海上の掘削作業でも最新のスマートシステムが活躍
2019年4月10日 趙小康、張曄(科技日報記者)
―中国が独自の知的財産権を有するポンプ浚渫船「天鯤号」
中国が初めて設計から建造まで手掛け、独自の知的財産権を備えた完全電力駆動型自航式ポンプ浚渫船「天鯤号」の輸送システム能力は世界一で、その掘削能力はアジア一、悪天候などへの対応能力も世界一だ。
「天鯤号」に採用されている技術やその性能を詳しく見ると、それぞれの分野でカギとなる世界最先端のテクノロジー成果が応用されていることが分かる。
江蘇省啓東市を流れる長江の河口付近では水が勢いよく流れ、呂四港には迫力ある「天鯤号」が圧倒的な存在感を放ち、長い海上管が浮かんでいる。
張燚船長の指令で、宋長春・一等航海士はスマート掘削スタートボタンを押した。すると、システムが作動し、アンカーブーム、ラダー、カッターなどが、秩序正しく動き始めた。「掘削作業中、私はゆっくりとコーヒーを飲むことができる。以前なら考えられなかったことだ」と宋一等航海士。
今回の掘削テストにおいて、現在アジアで最大、最先端のポンプ浚渫船「天鯤号」は、強力な掘削能力を示したほか、最新鋭のスマート化掘削制御システムが注目を集めた。中国でポンプ浚渫船に自動掘削技術が応用されたのは今回が初めてで、中国の浚渫技術の分野における重大なブレイクスルーとなった。現在、この一連の技術の発明特許は出願中となっている。
「天鯤号」に搭載されている大型掘削カッターの回転速度は土砂の濃度によって自動的に調整
(画像は取材対応者からの提供)。
金を積んでも購入できない大国の重要装備
大型掘削船は、ハイテクのウェートが高く、資金密集型の国家重要基礎装備である。世界最大の人工港湾である天津港の開削も、長江の新航路の浚渫も、大型掘削船とは切り離せない。
しかし、中交天津航道局有限公司(以下「天航局」)が資金を投じて建造した「天鯨号」が誕生するまで、中国の大型掘削船は輸入に頼っており、その割合は8-9割を占めていた。
1966年、オランダからポンプ浚渫船「津航浚102」を輸入するために、天航局は、金4トン分に相当する資金を投じた。「天鯤号」の建設を決めた中交浚渫(集団)股份有限公司の周静波董事長によると、「海外から輸入した超大型掘削船の技術は通常、最新鋭ではなく、核心的プロジェクトにおいて、重要なミッションを担うことができないことがある」としている。
輸入に依存していたため、中国の浚渫関連の装備の研究開発、製造の分野の技術者や技術関連の資料、技術は不足し、その全体的な発展の重い足かせとなっていた。そのため、中国は大型掘削船の自主研究開発、建造を実現しなければ、その足かせを解くことはできず、他の国に左右されることなく、河川の開発、航道、沿海領土の建設などを独立して進めることもできない状態だった。
しかし、世界で大型掘削船の設計や建造技術を掌握しているのは欧州の数ヶ国だけで、国家の戦略的装備は統一した管理の下にあるため、コア技術を学ぶことも、買うこともできなかった。
2005年、天航局は、「天獅号」や「天牛号」といった船舶の設計、建造に相次いで取り掛かり、中国が独自に設計、建造する大型ポンプ浚渫船を建造するための第一歩が踏み出された。2007年9月、天航局は、プロジェクト船舶設計所を正式に発足させた。その後10年間にわたり、「濱海型」、「程途恒遠」シリーズ、「天鯨号」などが相次いで建造、運用され、中国は先進国と肩を並べるようになり、大型浚渫装備の独自設計、建造に向けた技術的基礎を固めた。
天航局が建造し、運用が始まった姉妹船「天鯤号」と「天鯨号」は、独自イノベーションという点で、大きな一歩となった。同姉妹船は中国初の独自設計、建造された、独自の知的財産権を備えた大型自航式ポンプ浚渫船だ。中国は新世代型の大型自航式ポンプ浚渫船を独自設計、建造できるようになり、そのカギとなる技術におけるブレイクスルーを実現し、世界有数の自国の設備と技術で航道を建設したり、臨海用地の造成をしたりすることができる国の一つとなった。
スマートシステムが安定した高効率の掘削作業を実現
「天鯤号」の操舵室に入ると、ハイテク感満載で、SF映画「流浪地球(The Wandering Earth)」の宇宙船を思わせる造りとなっている。白で統一された操縦台の前には、国内最先端のスマート掘削制御システムがある。
この「スマート・ブレイン」があれば、ボタンを押すだけで、土の質が3Dでリアルタイムに表示され、潮位も分かり、エネルギー効率を管理することもできる。そして、自動掘削を実現しているほか、作業区域の実際の状況に合わせてシステムが動作を自動で調整し、安定した、高い効率の掘削作業を実現している。
天航局技術センターの丁樹友・常務副主任は取材に対して、「このシステムを研究開発したのは、人によるコントロールのウィークポイントを改善し、高い効率の浚渫作業を実現するためだ」と説明した。
これまで、中国のポンプ浚渫船は作業中、作業員による操作が必要で、掘削の効率や質は、作業員の経験や能力に左右されていた。作業員にとっても作業の負担は大きかった。丁常務副主任は、「作業の時は4時間スパンで、六方に目をきかせ、八方に耳をきかせていなければならないようなとても大変な作業だった。また、1日一生懸命仕事しても、作業量はなかなか安定しなかった」と振り返る。
「天鯤号」の最大のブレイクスルーは、そのシステムを使うと、泥や砂の濃度の変化に応じて、カッターの回転速度も変わる点だ。現在、海外の自動制御システムでは、カッターの回転速度を事前に設定しなければならず、速度は固定されているが、場所によって泥や砂の濃度は異なり、濃度が高いと送泥用のポンプが詰まることがあり、濃度が低いと、作業効率が下がる。しかし、このスマートシステムを使うと、その問題が解決する。その他、サイドラインやサイドスロープを掘削する時も、その他の制御システムにありがちなカッターの慣性による掘りすぎという現象を避けることができる。これら技術のブレイクスルーにより、「天鯤号」は、経済的生産能力と最大の生産能力を実現し、真の意味での浚渫の分野の重要設備になった。
また、「天鯤号」は世界一の悪天候などへの対応能力を誇る。これはスパッドシャーと三次元位置測定システムがあるからだ。船舶作業の際、スパッドを海底に打ち込み、正確な掘削を実現することになる。そのためスパッドシャーシステムの良し悪しが、船舶が劣悪な天候や環境に対応できるかに直接関わってくる。このシステムは、海外の技術に頼らずに、中国が独自に設計、製造したもので、世界最先端のシリンダータイプのフレキスィブルな大型スパッドシャーシステムだ。
「それらのシステムは、複数の技術的ブレイクスルーを実現した。そして、『天鯤号』は世界スマート浚渫技術の最先端に立つようになった」と丁常務副主任。
テストを優秀な成績でクリアした「天鯤号」
「天鯤号」は全長140メートル、幅27.8メートル、最大浚渫深度35メートルで、総浚渫能力は2万5843キロワット、設計浚渫は1時間当たり6000立方メートル、カッターの定格出力は6600キロワット、最大出力は9900キロワットだ。風化岩、岩石、土砂、粘土など、さまざまな土質で作業を行うことができ、航路、泊地の浚渫、臨海用地の造成を実施できる。「天鯤号」に採用されている技術やその性能を詳しく見ると、カギとなる各分野に世界最先端のテクノロジー成果が応用されていることが分かる。
2018年11月20日、「天鯤号」は啓東で掘削テスト作業を完了。テスト中の掘削最高生産率は1時間当たり7501立方メートルで、設計基準の1時間当たり6000立方メートルを大きく上回った。また、15キロに及ぶ海上管の土砂排送能力にも問題がないことが確認された。
2018年11月23日、「天鯤号」は大連に移動し、岩石掘削テストを行った。岩石は浚渫業界において、最大の難関で、船舶の掘削の性能が試されることになった。大連では約1ヶ月にわたり、「天鯤号」のカッターの岩床における掘削状況のテスト、さまざま性能のカッターのテスト、カッターの回転テスト、サイド移動した際の極限張力テスト、カッターの逆回転掘削テストなどが行われ、設計基準の50Mpaを上回る60Mpaの圧力の岩石掘削に成功し、その難関をクリアした。そしてこれにより「天鯤号」の正式運用が決まった。
今年1月9日、約3ヶ月の岩石などの掘削テストを経て、「天鯤号」は江蘇省啓東市の造船工場に戻った。さまざまなテストを、「天鯤号」は優秀な成績でクリアした。
今年3月12日、アジア最大の大型自航式ポンプ浚渫船「天鯤号」の通関手続きが完了し、江蘇省連雲港から、「一帯一路」(the Belt and Road)参加国に向かう旅に出た。今後は現地の建設、発展に寄与することになる。
※本稿は、科技日報「在海上,挖泥也要動"脳子"」(2019年3月22日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。