「地域が一体化してイノベーションに取り組む」新モデルを模索する合蕪蚌モデル区
2019年8月23日 呉長鋒(科技日報記者)
視覚中国より
安徽省統計局は先ごろ、合蕪蚌(合肥・蕪湖・蚌埠)国家自主イノベーションモデル区(以下、モデル区)建設十周年発展状況を発表した。そのデータによると、2018年、同モデル区が貢献したGDPと財政収入は全省の4割以上、科学技術成果の総数は5割以上、輸出入総額は6割以上を占めた。合蕪蚌国家自主イノベーションモデル区は2008年の設立以来、立地・資源・先行試行政策などの優位性により、体制メカニズム改革を絶えず深化し、自主イノベーション能力を高め、総合力を著しく増強し、安徽省の経済・社会発展にとって顕著な牽引作用を果たしてきた。
発展の動力と源泉―イノベーションを加速
地球から500キロメートル離れた宇宙を世界初の量子科学実験衛星「墨子号」が飛行し、世界初の千キロメートル級量子セキュア通信「京滬幹線」と連携して、北京とオーストリアを結ぶ大陸間量子セキュア電話(大陸間量子鍵配送)に成功したことは、世界を「リード」する中国の量子通信技術というストーリーを紡ぎ、安徽省の量子情報産業を世界へと向かわせた。「墨子号」は、習近平主席の2017年新年祝辞と党の第19回全国代表大会報告でも言及された。これらのモデル区によるイノベーションの成果は、安徽省をイノベーション発展の傑出した代表たらしめた。
科学技術イノベーションについて言うと、独創的イノベーションは「発展の動力と源泉」だと言えるだろう。今年に入ってから、モデル区は独創的イノベーションの面で多くの成果を上げている。1月3日10時26分、月探査機「嫦娥4号」が月の裏側への軟着陸に初めて成功したが、今回の月の裏側探査において軟着陸のキーとなった緩衝ドローバーは、中国科学院合肥物質科学研究院固体物理研究所が提供したものだ。また、今年5月、同院が先頭に立って研究開発した新型「煙霧探査」レーザーレーダープロジェクトは、レーザーレーダーのコア技術が先進国に独占されている状態を打破し、10キロ以内の煙霧の分布をリアルタイムでモニタリングし、その成分を分析することが可能となった。
ヒトのヘルペスウィルスゲノムパッケージングのキーとなるメカニズムの解明から、超伝導量子ビットの量子ランダムウォーク研究へのイノベーション的応用、さらには哺乳動物の視覚の限界を突破した裸眼無電源の赤外線画像視覚センサー実現に至るまで、独創的イノベーションが大量に行われ、その成果が上がっているのは、長期的な蓄積と研究開発投資の継続的強化を行ってきたからだ。
「モデル区の研究開発投資は2008年の1.87%から2017年の2.75%に上昇し、研究開発経費は54億元(1元は約15円)から352億元に増加し、全省における割合は55.2%から62.3%に上がった」。安徽省科学技術庁成果実用化・地域イノベーション処処長の李林氏は科技日報記者に対し、「2018年の時点で、モデル区の1万人当たり発明特許保有量は25.2件に達し、全省平均水準の2.6倍となった。技術受け入れ契約取引額は2015年の163億1千万元から、2018年には232億5千万元に増加し、年平均で12.5%増、全省に占める割合は6割以上になった」と語った。
集団的発展を遂げ、産業の新たな重要ポジションに
合肥市では、スマート音声産業が成長・拡大している。昨年、合肥の「中国声谷(China Speech Valley)」への入居企業は430社に達し、生産額は650億元を達成した。蕪湖市では、ロボットが全市の産業を代表する新たな代名詞となっており、現在では川上から川下までの重点ロボット企業108社が集中しており、昨年は生産額144億元を達成した。蚌埠市では、シリコン新材料産業が力強く発展しており、0.12ミリの超薄型フロート電子タッチ制御ガラスが世界記録を更新し、初めて8.5世代TFT-LCD超薄型フロートガラス基板の国産化を実現させた。イノベーションによる駆動という強大な原動力によって、合蕪蚌産業イノベーションはますます重要なポジションを占めるようになっている。
2008年、安徽省は合蕪蚌自己イノベーション総合試験区建設をスタートさせ、合蕪蚌試験区でイノベーション型産業の高度化、イノベーション型企業の育成、イノベーション型人材の結集、イノベーションの場の構築、イノベーションプラットフォームの構築、イノベーション環境の最適化という「六大プロジェクト」を全面的に実施した。2016年には、国務院の承認を経て、合蕪蚌国家自主イノベーションモデル区は正式に帆を上げて出発し、産業イノベーションをリードする試験区に向かって邁進し始めた。
株式・配当金奨励など一連の制度イノベーションによって、モデル区はイノベーションの活力を解き放っている。近年、モデル区では量子通信や新型ディスプレイなど複数の科学技術重大専門プロジェクトを確定し、世界初の多言語リアルタイム翻訳機が誕生。京東側は10.5世代TFT-LCD生産ラインの生産を開始し、12インチウェハー駆動チップ製造プロジェクトが量産を実現するなど、重大成果の実用化が加速した。総合的国家科学センターと産業イノベーションセンターの建設をめぐって、モデル区は新エネルギー車や新型ディスプレイなどの重大新興産業拠点の建設を加速し、テラヘルツチップや精密医療などの重大新興産業プロジェクトを着実に推進し、量子通信や量子計算、スマートカー、グラフェンなどの重大新興産業専門プロジェクトを組織・実施した。
データによると、2018年末の時点で、モデル区には省級以上のハイテク産業開発区が6区あり、うち国家級が3区ある。ハイテク技術産業基地は14ヶ所で、うち国家級が8ヶ所ある。ハイテク企業は3,080社あり、全省の57%を占めている。昨年、モデル区の年間ハイテク産業生産額と増加値は前年同期比でそれぞれ8.5%、11.4%成長し、全省の49.7%、50.5%を占めた。2018年国家ハイテク産業開発区の総合評価で、合肥、蕪湖、蚌埠のハイテク産業開発区の総合ランキングはそれぞれ全国第8位、第42位、第44位となっており、うち合肥は順位を1つ、蕪湖は順位を5つそれぞれ上げた。
政策による後押し、資源と合わせて優位性を示す
6月28日、モデル区のうち蚌埠区域発展計画専門家論証会が蚌埠で開催され、「合蕪蚌国家自主イノベーションモデル区蚌埠区域発展計画(2019-2025)」が専門家の審査を通過した。蚌埠市常務副市長の鄭東涛氏は同会議で、「モデル区には実質的価値の高い『国家級』という看板がある。この看板をより高く掲げ、より磨き上げるために、蚌埠は自身の優位性を活かし、イノベーション政策を十分に活用し、模範効果をしっかりと用いて、多くのイノベーション的成果を上げられるようにしなければならない」と述べた。
今年に入って以来、中国初の8.5世代TFT-LCDガラス基板生産ラインで生産が開始され、新政策によってバイオベース分解可能新材料を大いに推進しているため、蚌埠市の「イノベーションの城、材料の都」建設は迅速かつ安定して進んでいる。一連のイノベーションに向けた取り組みにより、蚌埠の産業技術イノベーション・科学技術成果実用化センター建設が大きく推進され、「合蕪蚌科学技術イノベーション共同体」の構築が加速されている。
自主イノベーションの強大な原動力により、モデル区は2018年に量子通信、新型ディスプレイ、スマート音声など科学技術重大専門プロジェクト104項目、経費支援1.48億元を確定し、国家重大専門プロジェクトと重点研究開発計画経費支援約3億4,500万元を獲得した。
総合的国家科学センターと産業イノベーションセンターの建設をめぐり、2018年にモデル区は新エネルギー車や新型ディスプレイ、ロボットなどの重大新興産業拠点の建設を加速し、テラヘルツチップや精密医療などの重大新興産業プロジェクトを着実に推進し、量子通信や量子計算、スマート車、グラフェンなどの重大新興産業専門プロジェクトを組織・実施し、イノベーション型現代産業体系の構築のスピードを速めた。
モデル区は地域イノベーション資源の高効率な連動と優位性相互補完の促進に力を注ぎ、研究開発設計、技術移転、起業インキュベーション、検査・検出、知的財産権、科学技術コンサルティング、科学技術金融、科学技術普及など科学技術サービス新興業態を大いに発展させ、クラウドコンピューティングやビッグデータ、モノのインターネット(IoT)、モバイルインターネットなどイノベーション生産サービスモデルを広く運用し、プラットフォーム経済、共有経済を積極的に発展させ、新たな経済成長ポイントを育成している。
統計データによると、昨年、合蕪蚌モデル区の戦略的新興産業生産額の前年同期比成長率は18.3%となり、一定規模以上工業に占める割合は53.2%に達し、合蕪蚌三市の戦略的新興産業への貢献率は46.6%に達した。2008-2018年、モデル区は国家級科学技術奨励を109件獲得し、全省の84.5%を占めた。
※本稿は、科技日報「這个示範区 要探索区域創新一体化新模式」(2019年8月6日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。