第152号
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「動植物の天国」でバイオテクノロジー大産業が誕生

2019年5月7日 趙漢斌(科技日報記者)

 雲南創新生物産業孵化器管理有限公司の黄文栄副総経理は先ごろ取材に対して、「我々のバイオテクノロジー企業65社は昨年、助成を受けることができる特許が約200件あった。当社はすぐにもそれら企業の申請をサポートすることができる」と興奮気味に語った。黄副総経理が話す特許出願助成とは、中国の国家級昆明経済技術開発区内の補助政策の一つだ。開発区経済発展局の職員・呉勁才さんが先頭に立ち、開発区内の企業の2018年度の特許助成に関する通知をサイトに出すと、すぐに黄副総経理がそれに反応した。

 経済技術開発区は、開発区内の新たに特許を取得した企業に対して、国内発明特許の場合1件当たり3,000元(1元は約16.71円元)、国内実用新型特許の場合1,000元の助成金を支給している。また、特許協力条約(PCT)に基づいて出願し、国際調査機関の調査を経て取得した発明特許の場合、1件当たり5,000元の助成金を支給している。その他、インキュベーターの追加補助も受けることができる。

優位性を活用した特色あるバイオ技術企業が誕生

 雲南英格生物技術有限公司に足を踏み入れると、まず柑橘系の香りが感じられる。そして、さらに中に進んでいき、角を曲がると、今度は表現し難しい薬草の香りが漂っている。

 同社の周戟董事長は「これは植物1種類の香りではなく、雲南省特有の各種天然植物の抽出物をブレンドして作り上げた香り。雲南省は独特の植物と民族文化の多様性という優位性を活用し、当社のチームはここ6年間にわたり、天然材料の有効成分のみを抽出することに焦点を合わせて、力を注いできた」と話す。

 それは決して簡単なことではなく、周董事長が英国のオックスフォード・ブルックス大学に留学していた時に学んだ経営学の理念を活用したほか、中国の国情に合わせて工業化の実践と市場をうまくマッチングさせなければならなかった。

「化学合成と違い、各大手化粧品ブランドの天然活性成分のソリューションに対する依存度は年々高くなっている。ここ数年、私のチームは市場の動向を洞察し、クライアントの需要を見極めると同時に、植物資源の収集を継続して行い、新技術を研究開発し、民族植物学や植物化学、医薬品化学、皮膚科学などの専門知識を持つ人材を招聘し、滇黄精(Polygonatum kingianum Coll. et Hemsl)の抽出物や滇橄欖(Phyllanthus emblica Linn)の抽出物など、800種類以上の成果を手にし、天然材料を活用して化粧品産業のイノベーションをサポートしている。2012年に起業し、孤軍奮闘していた当初は注文もなかったものの、昨年、売上高が4千万元を超え、ハイレベル人材28人が在籍するようになった。この『蛹から蝶への変化』は、雲南イノベーションバイオ産業インキュベーターで起きた」と周董事長。

 また周董事長は「イノベーションバイオ産業インキュベーターは、私の起業の夢をかなえただけでなく、経営が軌道に乗るようサポートしてくれた」としている。彼は同インキュベーターに進出した1人目の起業家として、起業したばかりの頃、インキュベーターから、留学帰国者を対象とした起業補助10万元を援助されたほか、改装補助金も支給され、さらに、初めの3年間は家賃も半額で、合計30万元以上を節約することができたという。また、インキュベーターは、製品の分析や検査、プロジェクトの申請、プラットホームの認定、特許申請などのサービスを提供してくれる。それら資金面の補助や行き届いたサービスの提供により、周董事長は、起業し、企業を大きく成長させる自信を固めることができた。2013年、同社は雲南省テクノロジー型中小企業に認定され、2014年には、プロジェクト「雲南省の特色ある植物である白い花のボケから抽出した製品の研究開発」が雲南省アーリーステージ優秀テクノロジー型中小企業研究開発補助を獲得し、2015年には、省級成長型中小企業に認定された。起業して、インキュベーターから「卒業」するまでの間に、周董事長は少しずつ市場を開拓し、世界の大手企業や「雲南白薬」や「相宜本草」などの中国国内の有名企業とも良好な関係を築いて提携するようになっている。

 周董事長の起業と成功は、雲南イノベーションバイオ産業インキュベーターを「卒業」した企業の縮図と言える。現在、インキュベーター内の企業65社のうち、ハイテク企業が4社、雲南省成長型中小企業が4社、テクノロジー型中小企業が23社で、国家・省・市実験室や技術センター、院士ワークステーション、ポスドクワークステーションなど、特化プラットホームを構築し、人材が集まるイノベーション・起業の雰囲気が出来上がっている。

インキュベーターの「オーナー」ではなく、企業のイノベーション・起業をサポート

 同インキュベーターは雲南省で唯一のバイオ産業国家級インキュベーターであり、国家級ハッカースペース、国家小・零細企業起業イノベーションモデル拠点だ。

 バイオテクノロジーの分野のアーリーステージの企業がとても便利だと感じているのは、インキュベーターパークに、2,000平方メートルの公共技術サービスプラットホームがある点だ。同プラットホームは、インキュベーター内外の企業に、製品の研究開発、検査、分析、パイロット生産、技術コンサルティングなど専門的な検査・技術サービスを提供している。最近、中医薬材や食品などの分野の中国計量認証(CMA)を取得した。

 検査センターの王金浩センター長は「当センターで、一般的な検査に関しては全て実施することができる。検査費用を20%節約できるだけでなく、シードステージの企業に最もタイムリーな検査を提供している」と説明する。同センターには、15人が所属する科学研究チームがあるほか、サポートとして省級企業技術センターとポスドク科研サブワークステーションがあり、後ろ盾としてたくさんのバイオの分野の科学研究機器・設備、ハイレベルの専門家コンサルティングチームが控えている。その目的は、インキュベーター内外の中小バイオテクノロジー企業が多くの良い成果を生むことができるようサポートすることだ。

 黄副総経理は「当社はインキュベーターの『オーナー』という存在ではなく、サービスを向上させて、アーリーステージの企業のイノベーションや起業、創造をサポートするという存在。ここ数年、当社は公共技術サービスや技術転移・成果実用化、情報共有サービス、テクノロジー金融サービス、知的財産権サービス、国際テクノロジー交流に関する各種プラットホームなどを構築することで、インキュベーター内の企業に技術、不動産、コンサルティング、金融・知的財産権、対外交流、育成サービス、産学研連携などを網羅したサービスを提供している。また、専門家コンサルティング委員会チームや起業指導教員チームなどを立ち上げ、有名な専門学者や成功している企業家などが集まり、インキュベーター内の企業に技術サービス、起業コンサルティングサポートなどを提供したことで、企業のコア競争力が向上した。関連の大学や科学研究機関と共同で産学研連携拠点を構築することで、テクノロジー成果の実用化を促進すると同時に、インキュベーター内の企業の人材育成・招聘のためのプラットホームも構築した」としている。

科学技術研究成果が南アジアや東南アジアに進出

 程盈森林資源開発公司の培養室の中で、白衣を着た楊湘雲氏は、カジノキの組織培養苗を手に持って見せながら、「一株のカジノキの細胞の組織培養から、ビニールハウスで苗を鍛えるまで、70日を要する。インキュベーターに入居して約5年間で、当社は中国最大のカジノキ組織培養研究開発、生産拠点となり、『雲構1号』から『雲構3号』シリーズの特許品種を栽培している。年間の生産量は1億5,000万株以上」と紹介した。

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インキュベーター内の企業・程盈森林資源開発公司の組織培養室はカジノキの組織培養苗を年間1億5000万株以上生産する能力がある。(画像は程盈森林資源開発公司が提供)

 雲南省の林業界で、一定の知名度を得ている楊氏は、インキュベーターの手厚い待遇や良好な施設が気に入り、雲南程盈森林資源開発公司、雲南中構生物科技公司、中構国際生物産業集団(ミャンマー)公司の3社を進出させている。

「中国-東南アジア諸国連合(ASEAN)イノベーションセンターを立ち上げる際、重要な役割を果たし、雲南省が南アジアと東南アジアを対象に第一陣として建設したテクノロジーイノベーションセンターモデル拠点という、インキュベーターの優位性を活用して、当社も海外進出を進めている。現在、当社のミャンマー・ミッチーナーにおける農業テクノロジー産業パーク建設プロジェクトは既に実施が始まっている。将来的には、同地でカジノキ資源循環利用をメインとしたプロジェクトを展開し、カジノキの葉を主な飼料にして肉牛6万頭を飼育し、国内に供給する計画だ。また、肉牛の排泄物を発酵槽内で培養し、メタンガスを発生させ、EM活性液を農業有機肥料にしたり、発電したりすることができる。中国西南地域を拠点として、南アジアと東南アジアに目を向けると、バイオテクノロジーの非常に大きな市場がある」と楊氏。

 このインキュベーターにおいて、多くの企業が今後、その視野を南アジアと東南アジアなどに向けると見られている。例えば、雲南柏昇生物科技有限公司は、天然ゴム酵素化防臭技術やゴム物理凝固技術、天然ゴム加工システム技術、アンモニアフリーゴム生産技術、バイオ有機肥料などを自主研究開発し、技術的成果を上げ、業界内で傑出した存在になり、中国国内外の空白を埋めた。同社は最近、マレーシアやタイのゴム企業と提携する方向で交渉を進めている。

 黄副総経理によると、インキュベーターパークは近年、ASEANテクノロジー企業インキュベーター建設国際育成クラスや中国--インド技術移転マッチング活動など、国際交流活動を継続的に主催、参加している。また、タイ、ラオス、ミャンマー、マレーシア、シンガポール、インド、スリランカ、ベトナム、ASEAN事務局の関連機関とインキュベーター運営・管理や共同研究開発、テクノロジー成果の実用化、中小企業の育成などの分野をめぐる国際テクノロジー交流を展開して一連の著しい成果を挙げているほか、共同で情報、資源共有などの分野の交流・連携メカニズムも構築している。そして、南アジアと東南アジア諸国で、一定の知名度を得て、影響力を有するようになっている。


※本稿は、科技日報「在"動植物天堂"孵出生物科技大産業」(2019年4月8日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。