第154号
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折りたたみスマホのポジション争い

2019年7月24日 姜璇(『中国新聞週刊』記者)/江瑞(翻訳)

サムスン、ファーウェイが次々と折りたたみスマホを発表し、シャオミやレノボなど続々と参戦する大手電子メーカーに山積する難題。技術的な問題は、コストはどうするか、最新情報を追う。

大手メーカーが「折りたたみ」レースに続々参入

 北京時間2月21日未明、サムスンはサンフランシスコで開催した新製品発表会「Galaxy UNPACKED 2019」で、同社初の折りたたみスマホとなるGalaxy Foldを発表した。採用したのは内側に折りたたむ谷折り方式で、7.3インチのフォルダブルOLEDディスプレイを持つスマホが、折りたたむと4.6インチになる。

 その4日後、ファーウェイは、移動通信分野の技術展望の場とされるモバイル・ワールド・コングレス〔MWC〕2019で、初の5G対応折りたたみスマホMate Xを披露すると同時に、その発売のめどを6月末と発表した。

 ファーウェイのコンシューマー向け端末事業グループCEO余承東(リチャード・ユー)氏によると、Galaxy Foldの谷折り方式とは異なり、ファーウェイMate Xは外側に折りたたむ山折りデザインを採用している。開くと厚さ5.4ミリの8インチタブレット、閉じると6.6インチのデュアルスクリーンスマートフォンになる。

 MWC2019で、サムスンとファーウェイの折りたたみスマホはいずれもガラスケースの中に展示されており、遠くから眺めることしかできなかった。それでも、世間は折りたたみスマホをめぐり、大いに盛り上がっていた。

 これに先立つこと1カ月、シャオミとRoyole〔柔宇科技〕の「口撃合戦」により、折りたたみスマホは既に戦いの最前線と化していた。

 1月23日、シャオミの共同創業者兼総裁の林斌は、開発中の三つ折りスマホのエンジニアリング・サンプルのデモ動画をウェイボー〔微博〕にアップし、「フレキシブル折りたたみディスプレイ技術や4駆型折りたたみ回転軸など、いくつもの技術的難題をクリアし、世界初の三つ折りスマホの開発にこぎつけた」と宣言した。

 シャオミの創業者、董事長兼CEOの雷軍(レイ・ジュン)氏がライバルメーカーに対し、「生きるか死ぬかはどうでもいいことだ、悔しかったらやってみろ」と言い放つと、これに即座に反応したのがRoyoleだった。同社の副総裁・樊俊超(ファン・ジュンチャオ)氏は微信のモーメント〔朋友圏〕で、「シャオミが発表した折りたたみスマホは量産が難しいコンセプトモデルに過ぎないのに、フレキシブルディスプレイの技術的難題をクリアしたなどとうそぶいている」と応戦。さらに、「サムスンとLG以外(のメーカー)は、まだコンセプチュアルなフレキシブルディスプレイを量産できず、他社から仕入れている状態で、完成品は市販レベルに程遠い」と皮肉った。

 2018年10月31日、Royoleは他社に先駆けて「FlexPai(柔派手機)」を発売した。その売りは「世界初のフォルダブル・フレキシブルディスプレイスマートフォン」だった。

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シャオミの広報はRoyoleの口撃に対し、「シャオミは現在、様々な折りたたみスマホを試作中で、技術が確立した暁に正式に発表する」と反撃した。

 レノボ・グループの董事長兼CEO・楊元慶(ヤン・ユエンチン)氏はMWC2019で懐疑的心情を吐露した。「折りたたみスマホというのはガラスケースの中だけに存在するコンセプトなのではないか。3年前、レノボはLenovo Tech Worldで折りたたみディスプレイのコンセプトモデルを発表したが、今年、各メーカーが発表した折りたたみディスプレイ製品は、当時の技術を超えることができていない」

 そのレノボは、開発から3年経つものの、未だ折りたたみスマホを発表できていない。これについて同社は、技術的な問題でまだ大量生産ができないからだとしている。

 OPPOの副総裁兼中国大陸事業部総裁の沈義人(チェン・イーレン)氏はかつてあからさまにこう指摘していた。「今のところ、折りたたみスマホは『折りたたみのための折りたたみ』で、成熟した製品としての価値を備えるに至っていない」。しかし、「折りたたみ」が注目を集めるようになると、OPPOも折りたたみスマホのプロトタイプを公開し、「人手が足りれば量産を検討してもいい」とコメントしている。

 3月20日、TCL集団は、傘下のTCL通信が、同じく傘下のディスプレイメーカー・華星光電のディスプレイを用いた折りたたみスマホを計画していると発表した。2020年の第1四半期をめどに、主として海外市場での発売を目指しているという。

 MWC2019の開催前後、戦いの最前線となったサムスンのGalaxy Foldとファーウェイの5G対応機Mate X以外にも、ZTE、OPPO、シャオミ、グーグル、TCLなどの国内外の企業がこぞって折りたたみスマホの製品発売計画や技術特許を公表した。

 そして、これまで世界のイノベーションを牽引してきたアップルも「折りたたみ」レースへの参戦を表明し、折りたたみ技術関連の特許を相次いで発表している。アップル関連の情報サイトAppleInsiderで最近公開された特許をみると、アップルは折りたたみ部分が自動的に発熱する折りたたみ技術の開発をおこなっているようだ。これは寒冷条件で折りたたみ端末を使用した場合、破損しやすいという問題に対応するためだという。

技術的難題

 サムスン、ファーウェイのいずれも量産計画を発表している。

 サムスンは量産の準備は既に整っており、初回分は今年の4月26日、100万台を出荷する予定だとしている。

 一方のファーウェイは、Mate Xはコンセプト機ではなく量産機であるとしており、余承東氏が先日メディアに向け、発売は今年6月だとコメントした。

 調査会社IHS Markitのスマートフォン業界アナリスト・李懐斌氏は、折りたたみスマホは今年、量産化においてブレークスルーを果たすだろうが、その量的規模は小さい、と分析する。「当初の予測では、2019年の出荷台数は50万台ほどとみられていたが、現時点ではそれよりは増えるだろうとされている」

 折りたたみスマホが新型家電として市場に切り込んでいくためには、まず製品としてある程度完成されていなければならない。そのためには、ディスプレイ本体とヒンジの技術という難題の解決が不可欠だ。

 ディスプレイ本体に関して言えば、折りたたみスマホをめぐる一連のイノベーションを技術的に支えているのは、フレキシブルディスプレイの発展だ。フレキシブルディスプレイとはフレキシブルOLEDディスプレイのことで、液晶(LCD)やリジッドOLEDディスプレイと比較すると、フレキシブル、フォルダブル、軽量・薄型化という特徴を備えている。事実、各メーカーがしのぎを削る曲面ディスプレイやフルスクリーンもフレキシブルディスプレイを応用したもので、OLEDフルスクリーンは今やメーカー各社のハイエンド・フラッグシップモデルの標準装備となっている。そして、折りたたみにすることで、フレキシブルな特性をさらに発揮できることから、スマートデバイスにおける形態面での新たな試みとして各社がこぞって取り組んでいるというわけだ。

 ディスプレイメーカーでもありスマートフォンメーカーでもあるサムスンは、この競争において確かに優位だ。サムスンは2011年からフレキシブルディスプレイの生産ラインを稼働させている。中国でも、ディスプレイメーカーの京東方科技集団〔BOE〕、深圳天馬微電子〔深天馬〕、Visionox〔維信諾〕などがフレキシブルディスプレイ分野で続々と台頭してきている。

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 折りたたみスマホの注目度が一 気に高まったのに伴い、ファーウェイMate Xにディスプレイを供給しているBOEは深圳A株で長らくご無沙汰していたストップ高を記録。彩虹集団〔IRICO〕、深天馬A、Visionox、TCL集団など、他の折りたたみ関連株も軒並み大きな上げ幅を記録した。

 BOEの高級副総裁・張宇によると、折りたたみにおけるディスプレイの耐久性を保証するため、同社の製品は20万回の折りたたみ試験をクリアしているという。「現時点では、業界で20万回というのが基準になっている。これは1日平均100回開閉するとして、一般的な買い替えサイクルである3年分に相当する」

 スマートフォンを折りたためるようにするには、多層構造が同時に同じ動きをしなければならない。ファーウェイの出した結論は、高分子材料のディスプレイ保護層、折り曲げ可能なフレキシブルディスプレイ、PP〔ポリプロピレン〕やPE〔ポリエチレン〕の支持板、回転軸の4層構造にすること。なかでもとりわけ重要なのが、回転軸の設計だ。「ファーウェイはヒンジの設計に3年かけた。100を超える部品を使用し、シームレスな折りたたみを実現することに成功した」と余承東氏は説明する。

 現在、量産可能とされている折りたたみスマホまたはコンセプトモデルの形態をみると、折りたたみ方式は内側に折る谷折りタイプ、外側に折る山折りタイプ、三つ折りタイプ、下向きに折るタイプの4種類がある。ファーウェイMate Xの山折りタイプは、折りたたんだディスプレイを完全に密着させることができる。一方サムスンGalaxy Foldの谷折りタイプは、ヒンジが原因でディスプレイ間に隙間ができてしまう。

 だが、代表的なこの2種の折りたたみ方式にもそれぞれ一長一短がある。「フレキシブルディスプレイスマートフォンのカバー材は、ガラスではなくPI〔ポリイミド〕フィルムであるため、ガラスと比べると、やはり表面硬度は大きく劣る。ファーウェイなどが採用した山折り方式はディスプレイの引っかき硬度を考慮しなければならない。サムスンの谷折り方式はそうしたリスクを考慮する必要はないが、ディスプレイの曲率半径は山折り方式より小さくなければならず、技術的側面だけみても難易度はより高まる」と李懐斌氏は指摘する。

 折りたたみスマホの形態は各社とも今なお模索中だ。どの折りたたみ方式をとっても、手本となる前例はないからだ。Visionoxの副総裁・黄秀頎氏曰く、三つ折りスマホの設計は、層構造ひとつとっても、薄型フィルム本体にせよフィルム層の設計にせよ、あるいはモジュール構造の応力制御にせよ、二つ折りとは異なる。ディスプレイ部分のみであれば問題は容易に解決できるが、端末全体の設計を考えなければならないため、違いは大きいのだという。

高コスト

 長いことスマートフォンの使い勝手を制約してきた最大の要素は、ディスプレイの面積だ。それゆえ、メーカー各社は曲面ディスプレイやフルスクリーンにすることでディスプレイ対ボディ比率を上げようとしてきた。

 家電産業評論家の梁振鵬氏は、折りたたみディスプレイの真の価値は、限られた空間でディスプレイの比率を上げ、差別化されたユーザー体験を提供することだと言う。

 目下の折りたたみスマホは開くと約7インチのタブレット大になるが、ディスプレイが大きくなるということは、バッテリーも相応の駆動時間が求められるようになるということを意味する。

 しかし雷軍氏の言うように、折りたたみスマホのバッテリーは、その折りたたみという特性ゆえ、面積が限られるという宿命を背負っている。

 これについて李懐斌氏は、「5Gが運用開始されれば、電力消費は必然的に増加する。また、5G時代に対応した新しいアプリやコンテンツが誕生するはずだ。折りたたみスマホのバッテリーの持ちに関しては、各メーカーによる解決が望まれる」と指摘する。

 また、折りたたみスマホの価格の高さは、買い替え需要に大きく水を差す要因になりかねない。サムスンのGalaxy Foldの定価は1,980ドル(約1万3,300元、約21~22万円)、ファーウェイに至っては強気の2,600ドル(約1万7,500元、約28~29万円)だ。

 それゆえ業界内では折りたたみスマホの売れ行きを疑問視する声が根強い。USA Today/SurveyMonkeyの調査によると、消費者は新しいスマートフォンを購入する際、もはや1,000ドル以上支払うのに抵抗を感じるようになってきている。別の研究結果によれば、消費者はスマートフォンの買い替えサイクルを延ばす傾向が出てきており、以前のようにメーカー側の新製品発表のタイミングに合わせてグレードアップした製品を買わなくなってきている。

 折りたたみスマホの製造コストは、ディスプレイの歩留まりや、産業チェーンの配置といった問題の影響を受ける。現在、中国を代表するディスプレイメーカーが公表しているフレキシブルディスプレイの歩留まり率は60~70%。業界関係者の分析によると、この数字はあくまで総合的な歩留まりであって、ディスプレイやモジュールといった個別の歩留まりに関しては、「業界の経験からすると、フレキシブルディスプレイの歩留まりはどのメーカーも高くなく、30%もあればいいほう」だという。この他、パーツのコスト増の要因となっているのが、主にディスプレイモジュールとヒンジだ。サムスンの折りたたみスマホを例にとると、ディスプレイモジュールはiPhone XSより約65%も高い200ドル以上になっている。それまでのディスプレイはわずか100ドルほどだったから、なんと100%以上の増加率だ。ヒンジに関しては、韓国メーカーの設計案だと150~200ドルほどになるが、中国国内メーカーだと100ドル前後で可能だという。

「折りたたみスマホはまだまだクリアしなければならない課題が山積み。ディスプレイはフォルダブルだが、電子回路基板やパーツ、ICチップはいずれもフォルダブルではない。また、折りたたみスマホの寿命、ディスプレイの引っかき硬度、操作の簡便性などは、技術と市場の両方の面から検証が待たれる」と梁振鵬は指摘する。OLEDフレキシブルディスプレイは家電、IT通信業界に無限の可能性をもたらした。しかし、どの分野にいかに応用していくかについては、さらなる模索が必要だ。


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年8月号(Vol.90)より転載したものである。