先行開発区―未来都市をデザイン《雄安新区 次の一手》
2019年6月28日 楊智傑(『中国新聞週刊』記者)/神部明果(翻訳)
2019年4月1日、雄安新区は成立2周年を迎えた。2,000km²の土地は表面上は大きく変わったところは見られないが、内部では変化が起こり、新たなエネルギーが絶え間なく蓄えられている。先行開発区と容東エリアから雄安新区の次の一手を探る。
雄安新区の先行開発区〔中国語では「啓動区」〕の計画チームの間ではこのような話が伝わっている。「雄安は未来の中国の都市のベンチマークとなる。雄安の都市イメージはまず先行開発区に具現化する」
雄安新区計画建設局の担当副局長によると、先行開発区の計画編成については、専門家による議論や国際諮問を繰り返し、新区の計画技術者と調整計画チーム、都市設計チーム、技術支援チームが協力し、中央政府の要求に従い、エリア内の全区画について緻密な計画を立て、慎重に慎重を重ねたうえで建設が開始されたという。
広さ38km²の先行開発区は、雄安新区のスタートアップ区〔中国語では「起歩区」〕の第四エリア全体と第五エリア西部を含み、まずはインフラ、環境施設、公共サービス施設の建設がスタートする。公共サービス施設については、北京市が雄安新区の学校3カ所と病院1カ所の建設を「ターン・キー〔一括請負〕」方式によりサポートし、真っ先に建設が開始される予定だ。
3〜4年後には先行開発区の原形が姿を現すといわれている。数年後には、モダンファイナンス、「総部経済〔企業の本部が集積することで地域に発達するひとつの経済モデル〕」、インターネット、ビッグデータ、人工知能(AI)などの機能集積産業が一同に会した、水と緑に囲まれ、都市と湖が融合する都市が誕生するだろう。
多様なモビリティと生活環境
数年後、栄烏高速道路〔山東省栄成市と内モンゴル自治区烏海市をつなぐ高速道路。ちょうど雄安新区北部の東西方向に走る〕に沿って都市の北側から雄安地区に入るとしよう。するとおよそ先行開発区の以下のような光景が目に飛び込んでくる。
北側から南側を眺望すると、細長く南北を貫通するエコロジカルで緑豊かな谷が見える。視野の及ぶ一番遠いところ、つまり都市の最南端には白洋淀と呼ばれる湖が広がる。
一路南に向かうと、先行して建設が始まる公共サービス施設に突き当たる。――北京市は昨年、雄安新区の学校3校と病院1カ所の建設費用をターン・キー方式により全額支援すると宣言しており、今年中の建設開始が予定されている。施設の運営支援に携わるのは、北京市の北海幼稚園、史家小学校、北京市第四中学校、宣武医院だ。
さらに先行開発区には雄安大学の建設も予定されている。昨年4月に全文が公開された「河北省雄安新区計画綱要」には、「双一流」〔世界に通用する一流大学と一流学科創設の政策を指す〕による新区での大学運営を支持し、新たなシステムとモデルにより世界一流大学としての雄安大学の建設を目指すとある。ただ、大学の建設地点は現時点で確定しているものの、規模や境界については未定の状態だ。
先行開発区の東西軸上には、インターネット、ビッグデータ、AIなどを含む金融業、ハイエンドサービス業集積エリアが配置されるという。
区内には北京に通じる都市間交通を主とした鉄道駅が建設される。「全体計画」によると、雄安駅から20分で北京大興国際空港、30分で北京市、天津市に到着可能となる。
将来、都市間鉄道で雄安新区に到着し、先行開発区に足を踏み入れれば、鉄道は地上ではなく地下を走行していることに気づかされるだろう。雄安新区計画センターの職員によると、駅と都市の一体化が打ち出されるという。具体的には駅内の地下空間から周辺の都市建築物へのアクセスが可能となり、都市間鉄道駅の地下化、公園化、活力化が実現するとのこと。
雄安新区では公共交通での移動が奨励され、バス、自転車、徒歩などのグリーンモビリティモデルが市民の全移動方式の90%、また公共交通が全ての車輛移動の80%に達する予定だ。
先行開発区内を走る小型自動車については、購入車あるいはレンタカーのいずれであっても、目にする車の大多数が新エネルギー車となる。「雄安新区全体計画」により、区内で新たに登録される自動車は100%クリーンエネルギーを使用することが義務づけられているためだ。
将来的に新たな移動の選択肢となるのが自動運転車だ。これは点と点を結ぶ公共交通となり、スマートフォンなどのデバイスで予約ができる。自動運転バスはAIアルゴリズムと利用者のニーズに基づき、全区域の交通についてベストな路線を選択し、乗客ひとりひとりを目的地に送り届ける。
さらに先行開発区には「15分生活圏」が実現する。区内の全区域に職場と住居がバランスよく配置され、生活空間と産業が共存するという。小中学校、幼稚園、医療サービス機関、カルチャーセンター、コミュニティサービスセンター、各種スポーツに特化した運動場など、15分圏内にあらゆる施設が揃う。
また「冬は暖かく、夏は涼しい街」というコンセプトも打ち出される。先行開発区には地下空間が合理的に建設され、人々が行き交う公共スペースとなる予定だ。
話題のスポットも満載
先行開発区の最南端には、天然の湖に面した湾岸エリアが広範囲に広がる。数年後、湖に面したエコ堤防に立てば、基本的な汚染対策の効果が現われ始めた白洋淀を一望できるだろう。水質は当初の劣V類〔水質基準の最下位分類であるV類に達しない水質〕もしくはV類から、III類もしくはIV類まで改善していると見られる。
計画では、白洋淀の水系は先行開発区に引き入れられ、水路がつながり遊覧船での通行も可能となるという。計画に携わる職員の話では、先行開発区では実際の生態状況と雄安の過去の記憶を呼び覚ますような事柄を組み合わせ、四季折々のシーンや雰囲気が醸し出されるという。
とはいえ、より一般的な景観も都市の至る所に配置される。先行開発区のどこであっても、300mで公園、1kmで林間地帯、3kmで森林地帯に到達可能となる。
設計者はこの都市で生活する住民の精神的ニーズにも配慮している。先行開発区の中心エリアには水系も陸地もあり、将来的にはここが人々の集う場所となるという。まさに先行開発区の「憩いの場」が完成するのだ。
都市は中国古代都市のように碁盤目状に区画されるが、変化やディテールに富んだ空間も設けられる。これは設計者が当初から希望していたものだ。「狭い路地が網の目のように広がる体系の中に、人々の興味を引く街角広場やグリーンスペースを設ける予定。森林に囲まれた湿地と共存するこの街が完成すれば、インターネット上で話題となるスポットも相当出てくるだろう」
先行開発区は長期にわたる計画設計、都市設計の過程を経てきた。中国都市計画設計研究院が先行開発区の調整計画の編成を担当し、都市設計プランについては世界中の専門家への諮問が実施された。
昨年7月に全世界に向けた国際諮問がスタートし、最終的な有効対応機関は合計96カ所に上った。うち26カ所が独立対応機関、70カ所が共同対応機関、213カ所が法人企業で、中国、イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、アメリカ、オーストラリア、日本、中国香港などの国や地域が含まれている。5回にわたる7度の投票の結果、12の対応機関が選出された。
雄安新区管理委員会の手配により、計画建設局および計画研究センターの職員が先行開発区の都市設計チーム、調整計画編成チームおよび各専門技術サポートチームとともに、12の対応機関が提出した都市設計の優れた部分を汲み取り、最終的な都市計画を練り上げていった。
「全てのプロセスが緊張に満ちており、まるで戦いだった。最終プランを完璧かつ心残りのないものに仕上げたかった。素晴らしい都市の実現のため、考えつくだけのありとあらゆる機会を活用し尽くした」。計画に携わった職員はこう語っている。
雄安市民サービスセンター内の企業のロゴ。撮影/『中国新聞週刊』記者董潔旭
※本稿は『月刊中国ニュース』2019年7月号(Vol.89)より転載したものである。