭に付けることを堅持し」なければならないとし、特に「穏」(安定)が強調されている。

 また、「経済の量の合理的な伸びと質の段階的向上の実現を確保しなければならない」と、成長率のみならず質の向上も目標とされている。これは、2020年のGDPを10年の倍にすることよりも、質の向上こそが重要と言っているようにも読める。なお、人民日報評論員論文2019年12月15日は、「2020年のGDP倍増は、全国的なものであり、各地方の倍増を要求するものでななく、異なる地方・異なる人々が皆全国平均水準に達することを意味するものでもない。各地の情況は千差万別であり、力を尽くし、自身の力量・自身の現実に応じて、既定の小康社会の全面実現の目標・任務を完成しなければならず、数字の水増し・虚偽報告をしてはならない」と警告している。

3.2020年の重点政策

(1)新発展理念を断固として貫徹する

 「『イノベーション・協調・グリーン・開放・共に享受』という新発展理念を断固として貫徹し、質の高い発展を推進しなければならない」とし、「新発展理念の堅持・貫徹を、各レベル指導幹部の考課の際の1つの重要尺度としなければならない」とする。

 2017年19回党大会で展開された「習近平思想」のエッセンスが再強調されている。ということは、この思想が未だ党・政府の末端まで十分に浸透しておらず、依然として環境改善・経済発展のバランス・所得再分配よりも、経済成長を追い求め競争する傾向が強いということであろう。このため、新発展理念を人事考課の重要尺度としているものと思われる。

 人民日報2019年12月16日評論員論文は、「各レベル党委員会・政府は、注意力を各種アンバランス・不十分な問題の解決に集中し、決して単純にGDP成長率で英雄を論じる旧い道を歩んではならず、決して環境破壊を代価に発展を高める方法に戻ってはならず、さらには粗放式発展のモデルに戻ってはならない」とクギを刺しているのである。

(2)3大堅塁攻略戦を断固としてしっかり戦う

 「①脱貧困の堅塁攻略任務を期日どおり全面完成を確保し、②青い空・青い水・きれいな土の防衛戦を重点的にしっかり戦い、③マクロレバレッジ率の基本的安定を維持しなければならないとする。

 以前は、3大堅塁攻略戦の順番は、金融リスク防止・脱貧困・環境対策であったが、今回は、脱貧困が最優先となった。5500万人の農村最貧困層の脱貧困は、毎年1000万人の削減の一方で、最貧困への再転落者・新たな最貧困者の増加という問題に直面していることが見て取れる。おそらく習近平総書記にとって「小康社会の全面実現」は、GDP倍増ではなく、最貧困層撲滅に主眼を置いているものと思われ、この達成が最重要課題となっているのである。これに対し、金融リスクの問題は、「わが国の金融システムは総体として健全であり、各種リスクを解消する能力を備えている」として、順位が大きく後退した。ただ、人民日報社説2019年12月13日は、「重大金融リスクを発生しないことを確保しなければならない」としており、懸念が全くないわけではない、ということであろう。

(3)民生とりわけ困窮大衆の基本生活が有効な保障・改善を得ることを確保する

 「民生保障」のランキングが上昇した。2020年も経済成長率が減速するなかで、社会の安定を維持することが最重要課題となっている。「小康社会の全面的実現」を2020年に達成する必要があるため、困窮層の基本生活保障が重視されており、雇用政策では「就業ゼロの家庭の解消」が特記されている。人民日報社説は、「小康社会の全面実現は、人民生活の改善の上に体現されなければならず、とりわけ困窮層に対して政策を実施し、投入を増やし、有効に保障しなければならない」としている。

 また、「都市従業者の子女の就学難問題を有効に解決しなければならない」としている。2020年までに1億人の都市常住出稼ぎ農民とその家族に都市戸籍を与えることとされているが、「都市従業者の子女の就学難問題の解決」が課題とされているところを見ると、戸籍を転換してもそれに伴う都市基本公共サービスの提供が追いついていない現状がうかがえる。

 不動産政策については、すでに住宅市場の過熱がピークアウトしつつある現状を踏まえて、「地価・住宅価格・予想の安定」に重点が移った。住宅価格の急落は、金融リスクを増大させるおそれがあり、不動産市場のソフトランディングが求められるのである。

(4)積極的財政政策と穏健な金融政策を引き続き実施する

 「積極的財政政策は、質・効率の向上に力を入れ」と、18年会議の「力を加え」という表現が削除され、むしろ「質・効率の向上」にウエイトがかかった。2019年度は財政赤字の対GDP比を2.6%から2.8%に引き上げたが、さらに3%に引き上げることには異論があるのだろう。

 「穏健な金融政策は、柔軟・適度にし」と、「緩和・引締め」という表現が削除された。ここでも金融政策の安定が重視されている。

 また「資金を誘導して需給双方が共同受益し、乗数効果を備えた先進製造・民生建設・インフラの脆弱部分等の分野に振り向け、産業と消費の『ダブルのグレードアップ』を促進しなければならない」と、乗数効果のある分野への投入が重視されており、ここでも「バラマキはしない」という李克強総理の持論が貫徹されている。

(5)質の高い発展の推進に力を入れる

 「イノベーション駆動・改革開放を両輪とし、経済全体の競争力を全面的に高め、現代化した経済システムの建設を加速しなければならない」とし、次の政策を列挙している。

 ① 農業生産の供給保障、養豚の回復。

 ② 科学技術体制改革の深化、技術イノベーションにおける国有企業の積極的役割を発揮。

 ③ 戦略的産業の発展支援、伝統的製造業の最適化・グレードアップ。

 ④ 減税・費用引下げ政策実施、企業の電力使用・ガス使用・物流等のコスト引下げ、「ゾンビ企業」の処理、産業の基礎能力・産業チェーンの現代化水準の引上げ、デジタル経済の発展。

 ⑤ 生産関連サービス業の専業化、バリューチェーンのハイエンドへの延伸。

 ⑥ 「一老一小」(老人・幼児)問題の解決。

 ⑦ 四川・チベット鉄道等の重大プロジェクト、都市部パイプライン・都市駐車場・コールドチェーン物流等、農村の道路・情報・水利等の施設の建設。

 ⑧ 北京・天津・河北の協同発展、長江デルタ一体化発展、広東・香港・マカオ大ベイエリア建設を推進、雄安新区の建設。

 今回は、産業政策・農業政策・地域政策が「質の高い発展」に包摂された。

 アフリカ豚コレラの影響で、豚肉価格が高騰しているため、養豚業の回復が特記された。18年会議では、イノベーションへの中小企業の役割が強調されていたが、今回は国有企業の役割が強調された。国有企業擁護派の巻き返しが始まっている可能性があり、注意を要する。また、米中経済摩擦により国際的な産業チェーンの断裂が懸念されるため、「産業の基礎能力・産業チェーンの現代化」「バリューチェーンのハイエンドへの延伸」が強調されている。地域プロジェクトとしては、雄安新区が復活し、四川・チベット鉄道が特記されている。都市部パイプライン・都市駐車場・コールドチェーン物流は、今後の特別地方債の重点対象プロジェクトとされている。

(6)経済体制改革を深化させる

 改革については、①国有資本・国有企業改革を加速し、国有資本配置の最適化・調整を推進、②民営経済発展を支援する健全な法治環境を整備し、中小企業発展のための政策体系を整備、③財政・税制改革を深化、④上場会社の質を高め、健全な退出メカニズムを整備、⑤大銀行のサービスの重心を末端へ降下、中小銀行の主業への責任集中、などが列挙されている。

 財政・税制改革は、18年会議では地方税体系・地方債制度の整備の記述があったが、今回は具体的項目が挙げられていない。また、政府機能の転換の記述も削除された。

 対外開放は、「引き続きより大きな範囲、より広い分野、より深層レベルの方向に進め」るとし、①外資の対内直接投資を促進・保護、外資のネガティブリストの縮減、②安定の中で貿易の質向上、③輸出市場の開拓・多元化、⑤関税総水準を引き下げ、④自由貿易試験区の改革開放の実験場としての役割発揮、⑤「一帯一路」投資政策・サービス体系の健全化、⑥WTO改革への積極的参加、マルチの自由貿易協議・交渉加速、などが挙げられている。

 対外開放は、米中経済交渉を踏まえ、より積極的な姿勢が盛り込まれた。米国の批判が強い「一帯一路」については、18年会議は企業の主体的役割の発揮、各種リスクの管理・コントロールが記述されていたが、今回は投資政策・サービス政策の健全化がうたわれており、プロジェクトの見直しが行われる可能性がある。また、18年会議では言及されていた米中経済貿易交渉の記述は、第1段階合意を目前に控えていたせいか、削除された。

4.結び

 「小康社会の全面実現と第13次5ヵ年計画の目標・任務の実現は、2020年の全党活動の重点中の重点である。各地方・各部門は、党19期4中全会精神を全面的に貫徹し、国家ガバナンスシステムとガバナンス能力の現代化推進に努力し、経済政策への党の指導という制度的優位性をガバナンス機能に転化しなければならない。

 全党・全国は、習近平同志を核心とする党中央の周囲により緊密に団結し、力を合わせ心を一つにし、鋭意進取の精神により、小康社会の全面実現の偉大な勝利を断固奪取しなければならない」とされた。

 人民日報評論員論文2019年12月18日によれば、「経済政策への党の指導という制度的優位性をガバナンス機能に転化しなければならない」とは、実施面で力を用いよということだとし、「経済政策に対する党の指導強化は、何もかも包含するものではなく、大事を管理・議論し、方向を把握し、大局を管理し、実施を保障する役割を発揮しなければならないということである」としている。