済南市、「国家総合科学センター」の創設に注力
2019年10月16日 王延斌(科技日報記者)、王穎莉(科技日報特派員)
院士ワークステーション15ヵ所の新規建設、30人ほどの院士・ノーベル賞受賞者による研究チームの誘致、完成間近の10ヵ所の新型研究開発機関、世界初の量子レーダー、量子スマートフォン、量子チップの産業化― すべては済南市を国家科学センターとする夢の実現のために必要なステップである。
神威E級スーパーコンピュータのプロトタイプの作動状況を確認する作業員。国家スーパーコンピュータ済南センターにて(取材対応者撮影)
国家総合科学センターの実現に向け、済南市は「大いなるギフト」を得る
「斉魯(山東省)科学イノベーション大回廊、国際医学科学センター、量子大科学センター、国家スーパーコンピュータ済南センター等のイノベーションに重要なプラットフォームの建設を加速させ、済南市に情報技術やバイオ医薬等を特色とする地域的な科学技術イノベーションセンターを構築し、国家総合科学センターを創設することを支持する」。このほど山東省は「イノベーション型省づくりを深化させる若干の措置に関する通知」を対外的に公布し、これまでの慎重姿勢を一新させた。上海市浦東新区の張江、安徽省合肥市、北京市懐柔区、広東省深圳市に続き、済南市でも「国家総合科学センターの創設」が明確に打ち出された。
「基礎研究の水準を高め、オリジナリティを強化する」、「世界一流の科学者を集め、一連の重大な科学上の課題や科学技術の最先端のボトルネックを解決する」。これは、国家レベルの総合科学センターを創設する上での出発点であり、立脚点でもある。済南市がこれにこだわるのには若干の事情がある。なぜなら、院士ワークステーション15ヵ所の新規建設も、30人あまりの院士・ノーベル賞受賞者による研究チームの誘致も、完成間近の新型の研究開発機関10ヵ所も、あるいは世界初の量子レーダー、量子スマートフォン、量子チップの産業化も、すべては済南市を国家科学センターにする夢の実現のために必要なステップだからだ。また、それは済南市が世界の科学研究都市トップ100に選ばれた理由でもあり、「グローバリゼーションと世界都市研究ネットワーク」(GaWC)において第2グループに格付けされるための重要な基準にもなるためだ。
しかし、済南市はなぜ、国家科学センターの建設を目標に決めたのだろうか。その意気込みはどこから来るのだろうか。
「先行先試」によって多くの「中国初」が誕生
国務院の承認を受けた山東新旧エネルギー転換総合実験区の先行区として、済南市は「先行先試、先行先改(先行的に試し、先行的に改める)」の責任を負い、全中国の新旧エネルギー転換のために経験を積み、将来性を試すという重責を担っている。
摸索のプレッシャーの元は現実にあり、また歴史にも由来する。先日、中国共産党済南市委員会ビルで開催された「新中国工業档案文献展(新中国工業アーカイブス文献展)」が印象深い。歴史ある工業城市として、済南市で開催されたこの展覧会では、同市の独自イノベーションによる「一番目」のものや「新記録」、「最先端」のものが70件展示され、1000年以上続く歴史ある都市のイノベーション能力の証左となった。展覧会では中国初の5インチモーター旋盤や729型門形平削り盤、中国初の高精度円筒研削盤、中国初のクオーツ時計やマイクロコンピュータが展示された。これら史料が物語り、証明しようとしているのは、済南市は確かにイノベーションに熱意があり、その責を担うことができることであり、イノベーションと創業に長じる都市であるということだ。
精神は受け継がれるものだ。「済南イノベーション」は歴史的に光を放つのみならず、現在も花開き、結実している。筆者が済南市科技局の取材で得たデータも、歴史と強い関りがある。
今年上半期、済南市では山東省重点研究開発計画(重大イノベーションプロジェクト)に244件が採用され、全省一位となった。この中には、中国初の商用化量子セキュア通信専用ネットワークとして、済南市の共産党政府機関における量子通信専用ネットワークの使用開始や世界初の量子レーザーレーダー製品があり、世界で初めて量子暗号鍵を使用した商用セキュア暗号化スマートフォンや独自の知的財産権を持つ量子分野ではコアとなるチップも済南市で開発され、生産されている。また、次世代型の神威E級スーパーコンピュータのプロトタイプが国家スーパーコンピュータ済南センターで正式に使用が開始されている。
「済南市には高等教育機関が52ヵ所あり、大学生が80万人あまりいる。また、企業の研究開発機関が1,024ヵ所あることがアドバンテージとなっている」。済南市の政策決定者によれば、新旧エネルギー転換の要所は「転換」そのものにあり、すべてはイノベーションに左右される。このため、済南市は新たな科学技術革命と産業改革の最先端に照準を据え、国家スーパーコンピュータ済南センターや国家量子バレー、国家知的財産権経営売買センター等のイノベーションのためのプラットフォームを構築し、「政産学研金服用」(政府、産業、学術、科学研究、金融資本、サービス、ユーザー)の7要素による「北斗七星」型のイノベーション創業エコシステムを構築している。
各方面の「大家」を呼び込み、より多くの「オリジナルな」科学研究機関を設置
すでに国家総合科学センターとなっている4都市を分析すると、ある種の共通性があることがわかる。それは例えば国家レベルのラボであり、大規模な科学設備であり、トップレベル人材の集約である。
科学技術イノベーションは都市発展の強大な牽引力である。このコンセンサスにおいて、済南市には優れた財産がある。それは例えば斉魯科学イノベーション大回廊や国際医学科学センター、量子大科学センター、国家スーパーコンピュータ済南センター等のイノベーションの重要なプラットフォームが山東大学や斉魯工業大学等の多くの高等教育機関の国家重点実験室に設置され、多くの院士やノーベル賞受賞者たちがこの地を研究の「戦場として開拓する」ことを選択していることだ。
しかし、済南市にとっては、同市に科学センターを構築し、真にこのような大計画を完成させるためには、これだけでは足りない。それは、見せかけではなく、誠意に満ちた「外部からの誘致、内部の活性化」にあり、それこそが努力の方向性であることを彼らは理解している。
「8年前に中国科学院の量子研究チームによって済南市に量子技術研究院が設置された。当時は量子技術を理解する人はごくわずかで、その将来性は全く理解されなかった。しかし、済南市はその将来を確信して全力でこれを支持し、量子産業をゼロから築き上げ、世界で最先端の一連の成果を上げるまでに育て上げ、産業チェーンを拡大し続けた」。済南量子技術研究院で量子研究を手がける10数名の科学者を前に(山東省委員会常務委員の)王忠林氏が語った言葉が感慨深い。
量子分野とスーパーコンピュータという世界の科学技術の最先端にあり、競争の最も激しい2つの分野において、済南市はブレイクスルーを加速させている。先に述べたように、「全国量子計算與測量標準化技術委員会」(全国量子コンピュータ・測量標準化技術委員会)が済南市に設置され、量子コンピュータや量子レーダー、量子チップの産業化が実現している。また、独自の知的財産権を持つ次世代型の神威E級スーパーコンピュータのプロトタイプが国家スーパーコンピュータ済南センターで正式に使用開始されている。済南市科技局の呂建涛局長が筆者に伝えたところでは、済南市では結晶材料、高効率サーバやストレージ技術等の国家級重点実験室や工程技術研究センター等の各種プラットフォーム・媒体が135ヵ所、省級の院士ワークステーションが84ヵ所設置されている。
独自のイノベーションによって、大量の新技術・新製品が実現した。その例には、世界初の自動運転電気自動車の実用化や直径16メートルのシームレス圧延機による世界新記録の達成、「済南イノベーション」による次世代サーバによる世界最高性能の更新と価格性能比における世界新記録の達成等がある。
今年7月、山東産業技術研究院が済南市に設立され、中国ではちょっとした話題となった。これは、山東省初の、他とは全く異なる「オリジナルな」新型の研究開発機関であり、山東省の「イノベーション駆動型発展の中核となる牽引力」と「制度刷新のモデルケース」という2つの役割を担う。
同研究院の孫殿義院長は、前職の庁官職を辞する以前も中国科学院の複数の研究機関に勤めた経験がある。「大家」という異名のある彼は、科学技術システムの専門分野で長年にわたり研究を深め、技術の方向性と地域のニーズに関して独自の深い造詣を持つ。
最先端技術の構築という新たな高みにおいて、済南市は現在、山東省の産学研が行ってきたモデルを模倣しようと努めている。今年初めに済南市政府は業務報告において、「現代信息産業技術研究院」(現代情報技術研究院)、「量子産業技術研究院」、「超算及人工智能産業技術研究院」(スーパーコンピュータ・人工知能産業技術研究院)、「第三代半導体産業技術研究院」(第三世代半導体産業技術研究院)等の新型の科学研究機関10ヵ所の設置を決定した。
「一事一議」でイギリスの研究者を「済南市民」に
政策の柔軟性を形容する際には、「政策は死したものだが、人は生きたものだ」という言い回しが良く使われる。中国語の「霊活」(柔軟性)という言葉には、責任と知恵という意味が含まれる。
済南市が人材を重視すると共に人材を渇望していること、そして山東省科学院が協力パートナーシップを締結する相手先の専門性を見ると、済南市は確かにイノベーションと創業に最も適した場所だと感じる。5月末のある日、済南市で「一事一議」による、トップ人材によるイノベーション・創業を支持するための調印式が行われた。英国王立工学アカデミーのKenneth Grattan教授や沈昌祥院士が率いる5つの研究チームが相次いで調印を行い、「一事一議」証書と資金を受け取った。
記者の知る限り、今回、済南市は初めて「一事一議」による人材選抜を行った。彼らは学術的にもイノベーション能力の上でも世界的に大きな影響力を持ち、新技術・新産業・新業態そして新たなモデルをもたらし、これまでになかった産業を実現しうる。例えば、Kenneth Grattan教授の製品の生産高は3~5年以内に数十億元に達すると見込まれる。
済南市は、トップ人材に対してプロジェクトへの資金援助から生活面での補助、株式投資、生活保障、創業支援、コンサルティングサービス等による全面的かつ立体的な総合支援を提供する。資金援助の提供総額は合計1億1,900万元に達し、単体のプロジェクトで最高5,000万元の援助が行われる。
「一事一議」には、具体的な状況を具体的に分析するという弁証法的な唯物主義的思想が含まれ、今や済南市の的確な人材誘致における「重量級の武器」となっている。これに加え、ハイレベル人材の誘致における「人材新政20条」等の一連の措置によって、同市の人材誘致は少ない労力で大きな成果を勝ち得ている。
先行して試み、大胆に行う。済南市はいわば「ライフスタイル」を変革し、活力を呼び起こすことによって、急ピッチで夢の実現を目指しているのだ。
※本稿は、科技日報「一改低調形象 済南発力"綜合性国家科学中心"建設」(2019年9月26日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。